9月13日(水)から有楽町よみうりホールにて開幕する舞台『ロミオとジュリエット』。数々の話題作に引っ張りだこの高杉真宙さんと、『ソロモンの偽証』で鮮烈なデビューを飾って以降、存在感を放ち続ける藤野涼子さんが初共演となります。勢いと確かな実力を併せ持つ2人は、名作にどのように向き合っているのでしょうか?2人へのインタビューが実現しました。

念願のシェイクスピア作品出演に「思わず声をあげて喜びました」

−『ロミオとジュリエット』、出演が決まった時のお気持ちは?
高杉「演劇に関わる仕事をしている上で、本格的なシェイクスピアの作品はいつか出てみたいと思っていました。中でも『ロミオとジュリエット』はやってみたい作品だったのですが、ロミオとジュリエットは10代の設定で、27歳になってもう難しいと思っていたので、ロミオのお話をいただけて本当に嬉しく思っています」

藤野「私は以前『ジュリアス・シーザー』(2021年)にポーシャ役で出演させていただいたのですが、出演時間としては短く、シェイクスピア作品にほんの少し触れられたかなという感覚でした。なので今回『ロミオとジュリエット』のジュリエットとして、シェイクスピア作品に対峙できることが不安で怖い気持ちもある一方、凄く嬉しかったです。ジュリエットは女優として誰もが一度はやってみたい役だと思いますし、演じられる機会を与えてもらえたことに感謝しています。出演が決まった時は思わず声をあげて喜びました」

−高杉さんから見て、藤野さんの印象は?
高杉「今回初めてお会いしたのですが、お会いした時からお話がしやすいなと思っていました。稽古が始まってみると、優しい雰囲気を纏っている中に力強いエネルギーを持っているのを身近で感じていて、藤野さんとジュリエットはとても合っているなぁという印象です」

藤野「嬉しいです!」

高杉「あと凄く真面目ですよね。藤野さんが台本にびっしり書いているのを見て凄く焦るんです(笑)」

藤野「不器用なので、人一倍努力しないといけないんです。同世代の人たちと作り上げていく作品なので、刺激し合いながら作っていっていますよね」

−藤野さんから見た高杉さんの印象はいかがでしょうか?
藤野「話していてもお芝居をしていても、凄く素直で、気持ちを自分の実感で放てるし表現できる方なんだなと思っています。私が届ける思いや表現によって高杉さんのお芝居が変わりますし、自分の観点を持ちながらお芝居として昇華できるところが素敵で羨ましいと思う部分です」

台詞を言いながら、“ロミオ、そうかもね”と共感しています

−お二人が考える本作の人物像を教えてください。
高杉「ロミオは気持ちの上下が激しい、自分の感情に真っ直ぐな人物なんだろうなと思います。好きになったらとにかく好きなんだという情熱があって、真っ直ぐすぎるからこそ、僕は“本当にこの子はアホだなぁ”とも思いますね」

藤野「『ロミオとジュリエット』の登場人物たちはみんな欲望に忠実ですよね。だから私たちが演じた時に、真っ直ぐだと感じるんだろうなと。現代でここまで熱量を持っている人にはなかなか出会えないからこそ、シェイクスピアの作品を通して、やっぱりなにか1つの事に熱を持って向かっていく人は魅力的で、羨ましいなと感じます」

−実際に稽古場で口にしたり耳にしたりして、共感できる、胸に刺さった印象的な台詞があれば教えてください。
高杉「“ジュリエットは太陽だ”という台詞が凄く好きで、そういうものなのかなと思います。好きな人だったり、ものだったり、動物だったり、自分が好きだと思ったものに対して“太陽”だと表現するのは、“そうかな”と。この作品は、詩的な表現を凄く純粋に真っ直ぐ受け取れる気がします。僕は台詞を言いながら、“ロミオ、そうかもね”と共感しています」

藤野「不思議ですよね。普段はそういうことは言わないし考えないけれど、確かに恋をすると相手の声だけ特別に聞こえる。ロミオを引き止めようとしてジュリエットが(朝を象徴する)ヒバリの声をナイチンゲールだと言う気持ちもよく分かる。一見言葉が難しく見えるのですが、読み解いていくうちに共感できます」

高杉「そういう台詞が多いですよね。それが文学的なんだと思うんです。難しく聞こえるけれど、誰もが共感できる感情なんだと思います」

藤野「だからそれを求めて作品を観に、劇場を訪れるんでしょうね」

高杉「自分にない表現を手に入れられる機会ですしね」

2人が理不尽と戦えていたら、結末は変わっていた

−本作は家族の敵対によって起こる悲劇というだけでなく、大人の犠牲になる若者という一面もあります。大人たちの言動について、ロミオとジュリエットとしてどのように感じていますか?
高杉「ロミオはあまり大人に関わる機会がないんです。両親と話すシーンもなくて、唯一関わるロレンス神父は大人というよりも親友みたいな存在。ただ、大人は大きな障害という気がしますね。大人は、自分たちの恋を邪魔する障害。ロミオは大人たちのいざこざに関してはあまり興味がないんですよね」

藤野「バルコニーシーンでもジュリエットは誰かに見つからないかと心配しているのに、ロミオは気にしていないですよね」

高杉「優先度が低いんでしょうね。もうジュリエットが好きだと思った瞬間に、その気持ちがてっぺんまで超えちゃうから、それ以外のことは気にならないのかなと僕は感じています。ただロミオとジュリエットの2人が大人だったらこのお話の結末は違っただろうなとは思います。10代だったから、悲劇になってしまったんじゃないかと思っています」

藤野「20代だったらまた考えが変わりますよね。冷静に考えて家柄のことも配慮するかもしれないけれど、10代で世間のこともよく知らなくて、責任もないからこそ自分の想いだけで動いたのかなと思います。ロミオと比べるとジュリエットは父親と対峙していて、大人や社会に対する理不尽さを1番感じているキャラクターなのではないでしょうか」

高杉「確かに、子供にとっての大人は理不尽なんだと思う。だからロミオは戦わない。でも2人が理不尽と戦えていたら、もう少し上手く行っていた可能性があるよね。戯曲って“なんであの月が手に入らないんだろう”と考えるような世界だから、その月がロミオにとっては手の届かない理不尽なものが大人だったのかなと思いますね」

藤野「密かに恋を進めるんじゃなくて、もし理不尽な大人と戦えていたら…ということですよね」

高杉「うん、理不尽と戦えなかったから最後の結末があるんだと思う」

−演出家・井上尊晶さんから言われて印象に残っていることはありますか?
高杉「“言葉を信じなさい”と言われたのは、本作を演じる上でも、これからの人生においても肝に銘じておこうと思いました。あとは“文学に負けるな”という言葉ですね。感情が先に出るんだったら台詞は必要ないから、台詞と同時に感情が出るのが理想的で、稽古の現段階では台詞を言った後に感情を追いつかせようとしています。それが1番僕の中でやってみていることですね。もっとやらなきゃいけないと思っているのは、相手の台詞を聞くということです」

撮影:山本春花

藤野「凄く分かります!台詞が多くて表現しなきゃいけないことが多いから。リズムも大事な作品なのですが、私独自のリズムになり過ぎてしまっている気がします」

高杉「僕はそれが良いと思うけどな」

藤野「でも句読点のリズムを忠実に表現しているロミオを見ていると言葉の意味が分かってくるので、リズムってこんなに大切なんだなと思いました。私も見習ってこれから頑張っていきたいです」

高杉「僕もまだまだです!でも言葉を大事に、演じていきたいですよね」

舞台『ロミオとジュリエット』は9月13日(水)から24日(日)まで、有楽町よみうりホールにて上演。そのほか、大阪、富山、愛知、福岡、仙台でも上演されます。スケジュールの詳細は公式HPをご確認ください。

Yurika

ロミオとジュリエットの言葉と感情に正面から向き合い、作品を深めていくお二人の真摯な姿が印象的なインタビューとなりました。