博多座やキャナルシティ劇場などを擁する福岡県。「ワンシチュエーションコメディ」を得意とする、実力・人気ともに九州を代表する劇団があるのを知っていますか?それが「万能グローブ ガラパゴスダイナモス」です。今回はファン歴9年の筆者が、20周年記念公演&第34回公演『西のメリーゴーランド』について、愛を詰め込んだ観劇レポートをお届けします!
生まれ変わり×ユーモア=『西のメリーゴーランド』
『西のメリーゴーランド』は、万能グローブ ガラパゴスダイナモス(以下「ガラパ」)の第21回公演として、旗揚げ10周年を迎えた2015年12月から2016年1月にかけて、福岡・大阪・東京の3都市で上演されました。脚本・演出を川口大樹さんが手掛け、劇団の原点である「ワンシチュエーションコメディ(1つの場所や状況で物語が完結する形式)」の代表作と位置づけられています。
本作は「SFシチュエーションコメディ」と銘打たれ、生まれ変わり(輪廻転生)をモチーフに、生と死の狭間の世界観と家族の物語を混ぜ合わせたストーリーとなりました。生と死という難しいテーマを、笑いと人情劇の要素が詰まった作品に昇華させたことで、高い評価を得ています。
【あらすじ】
ある通夜の夜。
故人を偲びアルバムをめくり思い出話に花を咲かす。
そんなありふれた夜に紛れ込んでいたのは、生まれ変わりを斡旋すると謳う業者だった。
歪む空間、飛び交う魂。
いつのまにか、あの世とこの世に迷い込んだバラバラの家族。
彼らに残された、家族でいられる最後の時間。
生まれ変わりと親子の絆、輪廻の途中のSFワンシチュエーションコメディ!
黒い服装で行ってみよう
劇場の扉をくぐった瞬間から、物語は始まっている──。ガラパの公演には、いつもそんな期待感があります。でも今回の『西のメリーゴーランド』は、始まりの空気がちょっと変わっていました。
受付に並んでいて、ふと違和感を覚えたのです。いつもなら劇団員や会場スタッフのみなさんは、思い思いの個性的な服装で出迎えてくれます。それなのに今回は全員が喪服。あまりの徹底ぶりに思わず「おお」と声が漏れてしまいました。
ふと自分の服装に目を落とすと、黒のコートに黒のパンツ、黒のスニーカー。……浮かずに済みました(笑)。「お葬式」にまつわる物語だと知ってはいましたが、まさか受付から世界観に引きずり込まれるとは。遊び心と徹底した演出に、開幕前から心を掴まれてしまいました。
家族への心残りが、主人公を苦しめる?
チラシを見る限り、樅山幸音(もりやまゆきね)さん演じる「西崎いつか」が主人公のようです。 冒頭の彼女は、どこかひっそりとしていて影が薄いように感じました。でも、ガラパ特有のはちゃめちゃな展開が転がり始め、うっかりその騒動の「軸」を担わされることになった瞬間から、彼女は一気に主人公としての輪郭を帯びてきます。
樅山さんの演技は、まさに「複雑なお年頃」そのものでした。家族とどう関わっていいかわからず、手探りで距離を測っている女性の機微が痛いほど伝わってきます。 家族からの問いかけに対する、冷たそうだけれど完全には突き放せない、あのもどかしい返事のトーン。会話中、まっすぐに相手の目を見ることができず、なんとなく床や空間の端っこに視線を逃がしてしまう仕草。思春期の自分を客観視させられているような恥ずかしさと懐かしさが込み上げました。
樅山さんは「西崎いつか」というキャラクターを、「誰よりも『家族』に心残りがあるからこそ、半端な現状が許せず、ギクシャクした正義感に苦しめられている存在」として演じているように感じました。
象徴的だったのは、家族が集うシーンです。自分以外の家族が、故人を偲んでアルバムをめくり、思い出話に花を咲かせていますが、少し離れた場所で彼女は雑誌を読んでいました。けれど、その視線はページの上を滑っているだけで、内容はきっと頭に入っていないのでしょう。
家族の輪に入りたいけれど、今はまだ入るわけにはいけない。そこには彼女なりの、まだ言葉にできない理由があるはずです。その頑なさが、物語が進むにつれてどのように溶かされていくのか。それを固唾を飲んで見守る時間は、観客であるわたしたちにとっても、自分自身の家族観と向き合う時間だったように思います。
最後にはキャラクター全員が愛おしくなってしまう
キャラクター同士の関係性も最高でした。主人公に最も大きな影響を与えたと感じたのは、青野大輔(あおのだいすけ)さん演じる「浦田啓介」です。彼は、いつかと母親(西崎今宵、原岡梨絵子さん)との関係を、理屈ではなく感情の爆発で「ギュン!」と更新させるきっかけをつくったと思います。
浦田はちょっと抜けているところもあるけれど、西崎家への想いは誰よりも深く、なんとか役に立ちたいと願っています。そのひたむきさとチャーミングさは、シリアスになりがちな展開における「オアシス」のよう。青野さんのコミカルな演技は過去の公演でも輝いていましたが、今回は特に爆発しており、「これは青野さんのファンがもっと増えるぞ!」と、謎の誇らしさを感じてしまいました。
そして最後に、どうしても触れておきたいのが、私の推し劇団員である野間銀智(のまうち)さんです。 今回、彼女が演じていた「カゴメ」という役は、本当に彼女の魅力を引き出すハマり役でした。部下の扱いに手を焼いて困り果てたり、仕事が嫌すぎて叫び散らかしたり。そのキレのある演技には、働く大人の悲哀と可笑しみが凝縮されています。クライマックスではまさかの展開を迎えますが、それも含めて、個人的には物語の「裏主人公」的な輝きを感じずにはいられませんでした。
ガラパの「扉コメディ」をぜひ目撃してほしい
これから『西のメリーゴーランド』を観る方、あるいは観ようか迷っている方へ、最後にお伝えしたいことがあります。
ガラパに「扉コメディ」をやらせたら、間違いなく天下一品です。 セットにある複数の扉が開いたり閉まったりするたびに、すれ違いが加速し、ドタバタが雪だるま式に膨れ上がり、爆笑の渦が巻き起こります。計算し尽くされたスピード感は、まさに職人芸ですよ。
喪服から始まったこの舞台が、最後にはどんな景色を見せてくれるのか。ぜひ劇場に足を運び、その目で確かめて、思いっきり驚いてほしいです。笑って、泣いて、劇場の扉を出たとき、きっといつもより少しだけ、大切な人に優しくなれると思います。
舞台『西のメリーゴーランド』は、2025年12月25日(木)から28(日)まで下北沢駅前劇場にて上演予定です。2026年2月10日(火)から15日(日)には、福岡市美術館 ミュージアムホールでの地方公演も予定されています。詳しい情報は公式サイトをご確認ください。
一見重いテーマでも「とことん楽しませる精神」で、老若男女関係なく観客を虜にしてしまう。たくさん笑えて心が温かくなって、心にしんみりとした余韻が残る。これこそ、わたしがガラパに心を掴まれている理由です。この冬、みなさんもぜひ、ガラパ流「とびっきりのワンシチュエーションコメディ」を体感してみませんか?


















