鈴木保奈美さんが2026年4月より出演するエクストリーム・シチュエーションコメディ(kcal)『汗が目に入っただけ』。2024年に出演した舞台『逃奔政走(とうほんせいそう)-嘘つきは政治家のはじまり?-』に引き続き、アガリスクエンターテイメントの主宰であり脚本・演出家の冨坂友とのタッグが実現します。鈴木さんが冨坂作品に惚れ込む理由とは。そして新感覚の舞台〈エクストリーム・シチュエーションコメディ(kcal)〉とは何なのか?鈴木さんとともに、冨坂さんも取材会に参加してくださいました。

冨坂作品の魅力は「面白さ×言葉への繊細さ」

−まずは本作への出演が決まった時の心境を教えてください。
「私は冨坂さんとアガリスクエンターテイメントの舞台の大ファンなので、出る方に入れていただけるのはいつも楽しみです。(取材時は)台本が出来上がっていないのでどういう形になるか分からないですけれども、幽霊の役なので、浮かんだり、壁を抜けたりしたいな、どうしたらできるだろうか、というのは考えています」

−冨坂さんの作品のどんなところに惹かれていらっしゃるのでしょうか。
「もちろんコメディで面白くて笑えるというのはあるのですが、使われている言葉が繊細で、非常に無駄なく整理整頓されていると感じます。面白さと、言葉に対して真正面から向き合う感覚が組み合わさっているのが見事だなと思っています。
アガリスクエンターテイメントは自分たちで“屁理屈シチュエーションコメディ”と題しているのですが、屁理屈って論理がちゃんとないと屁理屈とは言えないんですよね。文脈がきちっとしていて、ロジックがあって、伏線回収があって。日頃、私たちが何気なく見逃してしまったり、なあなあにしてしまったりしているような言葉に正面から向き合って掘り下げているので、そこがとても好きです。私は言葉が雑に扱われるのがとても嫌なので、そういう意味で、いつもお芝居を拝見していてスッと腑に落ちて楽しいです」

−映像作品を中心にキャリアを重ねてこられた中、近年では舞台作品にも精力的に出演されています。舞台への心境の変化があったのでしょうか。
「若い頃は舞台を観てもあまり面白さを理解できなくて、自分は向いていないのかなと思っていたんです。でも歳をとるにつれて撮影現場でお目にかかる俳優さんたちも劇団を元々やっていらした方や、普段劇場に出ている方が増えてきて、お話を聞いたり、共演をきっかけにその方の舞台を観に行ったりするようになって。改めて舞台を観にいく機会を得て、段々と舞台の面白さが分かるようになっていきました。また仕事を続けていく上で技術や知識が足りないことを感じる中、それを補ったり学んだりできる場所は舞台でのお芝居なのかもしれないと思って、やってみたいなと思うようになりました」

−舞台ならではの魅力はどういう部分だと感じられていますか。
「やはりお客様が目の前にいらっしゃって、生でやるということですね。あとは、お稽古期間があって、何十回、何百回と一つの脚本を試すことができること。映像は映像で一発勝負の良さがあると思っているのですが、舞台では何度も試して、壊しては創って…ということができる。現代では他の分野も含めて、少ないことなんじゃないかと思います。非常に貴重な機会だと思いますし、自分にとってはとても学びになると思います」

鈴木保奈美×冨坂友、新形式「kcal」の実態とは

−本作は新感覚の舞台「kcal(カロリー)」という形式だそうですね。
鈴木「その辺りを説明するために、今日は冨坂さんが来てくださいました」

冨坂「今回の『汗が目に入っただけ』という作品は、とある一家のお話で、お母さんが亡くなってしまい、お葬式をどう執り行うのかに関して家族が揉めていくというお芝居になっています。そのコメディを上演しながら、役者が消費カロリーを競う謎の競技をやっているという二重構造になっています」

鈴木「私で言えば、幽霊となった母親の森井由美子役として舞台の上に存在する私と、それを演じていてカロリーを消費しようとする鈴木保奈美、両方を一緒にお客様に観ていただく形になっています。物語を進めながらも、隙あらばカロリーを消費させようみたいな企みもあると思います」

冨坂「ただあまりにもお話を逸脱し過ぎてしまうと『汗が目に入っただけ』のお話が分からなくなってしまうので、稽古で僕が気を付けるというのもありますし、逸脱し過ぎていないかをチェックする審判という役もいます。よく見るとメインビジュアルも皆さん消費カロリーを計測できるスマートバンドを腕に付けています」

−「kcal(カロリー)」という仕組みはどのように生まれたのでしょうか。
冨坂「僕はシチュエーションコメディを基本的にやってきたんですけれども、以前から海外にある手法で、日本では三谷幸喜さんを中心に確立されており、ただその形式をやるだけで良いのかなというのはずっと思っていたんです。何か変な形でアップデートしよう、というのをこれまでもやっていて、そのうちの1つの試みが「kcal(カロリー)」でした。一度劇団で60分ほどの短い作品をやったことがあったんですけれども、せっかくなら保奈美さんに「kcal(カロリー)」をやっていただきたいなと思い、今回お願いしました」

−鈴木さんは新たな試みをどう受け止められましたか。
鈴木「冨坂さんとご一緒した生ドラ(生放送ドラマ)然り、他の方がやっていらっしゃらないことを、一番に先陣を切ってやらせてもらえるのは、こんなに嬉しいことはないです。追従する方がいれば、“一番は私たちだから”と言えるので、楽しいです。
普段は役柄としてお芝居の中に存在するという作業をしているわけですが、鈴木保奈美として、俳優としてトライしたり焦ったりしている姿がお客様に見えてしまう。でもそこを面白がれたら新鮮ですし、舞台ならではのものだと思うので、面白くなると良いなと思っています。劇場ならではの体験をしていただけるんじゃないかと思います」

−カンパニーの皆さんの印象はいかがですか。
鈴木「ビジュアル撮影の時は皆さん人見知りをしていらっしゃって、“冨坂さんに何をやらされるんだろう?!”という感じがありました(笑)。ちょうど先日アガリスクの本公演『さらば曽古野遊園地』を観劇に行ったら、隣に足立梨花さんと蘭寿とむさんがいらっしゃって、そこでも“体力要る作品になりそう、どうしよう?!”とお話をしました(笑)。明るい雰囲気で創っていけそうなので楽しみです」

冨坂「西野創人さんはキングオブコントのチャンピオンでいらっしゃって、コントのネタを書かれる方でもあるので、めちゃくちゃ緊張します。ごめんなさいって気持ちで台本を出すんですけれども(笑)、演劇というものに期待をされているのをひしひしと感じます。芸人さんは芸人以外の人間が笑いを取ろうとすることに警戒心が強いんじゃないかと勝手に危惧していたんですけれど、西野さんはそんなことはないとおっしゃってくれたので安心しました」

−鈴木さんから見て、演出家・冨坂さんはどんな印象ですか。
鈴木「自分はこうしたいというのがすごくはっきりしていますね。スピード感であったり、ここからここまでの距離を移動して喋って欲しいだったり、物理的な縛りが多いです。私が冨坂さんの演出で学んだのは、普段私たちが芝居をする時、台詞を言う時の役の心情から組み立てることが多いのですが、冨坂さんはスピード感や移動距離、体の距離といった枠から創っていくんです。そうすると動きながら“そうか、こういう気持ちなんだ”と後から発見することがあって。それがとても楽しくて好きなので、もうそこに飛び込んで、言われるがままにまずはやってみようと思っています」

−生ドラでも移動をしながら膨大な台詞を話されている姿が印象に残りました。
鈴木「頭で考えているだけでは絶対に出てこない動きもあるので非常に面白いですね。私自身、動いた方が得意な人間ではないかなと最近思うので、今回も冨坂さんの演出に身を任せて、やってみたいなと思っています」

変化する時代の中、飛び込んでいける自分でありたい

−時代が変わり、エンターテイメントにも変化がある中、第一線で走ってこられた鈴木さんからはどう見えていますか。
「そんなにちゃんと見ているわけではないですけれど、とにかく時代が変わっていって、テクノロジーが変わっていっているので、変化は避けられないし、抵抗をしても仕方がない。ただ私は1人でそこに突っ込んでいくことはできないので、冨坂さんのように色々なアイデアを持った方と組ませていただいて、飛び込んでいきたいと思います。その時、私自身も新しい提案を面白がれるよう、アンテナを立てておくことは大事だと思います。体力的にも、そういうことに参加できる準備はしておきたいなと思います」

−コメディ作品に挑む楽しさ、難しさについて教えてください。
「稽古場で自分が面白いと思っていることを提案して、周りの方に笑ってもらえなければ、自分のセンスってそういうことなんだとズタボロになるので辛いですね。冨坂さんの演出の場は、みんなで言いやすい雰囲気がありますし、アガリスクの劇団の方々もアイデアを出し合いながらいつも進めるんです。だから私もアイデアを出すのですが、それが面白くないと言われた時は撃沈です(笑)。舞台は生なので、稽古場ではみんなが面白いと思っていたことも、お客様に全く伝わらないこともありますし、逆にこんなにここ笑ってもらえるんだ、ということもあります。予定調和ではないところが舞台の魅力の一つでもあります」

−最後に、本作を楽しみに待っている方へメッセージをお願いします。
「新しいタイプのお芝居におそらくなると思いますし、画面の中を見ているだけでは決して体験できない体験を、劇場でしていただけると思います。ぜひ目撃しにいらしてください」

撮影:山本春花、ヘアメイク:福沢京子、スタイリスト:犬走比佐乃

エクストリーム・シチュエーションコメディ(kcal)『汗が目に入っただけ』は2026年4月3日(金)から19日(日)まで東京:IMM THEATERにて上演。4月22日(水)・23日(木)に広島:上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)、5月2日(土)・3日(日)に大阪:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、5月16日(土)・17日(日)に富山:砺波市文化会館 大ホール、5月23日(土)・24日(日)に山形:やまぎん県民ホールにて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

「kcal(カロリー)」という形式がどのように舞台上に現れるのか、とっても楽しみになりました。ポスターをよくよく見ると皆さんスマートバンドを付けていることに気がつきます。そして、なんと鈴木さんの足が…!