KAAT神奈川芸術劇場2025年度メインシーズンのラストを飾るのは、岡田利規さんが作・演出を手がけるKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』。能のフォーマットを応用して描かれる新作です。「円山町」で主役を務めるs**t kingzの小栗基裕さんにお話を伺いました。

イマジネーションが引き出される稽古期間

−本作は霊的な存在がその想いを語る「夢幻能」の構造を借りた作品になっています。稽古に入られていて、作品への印象はいかがでしょうか。
「結構なスピード感で稽古が進んでいて、自分が今までに体験したことのない空気感が面白いです。こういうふうにすると人間の想像力・イマジネーションが引き出されるんだなということを実感しています。よく“役を生きる”と言いますが、そういう感覚だけではない、ある種、演じる側も俯瞰して見るようなアプローチが新鮮です」

−作品タイトルにもある「未練」がテーマになっていますか?
「未練そのものを押し出しているというよりも、“これに未練というタイトルを付けてみたんですけれど、どう思いますか?”とお客さんに投げかけるような感じがしますね。お客様に解釈を委ねる部分も多いと思います」

−身体表現、ダンス表現はどんな世界観になりそうでしょうか。
「脳みそで考えて踊ろうとするとどうしても良く見せよう、スキルを見せようとしてしまうのですが、それがゼロではダメだなと思いつつも、そこだけで作っていくと作品に寄り添えない気がしています。コンセプトだったりアイデアだったりからどう動きに繋げていくか。ただそれを表すのではなく、連想して動きにして紡がれていきます。例えば白というのを踊りで表現するときに、雪とか、連想して動きが繋がっていく。どんどんアイデアを考えながら動いていくのが面白いです」

−s**t kingzのダンスも物語を表現されていらっしゃいますが、それと近しいのでしょうか。
「近しいところもきっとあるんでしょうけれど…s**t kingzではいつもわかりやすさ、誰が見ても楽しめる、ストーリーが何となく理解できるということを意識しているのですが、今回は言葉が導いてくれるので、踊りはそこまで説明しきらなくても良いのかなという気がしています」

見てはいけないものを見ている感覚が生まれる役柄に

−役柄としては女性を演じられるんですよね。
「そうなんです。凄く新鮮です。女性として違和感なく見えては欲しいんですけれども、それを押し出しすぎることはなく、物語に馴染むように心がけています。また夢幻能の主役シテは霊的存在なので、みんなが見てはいけないものを見ているような感覚が、適切に生まれたら良いなと思っています」

−物語の舞台となる渋谷の円山町には訪れられましたか。
「クラブも多いので若い頃からダンスイベントなどでしょっちゅう行っている場所ではあったのですが、本作への出演が決まって改めて歩いてみました。作品で描かれる過去の出来事についても今回初めてちゃんと知ったので、そういったことにも思いを馳せながら。今まで自分が知っていた円山町とは違う表情が見えました。時代と共に新しく綺麗になっている場所もあれば、時間が止まっているような場所もあって、不思議な場所だなと実感しました」

−作品で描かれる出来事について知って、今はどんなことを感じられていますか。
「人を引きつける何かを持っている出来事だと感じます。当時、どんなインパクトがあったのか、本読みで岡田利規さんや片桐はいりさんのお話を伺いました。当時の社会のあり方と、今の社会のあり方は違うので、もしまた同じことが起こっても、きっとまた受け取り方が変わっていくのだと思います。夢幻能の構造を借りることで、当時そのニュースを見た人たちの考えや思いも蘇ってくるような感覚があります」

−演出を手がける岡田利規さんの印象はいかがですか。
「正解が決まっているわけではなく、どんなものが生まれるのか、どうすれば面白くなるのか、常に色々な可能性を探っていらっしゃるような感じがします。それを一緒に見つけようと思わせてくれるし、予想をどんどん裏切られていくので、面白いです。脚本にも深みがあるので、稽古をしていく中で改めて、言葉が持つエネルギーってすごく大きいんだなと感じています」

−音楽劇ということで音楽についても教えてください。
「音楽も不思議ですね。音楽によって何かが引っ張られて、それに合わせて踊ると言葉だけでは生まれないものが更に生まれる感じがありますし、客観的に観たらどうなるか分からないですけれど、ちょっとトリップする感覚に陥るんじゃないかと思います」

「虹」が見える不思議な瞬間も

−本作は能の「夢幻能」の構造を使用していますが、観客も「夢幻能」について予習して行った方が良さそうでしょうか。
「少し知っておいていただけたら面白さが倍増するかなとは思いつつも、知らなくても絶対に楽しめると思いますし、もしかしたら、“なんじゃこりゃ”という驚きや刺激は大きく得られるかもしれません。体系的に捉えず、感覚で捉えるのも面白いと思います」

−KAAT神奈川芸術劇場では、2025年度メインシーズンのタイトルとして「虹~RAINBOW~」を掲げています。本作とリンクする瞬間は感じますか?
「岡田さんはまさに虹を作りたいとおっしゃっています。僕らが虹を作るというよりも、虹を作る環境を成立させることで、そこに勝手に虹が生まれる。虹って、物質があるわけではなく、天候や環境が揃って、光の屈折で生まれるものじゃないですか。物質を出すのではなくて、見える環境を整える。そういう作業をしているような気がします。実際に稽古中に“今、虹が見えたな”という瞬間があって、不思議です」

−ご自身にとっても新たな刺激が詰まった作品になっていそうですね。
「舞台で出来ること、生み出せるものの無限さというのは改めて感じています。今まで自分が見ていた次元からもっと広がっていく感覚は確実にありますね」

撮影:山本春花、ヘアメイク:佐々木麻里子、スタイリスト:大西 力哉
衣裳:ジャケット ¥73,700、シャツ ¥69,300、パンツ ¥62,700 全て、ETHOSENS/ETHOSENS of whitesauce (℡03-6809-0470)

−最後にメッセージをお願いします。
「新体験ができる舞台になると思いますし、感覚として楽しめる作品になっていると思います。感じるだけでなく、何か観た後に残るものも絶対にあると思うんです。それが言葉なのか、映像なのか、全部なのか。分からないですし、僕も何が残ったかを皆さんに教えて欲しいです。どう捉えるか、何が残るかは人それぞれだと思いますし、それで良いと思いますが、“何か”が残る舞台にしたいと思っていますので、楽しみに体験しに来てください」

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物―「珊瑚」「円山町」―』は2026年2月13日(金)から3月1日(日)までKAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて上演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

想像を遥かに超えた作品になっている予感です!観た後にそれぞれの解釈を語り合うのも楽しそうですね。