10月14日・15日に上演される『あの夜であえたら』。ニッポン放送とノーミーツがオールナイトニッポン55周年記念公演としてニッポン放送から生配信した『あの夜を覚えてる』の続編で、東京国際フォーラム ホールAで開催。ラジオの番組イベントを題材とした舞台演劇であり、生配信ドラマとなっています。作品が生まれた場所でもあるニッポン放送で、本作の製作総指揮を務める石井玄さん、脚本・演出を務める小御門優一郎さん、監修の佐久間宣行さんへのインタビューが実現しました。

ラジオは一回性の賜物。演劇との相性が良い

−オールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』から『あの夜であえたら』へ。石井さんは『あの夜を覚えてる』上演直後に続編の企画を思いついたとコメントされていましたが、どういった構想だったのでしょうか?
石井「『あの夜を覚えてる』の千秋楽が終わって朝4時くらいに撤収して、歩いて帰っているときにはもう考えていました。『あの夜を覚えてる』はラジオ番組そのものが題材だったけれど、番組だとしたらその後イベントやるよなぁと思って、イベントをドラマ化したらどうなるんだろうと思ったんです。翌々日に集まった反省会でみんなに話したら、企画・プロデュースを務めている小野寺正人くんが“僕もそう思ってました”と言ってくれて。その時点で、今の原型はもう出来上がっていましたね」

−石井さんから続編の企画を聞いて、小御門さん・佐久間さんは率直にどのように思われましたか?
小御門「僕はちょっと余韻に浸ろうかなぁと思っていたら、もう次の話が始まってびっくりしましたね。でも『あの夜を覚えてる』は段々作品世界と現実が混ざっていって、お客さんも現実にメールを送りながら作品のパーソナリティとコミュニケーションが取れるという虚実のない混ぜが面白いなぁと思っていました。ですから、番組イベントでもあり作品でもあるというアイデアを聞いた時は、番組イベントが題材ならよりそれが激しく起こるから、面白いだろうなとは思いましたね」

佐久間「僕は当初はなんとなくこれをやろうと思っていますとしか聞いていなかったので、また大変な道を選んだなぁ…という感覚ですかね」

−舞台演劇番組イベント生配信ドラマ…というネーミングは、様々なジャンルの掛け合わせがなされているという意図でしょうか?「舞台演劇」に求めている役割とは?
石井「全部入れただけなんですけどね(笑)。今までやったことがないものでジャンルがないから、伝える方法がなくて、全部言っています」

小御門「本当は生ドラマという言葉だけでもカバーできているのかもしれないのですが、それだと魅力が伝わりきらないので、全部乗せになりました。前作は最終のアウトプットは配信なので映像ではあったのですが、生配信でやるということは一連でやらなきゃいけない一回性が演劇だなぁと思っていましたし、劇場で演劇見ている時のような緊張感は配信でもあったので、演劇なのだと思います。今回は舞台があるので、より舞台演劇であり生配信ドラマになっていますね」

佐久間「前作で一回性の演劇としてのリアリティを飛び越える瞬間をちゃんと作っていたので、普通のドラマではなかったなと思っていて。そのマジックはみんな今回も意識して作っているので、生配信のドラマを観ているのとは違う、演劇的なリアリティラインを超えていく瞬間は今回も感じられると思います。それと何よりラジオとの相性の良さ。ラジオは一回性の賜物なので。舞台は観客がいて、ラジオはリスナーがいて、完成品を届けるのではなく一緒に完成品を作っていくという感覚は、今回の作品でも出てくるんじゃないかと思っています」

リスナーとのラジオ的コミュニケーションを作中でも実現

−東京国際フォーラムホールAの舞台だけでなく、楽屋やロビーなど色々な場所を使う…ということですが、どういった仕掛けがありそうでしょうか?
小御門「かなり色々な場所を使います。楽屋も客席も、ロビーやエントランス付近も使おうと思っているので、お客さんは“さっきチケットをもぎってもらったエントランスがもう使われているじゃないか”という感覚も味わいながら見られる作品にしたいと考えています」

石井「半分以上のキャストがスタッフを演じているので、客席にキャストが来て演技していることも多いと思います。イベントの時ってよくニッポン放送まで忘れ物を取りにいったりするので、ニッポン放送も使いたいなぁと今のところは思っていますね」

−リアルに番組イベントで起こる出来事が反映されているのですね。
石井「そうですね。佐久間さんに取材して、番組イベントやった時のエピソードを入れ込んだりもしています」

小御門「佐久間さんには、“佐久間宣行”として出ていただきたいという思いもありまして…」

石井「まだちゃんとオファーしてないんですけどね(笑)。了承はまだ得てないです(笑)。でも現実の人が出てくるのもこの作品の魅力なので、実在の人と作品のキャラクターとが一緒に存在するというのはやりたいところですね」

−本作では現実とフィクションが混ざり合うというのがポイントになってきますか?
小御門「前回やってみて観ている人たちの一番熱が高かったのは、パーソナリティ・藤尾涼太というキャラクターに実際にメールを送って、それに対してアドリブでそのメールにアンサーする部分でした。ラジオ的コミュニケーションをフィクションの作品の枠内でやれたことが面白かったなとやってみて気づいたので、続編はそれを強く意識しています」

−観客の参加度が重要になってくるということでしょうか。
小御門「そうですね。今回は特に番組イベントということで、番組イベントって“分かってるヤツ”しかいない異常な場所だと思うので、そこはフィクションながら再現したいです。佐久間さんのイベントに行くと、生粋のリスナーばかりなので、少しの導入台詞だけで“あのコーナーのアレじゃん”とクスクス笑いが起きたりするんです。あまり演劇では見ない光景ですよね。しかも同じタイミングで笑うので、客席のお客さん同士も“分かってるヤツしかいないんだ”という連帯感があります。そういった番組イベントにしかないパワーを借り受けられたらいいなと思います」

佐久間「番組イベントには独特のパワーがあるんですけど、それを生ドラマと組み合わせるというのは実際に会場にいる人たちがどういう気持ちになるのかは、やったことも見たこともないので、どうなるんだろうなとは思っていますけどね。新しい試みなので、面白いですよね」

−番組イベントとは、パーソナリティにとってどのような時間ですか?
佐久間「番組イベントってパーソナリティにとってはご褒美みたいなものなんです。イベント終わった後に毎回思うのは、“ちょっと調子乗らないようにしよう”ということなので(笑)。達成感が出ちゃうから」

石井「何言っても笑ってくれる人たちが1万人近く集まりますもんね」

佐久間「そうそう。だから調子狂っちゃうんです(笑)。ただ僕はコロナ禍で打ち上げがなかったので、日常にすぐ戻れたのが良かったですね(笑)。大きな打ち上げやって達成感持っちゃったら、2〜3週間はフォーム崩したんじゃないかなと思うくらい、番組イベントは特別なものです」

好きなものを続けるために、出来ることとは

−生でやりながら配信も行うというのがノーミーツならではの見どころでもありますね。
小御門「そうですね。結成当初から配信は大事にしています。配信だから拾える芝居や距離感もあるので。普段演劇は自由にお客さんが肉眼でフォーカスを変えながら観ていますが、カメラなどの機材のパワーを借りて芝居の注目度をコントロールできることは良いことでもあると思っているので、どちらとも楽しんでもらいたいなと。なので会場と配信のセットチケットを推奨しています」

−でも生での見せ方も配信での見せ方も追求していくとなると、かなり大変な作業ですよね。
小御門「はい。それはもう1人ではできないので、色々な方々の力を借りながらやっています」

石井「映像監督の宮原拓也くんもいますし、様々なスタッフが結集して作っています。脚本の相談も既に佐久間さんに5回くらいしています(笑)。多すぎて話と違うんじゃないかって思われているかと…(笑)」

佐久間「それはそう。後で問題にしようと思ってる(笑)。前回は総合演出だから全然良かったんですけど、今回は”忙しいから監修で良いですよ”ということだったのに、脚本の打ち合わせの数が増えてない?(笑)」

石井「前回より難しいから、相談が増えてます(笑)」

−佐久間さんはそこでどういったアドバイスをされているのでしょう?
佐久間「前回あったラジオというものの捉え方でみんな気持ちが一つになれた部分を、今回イベントという要素が入ったので、どこにフォーカスを合わせて気持ちをグッと高めていくかという部分について、みんなで凄くディスカッションしました。でも良いバランスになっていると思いますよ」

石井「佐久間さんは物語も考えられるし、パーソナリティでもあるし、テレビやイベントの演出もやっていて、網羅しているので、相談するポイントがいっぱいあるんですよ」

小御門「そんな人いませんからね。イベントの出役すらやっているので」

石井「プロデューサーも、パーソナリティも、どの登場人物の状況も分かる人なのでそれはもう聞きますよね(笑)」

−本作で描きたいこと、テーマにしていることを教えてください。
小御門「好きなもの・ことの継続性みたいなものをテーマにしたいなと。前作『あの夜を覚えてる』はラジオの原体験に訴求するというか、“こういうことがあったからみんなラジオ好きなんだよね”というのがテーマになっていたのですが、今回は番組イベントという、普段の放送よりもビジネス臭のする題材でもあって。自分たちの好きなラジオを続けていくためには、イベントを含めてあの手この手で収益も作らないといけない。リスナーにしても、好きな番組が終わってしまう時、“どうしたら続けられたのかな”と考えることもあると思うので、そこをテーマとして重点を置いていきたいですね」

佐久間「今日(取材時点)最新の脚本を見て、今描こうとしているものが実現できたら凄いことになるんじゃないかなと思える脚本だったので、ここからが勝負ですね(笑)」

石井「設計図が出来たところで、どう船を作るかはこれからですね(笑)。好きなものってみんなあると思うんですけど、それが終わってしまう瞬間って同時に持っているから。ラジオ番組が終わることってかなりリスナーにとって辛いことで、パーソナリティもスタッフもみんなそうなので、そういう時にどういう気持ちになって、そこから先どうすればいいのか、その答えが今回見えれば良いなと思っています。作品を見終わって、もう一回またラジオ聞いてみよう、好きなものを応援してみようと思ってもらえたら。ぜひ生で、会場でその空気感を体感してもらいたいです」

『あの夜であえたら』は10月14日・15日に東京国際フォーラム ホールAで上演。配信での視聴も可能です。詳細は公式HPにてご確認ください。

Yurika

リスナーからも、出演者やスタッフからも愛され続けるラジオ番組オールナイトニッポンだからこそ実現した新たな企画。番組イベントが題材ということで楽しいテイストなのかと思いきや、“ラジオを続ける”ということの難しさ、今ある番組への尊さを感じる作品となりそうです。