阪神・淡路大震災でのウォーリー木下さんの実体験から生まれた舞台『1995117546』。大学生たちや猫のポワロ、フランスの探検家など様々な視点から物語が描かれます。本作に出演する須賀健太さん、中川大輔さん、小林 唯さんと、企画・作・演出のウォーリー木下さんにお話を伺いました。
観客と一緒に「同じ夢を見る」。ファンタジックな世界観を織り交ぜたオリジナルストーリー

−まずは本作が上演に至った経緯についてお聞かせください。
ウォーリー「30年前、大学生だった頃に神戸に住んでいて、地震に遭い、6時間生き埋めになる体験をしました。今までは一度もやったことがなかったのですが、最初で最後、自分の体験を本にしてみようかなとトライしました。兵庫県立芸術文化センターが20周年で、阪神・淡路大震災から30年というタイミングが重なり、プロデューサーさんからの後押しもありました。かなり赤裸々に書いているので、気合いを入れないと恥ずかしくなってしまって…毎日気合いを入れて稽古場に来ています(笑)」
−須賀さん、中川さん、小林さんは台本を読んでみていかがでしたか。
須賀「最初にウォーリーさんの実体験をもとにしていると聞いていたのですが、思ったよりしんみりせず、体験談みたいな質感はそこまで強くなくて、読み物としての面白さ、物語の不思議さに目がいったのでホッとしました。やはり震災というのは、やる側にとっても観る方にとってもどうしてもセンシティブなものだと思うので、どのくらい重くするのかなというところが気になっていたんです。だから読んでホッとしたというか、面白くなりそうだと思いました」
中川「以前舞台をご一緒した時にウォーリーさんから震災の体験のお話を聞いていたので、舞台であのお話をやるんだと凄く驚きました。台本を読んでみると本当に被災した方じゃないと書けないようなリアリティがあり、凄く深い部分まで書かれていて、まず読み物として、小説を読むような感覚で面白く読みました。何度読んでも、色々な見方ができる台本だなと思いました」
小林「僕はウォーリーさんとご一緒するのが初めてで、ウォーリーさんの脳内が一体どうなっているんだろうと思いました。震災とは一見関係ないように見えるお話も出てきて、それが重なり合っていくのが凄く不思議で、これがウォーリーワールドか、と。震災をテーマにした作品ですが、シリアスには感じなくて、その時に生きていた人たちを切り抜いたような、色々な人生をオムニバス形式で描いている印象がありました。でもその随所にウォーリーさん体験したからこそ書ける言葉もあり、最終的にどのような形に仕上がるか、凄く楽しみです」
−作品のタイトルは震災が起こった日時、全てを変えてしまった時間であり、そこに時間の感覚について身をもって検証した探検家シフレの物語が入ってきます。ファンタジックな世界観も混ざっていく作品ですが、どのように物語を紡いでいきましたか。
ウォーリー「僕が思う演劇の1つの特色として、そもそも生身の人間が今目の前でやっているということでの良い意味での嘘っぽさがあると思います。どれだけ作り込んだとしても、役者というのは消えきらないまま舞台上にいて、お客さんと一緒に共同幻想というか、同じ夢を見るみたいなところがあって。僕の中では、小説や映画、音楽というジャンルよりも、幅の広い嘘がつきやすいんです。よく言われることですが、ここが海だと言えば海になるというように。嘘をどうやって信じ込ませるかというのが演劇の醍醐味としてあるので、地震のお話だけれども、地震のことに興味がない人たちにとって、何が本当に思えるか。色々な物語を混ぜ込みながらやることで、どこか引っ掛かるものがあると良いなと思いながら創っています」
遊び(play)から演劇が生まれる瞬間

−須賀さん、中川さん、小林さんが演じる役柄について教えてください。
須賀「それぞれ複数役を演じるのですが、僕は稽古をすればするほど、1人しかやらない方向に向かっていますね。本を読ませていただいた段階で、複数役を演じていることの面白さと、メリットデメリットみたいなことを考えた時に、僕は意外とやらない方が良いのかなと思っていたのですが、そうなりつつあります。車椅子の男の役で、専業・ウォーリー木下という感じです(笑)。その分、そこにしっかりといられるように意識しています」
中川「僕はりきゅうという神戸大学に通う大学生の役です。震災を経て人間が変わるような役で、現実とファンタジーの世界を行き来する中で、一番現実世界寄りのキャラクターなのかなと思っています。だから演じる際には当時の大学生としての信頼性を大事に、リアリティある大学生を演じられるように心がけています。関西弁にも挑戦しています」
小林「僕は矢崎という役と、探検家のシフレ、そのほかにも演じます。フランス語を喋るシーンもあります。癖の強いキャラクターばかりで、どれも違うので、それぞれをやる前にチューニングしないと分からなくなってしまうくらい。今までは王子様役とか正統派でやってきたので(笑)、やったことのない役ばかりですが、凄く楽しいですね。普段は変わっていると言われることが多くて、何か変らしいんです(笑)。だからそういう普段の僕を活かしていければ良いなと思います。矢崎は震災で失ったものもありますが、得たものもあって、人生の階段を大きく上がるキャラクターです。みんながそうだったと思いますが、あの経験から色々なものを失って、でも得たものにフォーカスしていけたら良いなと思います」
−稽古場の様子はいかがですか?
小林「ウォーリーさんが主軸にはいらっしゃるのですが、役者からのアイデアもどんどん合わさって作っていく現場で、そういう経験が僕は初めてなので、凄く刺激的です。こうやって作品って創り上げられていくんやなと実感しています」
中川「稽古の最初に、みんなで演出を考えるワークショップがあったんです。台本の3ページを僕が演出するとしたらどうやるか、小道具とかを使って考えて、みんなの前で発表するんですよ。そんなことはしたことがなかったし、そんな脳みその使い方をしたことがなかったので、凄く疲れましたし、演出家さんってこんなことをやっていたんだなと。毎日、演劇部にいるような感覚でした。お芝居をすることの最初の楽しい瞬間、遊びからお芝居が始まるというような楽しい瞬間がありました」
須賀「1ヶ月ちょっとしか稽古期間がない中で、1週間ワークショップをするのはさすがウォーリーさんだなと思いました(笑)。でもそれをやったおかげで、6人のキャストみんなで芝居を作っているという感じが一気に出たし、お互いに芝居のことに対して共通認識を持って作っていくことができるようになったと思います。
僕と(田中)尚輝はウォーリーさんと『ハイキュー!!』でご一緒しているのでこういったワークショップは慣れていたのですが、初日に僕と尚輝、唯さんの3人チームで、途中から唯さんは明らかに焦点が合わない顔になってきて(笑)。“すごいな、2人天才やな”しか言わなくなりました(笑)。でも2日目にはもうフィットして、自分の意思を伝えている様子を見て驚きました。凄く良い時間が過ごせたと思います」
−ウォーリーさんから見て3人はいかがですか?
ウォーリー「3日目くらいからみんな個性が炸裂していましたね。唯さんは稽古場でキャッツ先生と呼ばれています(笑)。身体能力がやはり凄くて、今回はストレートプレイですが、不思議なシーンもたくさんあるので、そこで唯さんの身体能力がいかんなく発揮されていると思います。別のシーンでも動きがもの凄く綺麗で、指先までコントロールできるのが流石ですね。
D(中川大輔さん)は以前一緒にやった時もそうだったのですが、基本破天荒なんです。演劇のこうあるべきということを知らなくてここまで来ている人なので(笑)、なんでもやれちゃう凄さがある。舞台上でこんなコミュニケーションの取り方をするんだ、みたいな。それがハマった時はやはり凄いですね。今回は関西弁にもトライしてもらっていて、それが僕は味わい深くて好きです。
健太は長い間一緒にやっていて、ダントツに体が利く人なので毎回やっぱりどうしても動かしたくなっちゃうんですけれど、今回は車椅子の男にしました。健太が言葉にこだわりを持っているのもずっと知っていて、特に演劇で、舞台上での台詞のあり方については僕なんかよりよっぽど研究しているので、今回は動かないことでよりそれを細かく作っていけるというのが面白く、醍醐味です」
生声で届ける意義のある作品
−本作は兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールと、東京芸術劇場 シアターウエスト、サイズの異なる2つの劇場で上演が行われます。劇場空間に期待することを教えてください。
ウォーリー「この作品を作るにあたって1つだけお題があって、震災をテーマにするけれど、普遍的なお話にきっとなるよねということは言っていたので、色々な場所で上演したいと最初から話していたんです。公民館でもできるし、オペラハウスでもできる、アメーバみたいに縮小・拡大ができるようなものがしたいということを言われていました。まさに今回は全く違う大きさの劇場でやるので、僕の中ではテンション感は変わらずに、どんな劇場でもいけるような仕組みになっていると思います」
須賀「僕が気になるのはDが関西弁で、兵庫の公演があることかな。僕も関西弁はあるけれど3行くらいなので。関西でやるのは怖いよね」
中川「確かに池袋でやるのと兵庫でやるのとでは全然違うと思います。あとはフットマイクのみの生声でやるということなので、生声でやることの意義がある作品だと思うし、劇場の大きさが変わるとどうなるのか、楽しみですね」
小林「僕も生声でやるのは初めてなので、底力を見せないといけないですね」
ウォーリー「でもストレートプレイ初めてで凄いですよ。元々ストレートプレイの人なのかなと思うくらい。ミュージカルに戻れるかな?(笑)」
小林「でもアプローチは変わらないんです。ミュージカルもお芝居ですし、僕はあまりミュージカルでもショーアップしたくないと思っているので。劇場について言うと僕は宝塚で生まれて関西が地元なので、そこで実際に起きた震災についてやると言うのは凄く意味を感じます。どこかで祈りというのを持ちながらやりたいと思います」
−最後にメッセージをお願いします。
小林「少人数で、みんなで色々な役をやって1つのものを作り上げていく、6人で出せる作品のパワーというのを感じてもらいたいと思います。僕個人的には、今まで見たことがない姿が見られると思うので、それを見てもらえたらなと思います」
中川「被災されたウォーリーさんだから書けるリアリティ、深みのある作品ですが、じめっとしていない、最後には希望に向かっていくお話です。出身の違う俳優が揃って、お芝居のテイストもちょっとずつ違っていて、それが色々な世界観が登場するこの作品に合っていると思います。色々な楽しみ方ができる作品になっていますし、稽古序盤のワークショップで考えた演出もちょっとずつ使っていただいているので、それも楽しんでいただければと思います」
須賀「震災を題材にしているということが情報として出るだけで、観るのをやめようかなと思う方もいらっしゃると思います。そういうものであることは重々わかっている上で、やはりそれだけではない作品にしたいと思って毎日稽古しています。しっかり物語として、演劇作品として、良いものをお届けできると思うので、少しでもいいなと思っていただけたら劇場に来ていただければと思います」
ウォーリー「演劇としてやるなら、一歩でも前に行きたいなと思っているので。新しい表現とか、自分たちにとって新鮮なことをしながら、多分見た人がうわっと驚けるようなものになっていると思いますので、エンターテイメントな喜びを欲しい人は、ぜひ来てください」

舞台『1995117546』は2025年12月13日(土)から14日(日)まで兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、12月18日(木)から27日(土)まで東京芸術劇場 シアターウエストにて上演。公式HPはこちら
皆さんがおっしゃるように、最初は震災のお話ということで身構えていたのですが、ウォーリー木下さんらしいファンタジックな世界観と、群像劇としての面白さが詰まった作品になりそうです。取材会でも皆さんがとても賑やかにお話しされ、良いチームワークで作品が創作されている様子が垣間見えました。



















