トニー賞といえば、演劇・ミュージカル界で大きく注目される賞レースのひとつ。今年で78回目となるトニー賞のノミネーションが、日本時間の2025年5月1日に発表されました。一体どんな作品がノミネートされたのか、詳しくご紹介します。
ブロードウェイの1年間を総括するトニー賞!
「トニー賞」は今シーズンにニューヨークのオン・ブロードウェイで開幕した演劇・ミュージカルを対象に贈られ、アメリカ演劇界で最も権威のある賞と称されます。作品やキャストはもちろん、クリエイティブ・スタッフを表彰する賞も設けられ、ブロードウェイのトレンドを振り返る一大イベントといえるでしょう。
今回の該当期間は2024年4月26日から2025年4月27日まででした。では、第78回トニー賞の演劇とミュージカル、それぞれの部門におけるノミネート作品をみていきましょう。
演劇部門のノミネート作品
【演劇作品賞】※以下、カッコ内は原題
『イングリッシュ(English)』
『ザ・ヒルズ・オブ・カリフォルニア(The Hills of California)』
『ジョン・プロクター・イズ・ザ・ヴィラン(John Proctor is the Villain)』
『オー、メアリー!(Oh, Mary!)』
『パーパス(Purpose)』
【演劇リバイバル作品賞】
『ユーレカ・デイ(Eureka Day)』
『わが町(Thornton Wilder’s Our Town)』
『ロミオ+ジュリエット(Romeo + Juliet)』
『イエロー・フェイス(Yellow Face)』
演劇部門では、2作品が7つの賞にノミネートされました。
1つは、4人姉妹が母親の死に際して過去と向き合う『ザ・ヒルズ・オブ・カリフォルニア』。2019年に『フェリーマン』でトニー賞を受賞したイギリスの劇作家ジェズ・バターワースと演出家サム・メンデスがタッグを組んだ作品です。
もう1つは『ジョン・プロクター・イズ・ザ・ヴィラン』。女子高生たちが、17世紀の魔女狩りに関する実話をもとにしたアーサー・ミラーの戯曲『るつぼ』を現代的視点で再解釈する過程を描いています。

主演男優賞には、ジョージ・クルーニーが脚本と主演を担った『グッドナイト&グッドラック(Good Night, and Good Luck)』で初ノミネート。原作はクルーニーが監督と共同脚本を手掛け、出演もした2005年公開の同名映画です。ブロードウェイ・デビュー作でありながら、演劇作品として週間興行収入の史上最高記録を達成するほど話題を集めました。

また、演劇主演女優賞の候補には、新星とベテランが名を連ねています。配信ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でブレイクしたセイディー・シンクが『ジョン・プロクター・イズ・ザ・ヴィラン』で、数々の映画作品で活躍してきたミア・ファローが『ザ・ルームメイト(The Roommate)』で初めてノミネートされました。
ミュージカル部門のノミネート作品
【ミュージカル作品賞】
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(Buena Vista Social Club)』
『デッド・アウトロー(Dead Outlaw)』
『永遠に美しく…(Death Becomes Her)』
『メイビー、ハッピーエンディング(Maybe Happy Ending)』
『オペレーション・ミンスミート(Operation Mincemeat: A New Musical)』
【ミュージカル・リバイバル作品賞】
『フロイド・コリンズ(Floyd Collins)』
『ジプシー(Gypsy)』
『パイレーツ!ザ・ペンザンス・ミュージカル(Pirates! The Penzance Musical)』
『サンセット大通り(Sunset Blvd.)』

ミュージカル部門では、3作品が最多の10ノミネートを飾りました。
韓国発のミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』は、作品賞や主演男優賞、演出賞、脚本賞などにノミネート。2023年にミュージカル『パレード』でトニー賞のミュージカル演出賞を受賞したマイケル・アーデンが、本作の演出を手掛けています。ヘルパーロボット同士の恋愛を描くSFラブストーリーとして、2016年の初演時には韓国内で大ヒットを記録しました。日本でも、2020年に浦井健治さん主演で上演。日本版の翻訳・訳詞・演出は、先日『四月は君の嘘』『HERO THE MUSICAL』の演出による成果で第50回菊田一夫演劇賞を受賞した上田一豪さんが担当しています。今回のノミネートを受け、日本での再演も期待できるのではないでしょうか。
また、同じく10ノミネートされたのが、キューバの音楽界を舞台とする『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』です。アメリカ人ギタリストのライ・クーダーは、1997年にキューバの老ミュージシャンたちとともにアルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」を制作。世界中で大ヒットし、グラミー賞に輝きました。そんなミュージシャンたちの交流を記録したヴィム・ヴェンダース監督の長編ドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は、第72回アカデミー賞にノミネート。この映画をベースに、ミュージカル版では心躍る音楽で観客を楽しませながら、アルバム制作に参加するキューバ人ミュージシャンの人生を描き出します。本作に出演したバンドメンバーが特別賞にノミネートされているところに、キューバで愛されてきた音楽へのリスペクトを感じます。
そして3つ目の作品が、ロバート・ゼメキス監督による1992年の同名映画をミュージカル化した『永遠に美しく…』。不老不死の秘薬で永遠の美しさを手に入れようとする女性2人の争いを主軸としたブラックコメディとなっています。
主演男優賞の候補での注目は、『ジャスト・イン・タイム(Just in Time)』でアメリカの伝説的シンガーであるボビー・ダーリンを演じたジョナサン・グロフ。昨年『メリリー・ウィー・ロール・アロング』で初めて主演男優賞を獲得した彼が2連覇を果たすのか、結果発表から目が離せません。
主演女優賞では、リバイバル作品の『ジプシー』から、過去にトニー賞を6度も受賞した経歴を持つオードラ・マクドナルドが選出。また、初ノミネートされたニコール・シャージンガーは『サンセット大通り』のロンドン公演でローレンス・オリヴィエ賞を受賞し、本作でブロードウェイ・デビューを果たすという躍進を見せています。さらに、『永遠に美しく…』のメーガン・ヒルティとジェニファー・シマードも2人揃ってノミネートされました。

注目の授賞式は、日本時間の6月9日、アメリカ・ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで開催予定です。ホストには、現在日本でも話題沸騰中の映画『ウィキッドふたりの魔女』で主人公のエルファバを演じる、シンシア・エリヴォが登場。2016年に『カラーパープル』でトニー賞ミュージカル主演女優賞を受賞した彼女なら、きっと素晴らしいオープニングパフォーマンスを披露してくれるでしょう。
ちなみに、授賞式の様子は日本時間6月9日の8時より、WOWOWの生放送・ライブ配信で観ることができます。詳しくは特設サイトをご覧ください。

トニー賞の結果が楽しみなのはもちろんですが、ノミネーションに注目してみると、人気の作品や評価されたキャスト・スタッフがわかって面白いですよ。来たるトニー賞授賞式に向けて、ぜひチェックしてみてくださいね!