緻密で骨太な脚本とストイックな演出の男芝居を貫く劇団「パラドックス定数」。2007年初演の作品を、抜群の安定感で蘇らせました。(2020年12月・東京芸術劇場シアターイースト)
才能に愛され、戦争に振り回された男たち
20世紀初頭のヨーロッパらしき国の学生寮。劇作家、映画監督、芸術家を志す3人の学生が才能を持て余し馬鹿騒ぎをする日々の中、寮の講演会に訪れた学者と芸術家との出会いから、それぞれの人生が大きく動き出します。
芸術の本場パリへ行く者。学生寮に残る者。各々のやり方で夢を追う一方、時代は戦争の足音が近づいてきます。再び5人が寮に集うとき、突きつけられるのは迫害や検閲が道を分断した現実。やがて物語はそれぞれの主観へと入り込み、亡命、銃殺、それぞれの結末と、かつての出会いの記憶が入り混じる混沌の中、幕を下ろします。
緻密な脚本と円熟の演技で魅せるセミ・フィクション
実はこの物語、実在の人物をモチーフにしています。劇作家はロルカ、映画監督はブニュエル、芸術家はダリ(この3人は本当に同じ学生寮にいたのだとか!)、学者はアインシュタイン、もうひとりの芸術家はピカソです。彼らが一同に会するという虚構の設定が、緻密な脚本と円熟の演技で明らかになる展開にぞくぞくしました。
子供のように芸術や科学を夢中で語る前半から一転、後半の、戦争により互いの道が決定的に分かれていく構成も美しく、濃密な男芝居に終始惹き込まれっぱなしの観劇でした。
パラドックス定数は他にも「3億円事件」「東京裁判」など、史実を元にした魅力的な作品が多数。硬派な男芝居にどっぷり浸かりたい方はぜひチェックしてみてください!