ソングスルーミュージカル『Ordinary Days』は、2008年オフ・ウエストエンドで初演、翌年2009年オフ・ブロードウェイで上演され話題を呼びました。全編楽曲で進行していき、N.Y.で生きる男女4名の人生の重なる瞬間が描かれています。出演者は4人だけ、演奏もピアノ1台というとてもシンプルな作品です。今回は、プレビュー公演と特別カーテンコールのリポートをお届けします。(稽古場リポートはこちら

何気ない日々と向き合い、描き出される美しさ

ウォーレン役とデイブ役はダブルキャストで、プレビュー公演は、ウォーレン役が小池竜暉さん、デイブ役が斎藤瑠希さんで行われました。NYの街で生きる4人の男女。ジェイソンとクレアは愛と、ウォーレンとデイブは夢と向き合う物語です。

アーティストを目指している青年ウォーレンは、師匠の名言をビラにして、毎日配っていますが、人々からは無視されてばかり。
現代文学の研究をしている大学院生のデイブは、田舎から抜け出したくてNYに来ました。「夢も理想も実現していないだけ!」と、明るく前向き。斎藤瑠希さんのパワフルに感情を詰め込み、言葉を話すように歌う姿が印象的です。

ある日、デイブは卒業論文用にまとめていた大切なノートを落として無くしてしまいます。教授にメールで「提出締切を伸ばしてもらえませんか?」と頼み込むところは、どこの国でも共通の大学生あるあるなのだなぁと思わされます。

©オフ・ブロードウェイミュージカル『Ordinary Days』/曳野若菜

たまたま拾った写真などから、NYで生きる人々のそれぞれの“ストーリー”を見つけているウォーレン。偶然落ちていたデイブのノートを拾い、「これもストーリーだ!」と、メトロポリタン美術館で待ち合わせてノートを受け渡す約束をします。

どこかふわふわとしていて、天然なキャラクターの小池竜暉さんのウォーレンとパワフルな斎藤デイブ。メトロポリタン美術館で初めて2人で会うシーンは、稽古場映像の時からよりアクティブに進化していました!
出会い方に奇跡を感じて「NYおとぎ話」だと浮かれているウォーレンと、そんなことよりも大切な研究用のノートを返してほしい2人の攻防には、クスッと笑ってしまいます。

©オフ・ブロードウェイミュージカル『Ordinary Days』/曳野若菜

一方、ジェイソンとクレアは同棲の準備中。ジェイソンがクレアの家に引っ越してくる形のため、クレアは部屋の片付けをしています。これを機に過去の思い出の物たちを手放そうと思っていても、やはり「捨てる」という一歩を踏み出せずにいます。

「NYでやるべきことリスト 街巡りトップ10」を1年間で1つずつ叶えていった話では、2人の思い出を観客も一緒に辿ることができる可愛らしい楽曲。食事会に向かうシーンでは、ワインの種類で喧嘩をし、渋滞に巻き込まれてしまったタクシーで喧嘩をし、よくあるカップルの喧嘩なのですが、スリリングに、そしてどこかポップに描かれています。

©オフ・ブロードウェイミュージカル『Ordinary Days』/曳野若菜

ノートを返してもらい、カフェでお茶をしているデイブとウォーレン。デイブはウォーレンに「あなたの夢を教えて」と聞きますが、「ない」と答えるウォーレン。この先5年の目標も夢もはっきり決まっているデイブに、ウォーレンは「はっきり決めなくてもいいんじゃない?」と話します。

ウォーレンとデイブは2人で話したことで、お互いの言葉から気づきを得て、自分達の本来やりたいことに素直に向き合います。

ジェイソンとクレアのカップルでは愛情が描かれていますが、ウォーレンとデイブはNYで共に生きる同志のような印象を受けました。2人の行動がジェイソンとクレアにも影響を与えるという構造が、作品に深みを与えていました。

©オフ・ブロードウェイミュージカル『Ordinary Days』/曳野若菜

過去に囚われるあまり、ジェイソンから逃げ出してしまうクレア。本当はジェイソンと共に進みたいと思いながらも、踏み出せない葛藤が描かれています。そんな時、ある光景を目にしたことで、クレアは過去に踏ん切りをつけ、ジェイソンと共に生きる決断をするのでした。夢咲ねねさんの儚さと力強さ、相葉裕樹さんの優しさと包容力は相性抜群。

1つ1つのシーンは、私たちの日常に根ざした何気ない日々なのですが、その中で4人の人生が交わる瞬間が美しく描かれている作品です。

「観劇後に、何か1つでも自分の中で毎日を彩るものを感じ取ってもらえたら」

特別カーテンコールには、プレビュー公演で演じた4名に加え、ウォーレン役のダブルキャストの中本大賀さんと、デイブ役のダブルキャストの浜崎香帆さんが登場しました。

©オフ・ブロードウェイミュージカル『Ordinary Days』/曳野若菜

相葉さんが「ソングスルーミュージカルってそもそもなんだろうと思っていたんですけど、こんなに歌うんだって改めて感じた」と話していたように、全編楽曲で進行していくとは聞いていたものの、その曲数は観客としても驚くほど。


相葉さんは本作の魅力について、「出来事としては何気ないシーンが多い。でも、それを皆様と共有して、何気ない日々こそ美しい、そして尊いということを今一度感じていただけるような作品になっているのでは」とコメントしました。

相葉さんが思う本作の注目ポイントは、ジェイソンとクレアがタクシーに乗っているシーン。普段は仲良しな2人が繰り広げる口喧嘩に注目です!


夢咲さんは、ウォーレンが配っているビラに描かれている言葉が一枚一枚違うため、客席と舞台上の距離が近い劇場だからこそ、何が書いてあるかまで注目してみて欲しいと話しました。

デイブとウォーレンはティーンエイジャーならではの悩みを抱えていて、夢という大きなテーマについて、自分自身を探している人たち。斎藤さんは、劇中でウォーレンの言う「夢ってそこまではっきりしていなくてもいいじゃん」という台詞のように、「夢を探さなくてはいけないのではないかと一生懸命になっている方々に観に来てもらって、肩の力を抜いていいんだと感じてもらえたら」話しました。


小池さんは、ウォーレンやデイブの持つ「夢を追い求めることへの10代ならではの貪欲さを感じてもらえたら」とコメント。

中本さんは、「普段なら流れていってしまいそうな出来事でも、1つ1つを繊細に捉えてストーリーを展開していっている作品。観劇後に、何か1つでも自分の中で毎日を彩るものを感じ取ってもらえたら」と、語りました。

©オフ・ブロードウェイミュージカル『Ordinary Days』/曳野若菜

とても身近で些細な出来事が描かれているため、共感しやすく、あまりミュージカルは観ないという方や、あまり観劇経験がないという方でも楽しめる作品です。

ソングスルーミュージカル『OrdinaryDays』は、2月8日~12日東京・俳優座劇場で、2月18日大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演です。公式HPはこちら

ミワ

現代を生きる誰もが共感できるような悩み事や葛藤と4人それぞれが向き合い乗り越えて進んでいく姿に心が温まりました。歌の力を存分に感じることが出来る作品です。