英国の劇場で上演された演劇作品を世界の映画館で上映する取り組み、ナショナル・シアター・ライブ(以下、NTLive)から、この9月に新作が公開されます。1968年のアメリカを舞台に、テレビでの政治討論番組が巻きおこす社会現象を描いたドラマ劇、『ベスト・オブ・エネミーズ』です。

2023年上演の注目作品が早くも登場!

©️Johan Persson

NTLiveの新作『ベスト・オブ・エネミーズ』が9月8日(金)より、TOHOシネマズ日本橋ほかで公開されます。2023年2月までロンドンのノエル・カワード劇場で上演されていたこの作品。1968年、アメリカ合衆国大統領選におけるゴア・ヴィダルとウィリアム・F・バックリーJr. のテレビ討論を基に、政治思想をめぐる激論がアメリカ社会に波及していくさまを描いています。

2015年にアカデミー賞ベストドキュメンタリーの最終候補に選ばれた映画『BEST OF ENEMIES』に着想を得たジェームズ・グレアムの脚本と、ダイナミックで緊迫感あふれる舞台に仕上げたジェレミー・ヘリンの演出。各誌の演劇評論にて5つ星評価を獲得するなど、ロンドンで大好評を得た注目の作品がいよいよ日本公開です。

アメリカ大統領選の「定番」のはじまりを描く

©️Johan Persson

『ベスト・オブ・エネミーズ』の舞台は、泥沼化するベトナム戦争を抱える、1968年のアメリカ。公民権運動、フェミニズム運動とリベラルな思想が勢いづくなかで、次期大統領をめぐる選挙戦が始まります。

選挙戦に便乗して視聴率を稼ぎたいテレビ局ABCネットワークで、保守派の有名人とリベラル派の有名人を番組内で討論させるというアイデアが出されます。出演者として白羽の矢が立ったのは、狡猾な保守派の理論家ウィリアム・F・バックリーJr.と、舌戦では負けないリベラル派の作家ゴア・ヴィダル。毎晩放送されるこの画期的な選挙番組は、みるみるうちに国民の話題をさらい、保守派とリベラル派の討論は世間の大きな反響を呼びました。ウィリアムとゴアが互いの信念を否定し、中傷し、テレビに映るふたりの口から出た言葉が、国民の政治判断を左右する。アメリカ政治とテレビメディアのパワーバランスが、新たな境地へと移っていくまでの過程を鋭く描き出した作品です。

社会課題の解決を訴えているようで、政敵の足を引っ張るような中傷合戦ショー。日本に住んでいると日頃目にする機会はないかもしれませんが、2016年の大統領選結果を知る人ならば、おそらく多くの人が目にしたことのある光景でしょう。今も続くこのアメリカ大統領選の「定番」のはじまりの物語は、何か、気づきを得るきっかけとなるのではないでしょうか。

NTLiveの新作『ベスト・オブ・エネミーズ』は9月8日(金)よりTOHOシネマズ日本橋とシネ・リーブル池袋(東京)、TOHOシネマズららぽーと横浜(神奈川)、TOHOシネマズ赤池(名古屋)、大阪ステーションシティシネマ(大阪)、中洲大洋劇場(福岡)にて上映。10月6日(金)からはシネ・リーブル神戸(兵庫)、アップリンク京都(京都)にて上映されます。上映時間は約180分。詳細はNTLiveの公式ホームページからご確認ください。

Sasha

ドキュメンタリー性の高い題材ですが、現地の劇評では、俳優や舞台美術、演出により、演劇作品としての面白みをしっかり味わえる作品であることが伺えます。演劇もメディアのひとつであるからこそ、社会への投げかけが出来る。そんな演劇のチカラを感じられる作品なのではないかと期待しています。