舞台『チェーホフの奏でる物語』では、わたしたちの日常にも通じる「うまくいかなさ」と「おかしみ」が、軽やかな会話劇として描かれています。ただ身を預けるだけで「人間っておもしろい」という感覚を味わえるはずです。

『チェーホフの奏でる物語』のあらすじ

【第一幕】
第一話「くしゃみ」
国立公園省の事務官チェルジャーコフが妻とともに観劇に出掛けたところ、直属の上司であるブラシルホフ大臣と出くわす。絶好のチャンスとばかりに大臣に話かけるのだが、うっかりくしゃみをしてしまい、それが大臣の後頭部に命中。必死で言い訳するのだが、、、

第二話「家庭教師」
住みこみの家庭教師をしている若いユリヤ。女主人は、ユリヤが大人しくて従順なのをいいことに、難癖をつけ、どんどん給料を値切っていく。80ルーブル払うべきところをとうとう10ルーブルにまでしてしまう。そこには女主人のある意図が、、、

第三話「手術」
虫歯に苦しむ教会の小間使いフォンミグラーソフが歯科クリニックに駆けこんで来たが、先生はいない。居たのは留守番をしていた新米助手のクリャーチン。大騒動のあげく、クリャーチンはフォンミグラーソフの歯を抜くが、失敗。最後は奇跡を願い、神に祈るのだが、、、

第四話「誘惑」
人妻の誘惑の名人を自称するピョートル。彼の手法は人妻を誘惑しようと思ったら、必ずその夫を通じて近づくこと。ピョートルは偶然を装い、とある夫に近づき、その妻をほめあげる。夫が家で妻にそれを話すと妻はまんざらでもない。やがて妻がピョートルのもとにやってくるのだが、事態は思ってもみなかった意外な展開に、、、

【第二幕】
第一話「溺れた人」
桟橋を歩く作家のもとに、男が近づいてきていう。3ルーブル頂ければ、これから溺れる芝居をあなたに見せますと。そして海に飛びこみ、段取り通りに進む予定が、、、

第二話「オーディション」
オーディションにきた若い女。受けごたえがチグハグで、どことなく心もとない。しかし、なんとか演技をみせるまでこぎつけ、「三人姉妹」ラストを見事に演じてみせる。

第三話「弱くて無力な生き物」
ここは銀行の役員室。事務のキストゥノフは痛風に悩まされていた。
そこに女性が面会にやってくる。女性は夫が5か月前に病気になり、勤めをクビになってしまった。そこで給料をもらいにいってみたら、夫が前借りをしていたからと減らされたと。不当な扱いをされたと訴える女性をなだめようとするが、さらに女性は騒ぎ立て、、、

第四話「幸せには遅すぎる」
公園のベンチで60代はじめの女性が本を読んでいる。そこを70代はじめの男性が通りかかる。おたがいに魅かれあっていることが歌によって示されるのだが、2人の距離は今日のところは縮まらない。

第五話「大人の階段」
19歳の誕生日のお祝いに、父親が息子のアントーシャのために女性をあてがおうとする。しかしアントーシャは奥手で頼りない。父親はそんなアントーシャを励まし、いかがわしい界隈へ。出会った若い女は30ルーブルというが、19の息子相手にはちょっと高い。父親は若い女と交渉し、20ルーブルで交渉は成立するのだが――。

『チェーホフの奏でる物語』とは?

『チェーホフの奏でる物語』は、『おかしな二人』『サンシャイン・ボーイズ』などを手掛けた、アメリカの劇作家ニール・サイモンさんが1973年に発表した作品です。ロシアの文豪アントン・チェーホフに触発され、彼の短篇集をモチーフに、9つの物語で構成しました。

今回、演劇集団円(えん)の座付き作家である内藤裕子さんが演出を担当します。人間の心の機微や状況を丁寧に描き出し、高い評価を受けている彼女は、どのように名作に挑むのでしょうか?

シンプルな会話劇が俳優を輝かせる

本作には人気と実力を兼ね備えたキャスト5名が集結しました。

1人目はイッセー尾形さん。「一人芝居」の第一人者として、並外れた演技力が日本国外で高く評価されています。「初めて読む短編ばかり。アクの強い人たちが登場して心をえぐります。喜劇とばかり言えないようなツブテの連続に体をさらしてみれば、チェーホフをたぐり寄せられるかも」と、コメントしました。

続いて、抜群の表現力と存在感で、ドラマから舞台まで充実の活躍をみせる安藤玉恵さん。実は、大学時代の演劇サークルがキャリアのスタートでした。『チェーホフの奏でる物語』は、彼女の舞台俳優としての魅力を堪能できる絶好のチャンスです!

3人目は福田悠太さん。4人組男性アイドルグループ「ふぉ〜ゆ〜」として精力的に活動しつつ、まっすぐな役作りとユーモア溢れるセンスで多彩に活躍しています。

本作の台本を読んだ際、「なんて面白いんだろう。こんなにワクワクさせてくれて、笑わせてくれて、かつ人間の弱さや、社会のちょっとした不条理、悲しみと笑いが同居する瞬間があって、言葉のやり取りのスピード感、予想外の展開、、、、、」と強い感銘を受けたそうです。

さらに、舞台だけでなく、映画、ドラマにおいても瑞々しい演技で注目を集めている小向なるさん。「場面ごとに全く違う色を持ち、演じ方次第で大きく変わる戯曲だからこそ、挑戦のしがいがあると感じました。一人ひとりの人物を丁寧に受け止め、舞台上で息づかせたいです」とコメントされていて、お芝居に対する好奇心と誠実さに胸を打たれました。

5人目は松尾貴史さん。数多くの舞台、映画、ドラマなど、幅広いフィールドで、多彩な演技力と飄逸な味わいを発揮し、作品を豊かにする存在です。

「コメディながら、登場人物の内面的な葛藤や成長が緻密で、組み立てたりほぐしたりという作業がすこぶる楽しそうです」「シンプルな設定で展開する会話劇が、役者としてすこぶるやりがいがあると感じます」とのことで、ベテランの心も踊らせる本作に、期待が高まります!

舞台『チェーホフの奏でる物語』は、2026年1月23日(金)から2月2日(月)まで東京芸術劇場 シアターウエストで上演予定です。2月7日(土)・8日(日)には、クールジャパンパーク大阪 TTホールでの地方公演も予定されています。詳しい情報は公式サイトをご確認ください。

さよ

わたしは観劇のたびに、「人ってこんなにも笑えて、こんなにも迷って、こんなにも愛おしい存在なんだ」と思い出させてもらいます。今回の舞台は、まさにその体験そのものになるはず。日常の景色を少し違う角度で見てみたい方に、とてもおすすめしたい作品です。