9月12日(火)から東京・よみうり大手町ホールで開幕するミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』。脚本家の高橋亜子さんと演出家の鈴木裕美さんが6年もの歳月をかけて創られた日本のオリジナル作品です。1960年代のパリを舞台に、画家のアンドレ・デジールに憧れる青年エミールとジャンが出会い、贋作ビジネスに巻き込まれていく様を描きます。音楽を担当するのは清塚信也さん。まだ全貌が見えていない注目作について、演出家・鈴木裕美さんと、主演のウエンツ瑛士さん、上山竜治さんへのインタビューが実現しました。

異なる才能を持つ2人の友情と、有名画家の“最後の作品”を巡るミステリー

−数年かけて構想を練られたと伺いました。色々な理由があると思いますが、なぜこの題材を選ばれたのでしょうか?
鈴木「オリジナルで新作ミュージカルを作ろうと、高橋亜子さんとの打ち合わせが6年くらい前に始まりました。打ち合わせの前に、亜子さんが贋作に関するドキュメンタリー番組をご覧になっていたんですよ。それで贋作を題材にしてみたいというお話になり、贋作というキーワードからストーリーについて話し合っていきました。最初は騙しあいゲームのような内容だったのですが、ある時に亜子さんから“どうしても共鳴がやりたい”と言われ、贋作と共鳴を組み合わせて物語を作っていきました。お話を作るまでに足かけ4年くらい打ち合わせを重ねています」

−ウエンツ瑛士さんと上山竜治さんが演じるキャラクターについて教えてください。
ウエンツ「エミールは、色々なものを抱えている役で、ある種、自分に近しいものを感じます。自分の人生や職業には、やりたいことと、天から授かったやるべきことがそれぞれあって。僕の自覚としては職業を選択したと言うよりも、ある時からやっていたものなので。その中で喜んでくれた人の顔や、良い思い出が常に付き纏う感覚を持っているエミールに共感しています。外から見ると孤独や悲しみを抱えているように見えるけど、本人の中ではまた少し違う、複雑さを抱えている人物だと思っています」

上山「ジャンは、影がありながらも明るく生きてきた青年ですね。人懐っこくて。崇拝するアンドレ・デジールという画家をとにかく愛している人物です」

鈴木「エミールは“才能のある困ったちゃん”で、トラウマも抱えていることもあって“かまってちゃん” “困ったちゃん”なのに、自分がそうだとは多分気づいていないですね。ジャンは絵の才能はゼロだけれど、コミュニケーション能力に長けていて、人に寄り添える人です」

−本作の演出のキーポイントは?
鈴木「異なる才能を持った2人が一緒になって絵を描いていく友情と、2人が憧れている画家アンドレ・デジールの最後の作品がどんな作品だったかというミステリーの2つ流れのある物語です。登場人物達の気持ちを、あまり加工せずにお届けできればと思います。あとは清塚さんの楽曲が素晴らしいので、ミュージカルとしての楽曲の美しさをお届けしたいです」

−ウエンツさん上山さんは、鈴木さんから言われて印象に残っていることはありますか?
ウエンツ「今回Wキャストでエミールとジャンを演じますが、“4人が素敵に見えているよ”と言われたことですね。僕は自分の役の中でどうお客様に伝えるかという視点しか持てないので、客観的に作品が届いているかだけではなく、“素敵に見えている”と言われたことにほっとしました。その言葉を求めていたわけではないけれど、お客様にご覧いただく前に言われて、とても安心したし嬉しかったです」

上山「僕は不器用なので、とにかくミスがないようにと思っているのですが、裕美(鈴木)さんは役者の心情や感情の流れをとても大事にしてくださいます。“感情がこういう風に流れていないから、通っていないんじゃない?”と尊重しながら導いてくださるんです。この作品も自分を認めてもらう、認め合うということがテーマの1つにあり、同じことを鈴木さんに感じるので感謝していますね」

清塚さんの音楽に惚れながら進んでいった感覚

−楽曲も公開され、話題を呼んでいます。清塚さんが手がけた楽曲の魅力についても教えてください。
上山「稽古場に楽曲が来るとプレゼントの箱を開けるようにウキウキした気持ちで聞いていて、曲が上がるたびにみんなで“天才だ…!”という声を挙げていました。清塚さんの音楽に惚れながら進んでいった感覚があります」

鈴木「清塚さんはものすごく頭の良い方で、戯曲の読解力がめちゃくちゃ高いんです。まず戯曲に対して、亜子さんや私にいただく質問が的確ですし、キャラクターの心情を理解したらその心情のまんまの楽曲が出来上がる。役の感情に寄り添い、登場人物たちの繊細な気持ちをそのまま音符にしてくださるんです」

ウエンツ「歌うだけで音符に乗っていけば、お客様にそのままをお届け出来る素晴らしさと、楽曲の難しさが同居していて、歌っている最中に自分で足を踏み外した時はそれが如実に出てしまうような繊細さがありますね。亜子さんの脚本も裕美さんの演出も繊細なので、道のり全部が5cmくらいの平均台をダッシュで走るような(笑)。それにやりがいも感じます。清塚さんの楽曲は、役にとっての心情と、お客様にとっての気持ちよさの2つの視点が織り込まれているので、それがすごいことだなと思います」

−本作でどのようなメッセージを届けたいですか?
鈴木「人間関係って面倒で、人間の悩みのほとんどは人間関係ではないかと思うのですが、それでも“人間関係は素敵だ”ということをお伝え出来たら良いですね。エミールとジャンの2人は少し子供っぽくて、その姿を通して“自分もあの人にああいうこと言っちゃったな”とか思いながら、人と人の関係から得られるエネルギーを感じていただきたいです」

ウエンツ「人との繋がりを感じる作品で、僕自身も稽古の帰りに寄ったお店で言われた “今日も来てくれたんだね”という言葉の受け取り方が、自分の心の持ちようによって全然違うということを感じました。“ありがとう!”と思える時と、“あ、どうも”と言っちゃう時があって。周りで愛情深い言葉をかけてくださる声はいつもあるのに、気づける瞬間も気づけない瞬間も自分にあるんだなあと。お客様も観終わった時に誰かを思い浮かべてくださったら嬉しいですね」

上山「いつもそばにある愛が1つのテーマになっているので、その愛が伝わったら良いですね。芝居の繋がりも重視したミュージカルなので、役者は本当にごまかせないし、その分、お客様の心に届くものがたくさんあるんじゃないかと思います」

鈴木「ミュージカル作品としては珍しいことも色々あるので、とにかくご覧いただきたいです。例えばダンスでも、コンテンポラリーとバレエとジャズ、いろいろ入っていますし、物語中心で楽曲が作られているので、エミールとジャンはもうずっと歌っています(笑)。出演者は全部で8人なのですが、袖でも影コーラスしながら着替えながら、フル稼働で、20人くらい出ているように感じるのではないでしょうか。ぜひ皆さんに見届けていただきたいです」

撮影:山本春花

ミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』は9月12日(火)から23日(土)まで東京・よみうり大手町ホール、9月29日(金)から10月1日(日)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

「どの方のファンも損はさせないです!あと、“ミュージカルで今まで見たことなかった”が見られます!」という鈴木さんの力強い言葉をいただきました。エミールはウエンツ瑛士さん・上川一哉さん、ジャンは上山竜治さん・小柳 友さんのWキャスト。どちらのペアもそれぞれの“共鳴”が生まれそうです。