俳人・小林一茶の知られざる10年を題材にしたモーリー・イェストンの新作ミュージカル『ISSA in Paris』が、2026年1月に東京、2月に大阪・愛知にて上演されます。
ミュージカル界の巨匠が小林一茶の謎を紐解く!?
5・7・5の17音で構成され、「世界で一番短い詩」ともいわれる俳句。日本独自の定型詩として発展し、今や海外においても「HAIKU」の呼称で親しまれるようになっています。
歴史上で有名な俳人といえば、例えば江戸時代の松尾芭蕉や与謝蕪村、小林一茶らが挙げられるでしょう。なかでも小林一茶は身近な物事をユーモアあふれる視点で捉え、わかりやすい表現によって人々の心に響く俳句を多く残しました。
一方、俳句の道を志した若き小林一茶が「一茶」と名乗って活動するまでに“空白の10年”があったことは、あまり知られていないかもしれません。この10年間の謎に着目したのが、音楽家のモーリー・イェストンさんです。
イェストンさんは、登場人物の感情をドラマティックに表現する楽曲で世界的に高い評価を得ています。ミュージカル『ナイン』と『タイタニック』で、トニー賞の最優秀作詞作曲賞を2度受賞。さらにミュージカル『ナイン』ではドラマディスクアワードの作曲賞・作詞賞を、追加音楽を手掛けた『グランドホテル』ではローレンス・オリヴィエ賞を獲得しました。
そんなミュージカル界の巨匠が関わった作品は、これまで日本の劇場や宝塚歌劇団でも上演されています。2025年7月には彼の作品に縁のある歴代キャストが集結してモーリー・イェストン生誕80周年記念コンサート『Life’s A Joy! Life Goes On!!』~with 20years of Gratitude from Umeda Arts Theater〜が開催されていて、その人望の高さや功績がうかがい知れます。
実はイェストンさんは日本文学に造詣が深く、学生時代には日本文学のハイレベルな翻訳を学んでいたのだそう。その中で、小林一茶の「露の世は 露の世ながら さりながら」という俳句に出合いました。最小限の言葉でありながら、愛しいわが子を失った深い悲しみ、やり切れない思いを強く訴える一茶の句に感銘を受けたことが、イェストンさんが『ISSA in Paris』を創作するきっかけとなったのです。
<あらすじ>
現代の東京に住む、シンガーソングライターISSAこと海人。海人は突然の母親の死から立ち直れず、呆然自失になっていた。そんな中、命の儚さをうたった小林一茶の「露の世は露の世ながらさりながら」の句が脳裏に浮かぶ。また、海人の母は、一茶には消息不明とされる「空白の10年」があり、その期間、鎖国の日本をひそかに抜け出してパリへ行っていたという仮説をたてていた。海人は天才俳人が日本で小林一茶と名乗るまでの「空白の10年」に一体何があったのかを突き止めるため、そして自分自身が前に進むためにパリへ旅立つことを決める。
海人はパリに行き、何を得るのか。そして、小林一茶の10年には何があったのか。2人の青年が時空を超え、パリで出会う、ファンタジー・ミュージカル。
注目の新作ミュージカルを支えるスタッフ
モーリー・イェストンさんが原案と作詞・作曲を手掛けたミュージカル『ISSA in Paris』を日本語で世界初演するにあたり、強力なスタッフが舞台を支えます。
脚本・訳詞には、ディズニー映画『アナと雪の女王』や『塔の上のラプンツェル』の訳詞を務めたことでも知られる翻訳家・脚本家の高橋知伽江さん。オリジナルミュージカルの創作にも注力していて、2025年12月より大阪公演が始まる劇団四季ミュージカル『ゴースト&レディ』では脚本・歌詞を担当しています。
演出を任されたのは演出家の藤田俊太郎さんです。近年の演出作にミュージカル『ラグタイム』や『ジャージー・ボーイズ』、『天保十二年のシェイクスピア』などがあり、2025年には舞台『リア王の悲劇』とミュージカル『VIOLET』の成果により第75回芸術選奨の演劇部門にて文部科学大臣新人賞を受賞。そして何より、本作同様モーリーの作品であるミュージカル『ナイン』で第28回読売演劇大賞の最優秀演出家賞と第42回松尾芸能賞の優秀賞演劇部門を受賞しているとあって、イェストンさんからの信頼も厚い存在です。また、脚本・訳詞の高橋さんともミュージカル『手紙』を共に作り上げた仲。2人でイェストンさんのアイデアをどのように舞台上に描き出すのか、期待が高まります。
現代と過去をつなぐ珠玉のキャスト陣
現代の日本で生きる青年・海人役を務めるのは、海宝直人さんです。子役時代を経て舞台を中心に活動している海宝さんは、抜群の歌唱力と繊細な表現力を併せ持つ実力派俳優。2022年のミュージカル『ミス・サイゴン』や2023年のミュージカル『この世界の片隅に』『アナスタシア』など近年の話題作でも主要な役を務めています。2025年はミュージカル『イリュージョニスト』のフルバージョン上演を果たしたほか、10月には坂本昌行さんとの2人芝居であるミュージカル『マーダー・フォー・トゥ』のツアー公演を完走したばかり。挑戦と進化を続ける海宝さんなら、小林一茶のある俳句に背中を押され、前へ進もうとする海人の心情に寄り添いながら演じきってくれるでしょう。
もう1人のキーパーソンとなる若き日の小林一茶役を演じるのは、岡宮来夢さん。2019年にミュージカル『刀剣乱舞』〜葵咲本紀〜に抜擢されて以来、ミュージカル作品への出演を重ねてきました。ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』や『1789 -バスティーユの恋人たち-』で主演した経験を糧に、“空白の10年”を生きた一茶の人物像に挑みます。
また、2人の日本人がそれぞれパリで出会う女性にも注目です。
小林一茶の謎を追う海人に興味を抱き、協力するルイーズ役には潤花さんがキャスティング。元宝塚歌劇団の宙組トップ娘役であり、直近では2025年の舞台『二都物語』でのルーシー・マネット役が記憶に新しい方もいるのではないでしょうか。フランスと日本にルーツを持つルイーズが独自のダンスパフォーマンスで力強く生きる姿に、海人だけでなく観客も勇気をもらえる予感がします。
そして、18世紀の世界で一茶とめぐり合うテレーズ役を、豊原江理佳さんが演じます。ドミニカ共和国出身でニューヨークへの留学経験もあるという豊原さん。舞台やミュージカルでの存在感を放ち、2025年11月のミュージカル『SIX』の日本版キャストによるロンドン公演にも参加しています。実力を武器に国境を越えて躍進する豊原さんは、舞台女優でありながら密かにフランスの革命運動にも身を投じているテレーズのイメージにぴったりです。
このほか、すでに発表されているキャストは次の通り。
ミュージカル俳優かつダンサーとして幅広く活躍する中河内雅貴さんと、2024年から2005年にかけて『レ・ミゼラブル』にテナルディエ役で出演した染谷洸太さんがダブルキャストで登場します。
また、宝塚歌劇団の退団後もジャンル問わず舞台で多彩なキャラクターを演じ分ける彩吹真央さんと、藤田さん演出による作品への参加経験もある藤咲みどりさんもダブルキャストとのこと。さらに、ミュージカルや2.5次元の舞台の作品に出演している内田未来さんや、数々の舞台・ミュージカルでの実績を持つ阿部裕さんもカンパニー入りしています。
ミュージカル『ISSA in Paris』は2026年1月10日(土)から30日(金)の期間、東京・日生劇場にて上演。その後、2月7日(土)から15日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホール、21日(土)から25日(水)まで愛知・御園座を巡演する予定です。チケットの一般販売は11月8日(土)に始まります。公演に関する詳細は公式HPをご確認ください。
筆者はあらすじを読んで「あの小林一茶がフランス革命期のパリに?!」と驚くとともに、どんな話になるのかとてもワクワクしました。気になる方はぜひ劇場へ!


















