11月6日からPARCO劇場にて開幕したPARCO劇場開場50周年記念シリーズ『月とシネマ2023』。今の時代に「和やかな気持ちになれるように」という想いで創られた、小さな町の映画館を舞台にしたハートフルコメディとなっています。中井貴一さん、藤原丈一郎さん、永作博美さんらキャスト一同と、作・演出のG2さんが初日前会見と公開ゲネプロに臨みました。
お客さんがいてくださることで芝居は成熟し、進歩していく
2021年4月に上演を予定していた『月とシネマ』ですが、コロナ禍で上演直前、無念の全公演中止に。作・演出のG2さんと中井貴一さんらキャスト陣の想いが実り、新キャストも迎えて改めて作品をブラッシュアップし、『月とシネマ2023』として念願の初上演に至りました。
作・演出のG2さんは「今日いよいよお客様に見せられるという実感がまだないんですが、とにかく優秀な、世界に誇れるカンパニーとなっているので、僕自身初日を楽しみに待っています」と、ようやく訪れた初日の喜びを語りました。
カンパニーは皆さんで決めたあだ名で呼び合う、温かな空気の中で作品づくりが行われたそう。市の「まちづくり推進課」の職員で、映画館存続の鍵を握る浅倉瑞帆役を演じる清水くるみさんは、「笑いあり涙あり、コメディ作品はお客さんが入って初めて完成するものだなと思っているので、稽古場でも笑いが絶えなかったのですが、お客さんが入って完成するのを楽しみにしています」と語りつつ、「藤原(丈一郎)くんの衣装がすごくお似合いなので、皆さんの反応も気になります」と衣装の魅力もアピールしました。
町の消費者金融の男・児玉正義(まさよし)を演じる村杉蝉之介さんは、今回の上演にあたりスケジュールの都合で出演が危ぶまれた時期があったため、「皆さんより稽古日数が少なくて今とても不安で…(笑)、でも客席で見ていたら悔し泣きをしていたと思うので、今回出られて嬉しい」と出演への喜びをコメント。
2023年の上演にあたり新たにカンパニーに加わった永作博美さんは、「もちろんG2さんが演出されていくんですけれども、それぞれがそれぞれのタイミングで動いている感じがあって、気持ちよく稽古場にいました」と稽古場が順調に進んでいたことを明かしました。また作品について、「帰りの足取りが軽いと思います。気分が軽くなって、ちょっと顔が笑っちゃうような作品になっていると思いますので、楽しみにしていただけたら」と魅力を語りました。
映画会社の宣伝部社員・小暮涼太を演じる藤原丈一郎さん(なにわ男子)は、「約2年ぶりに、PARCO劇場さんで初日を迎えられることは、僕自身すごく嬉しいことです。関西は昨日“アレ”で盛り上がっていますので(笑)、“アレ”に負けないように、今日から『月とシネマ2023』を盛り上げられれば」と野球好きな藤原さんらしいコメントで会場を盛り上げました。
映画プロデューサーで、館長だった父の死により30年ぶりに町の映画館・ムーンシネマに訪れる並木憲次を演じる中井貴一さんは「並木憲次役をやらせていただきます、なにわ男子の中井貴一です」とお茶目に挨拶。これには藤原さんが「違いますっていうのも言いづらいんですけれど…(笑)」と恐る恐る突っ込むと、「違うって早く言うてくれな」と中井さん。
お二人の仲良しさが伝わったところで、「2年前、ちょうど僕たちの作品の前の作品がコロナで中止になって、ここの場所(劇場)で2ヶ月稽古をして、セットが建っていざ本番という時に緊急事態宣言が出て中止になって。でも大阪公演までの間には緊急事態宣言が終わるんじゃないかということで、1ヶ月間セットを組んだ状態で稽古をし、そしたらその日に大阪だけが緊急事態宣言が明けずに全公演が中止という形になってしまった」と前回の中止までの経緯を語り、「その中でそれぞれの芝居を構築していたんですけれど、芝居って一番大切なのはお客さんなんだと凄く分かりました。お客さんがいてくださることで芝居は成熟し、進歩していくんだと。今日初めて成熟させてくれるお客様と相対することになって、全員で最後まで、お客様に夢を配れるように頑張っていきたい」と本作への熱い思いを語りました。
2021年に本公演が中止時、中井さんからG2さんに「芝居の神様がまだ見せてはならないと仰っているんだね」という言葉があったこと、また前回稽古をやり切ったという想いがあったことを受けて、『月とシネマ2023』は新たなチャレンジをすべく、ひと回り劇場サイズが大きくなったPARCO劇場に合わせて登場人物を増やしたのだそう。構想5年、稽古期間約3ヶ月という、図らずも長い年月をかけて製作された作品となりました。
また中井さんは「藤原くんは2021年当時デビュー前だったので、丈のためにももう一回やるかという話になって。そしたらこんなに有名になると思わなかったので…じゃあやらなくても良かったんじゃないかとも思ったんですけれど(笑)、役者としてのベースみたいなものが作れる瞬間がどこかにあれば良いなと思って」と藤原さんに対する想いも明かしました。
最後に中井さんから「この作品は、コロナ禍でみんなの心が塞いでいる時に、どういうものを見せたら一瞬心が和やかになるんだろうか、というのを中心に考えたものです。このカンパニーは非常にチームワークは良いですが馴れ合いになっていないカンパニーなので、とにかく2時間の間、色々な嫌なニュースを忘れる時間を過ごせてもらえたら良いなと思っています。藤原くんの成長ぶり、自分でも“結構成長したよ”と言っておりますので(笑)、それも楽しみに来ていただきたいです」と和やかな言葉で締め括りました。
映画館ムーンシネマの存続をめぐって生まれる、心温まるコメディ
とある町にある小さな映画館「ムーンシネマ」は、館長が亡くなったことで閉鎖の危機に。30年以上父と絶縁していた息子であり、映画プロデューサーの並木憲次は映画館を売ろうとしますが、映画会社宣伝部の若手社員で「ムーンシネマ」を支援している小暮涼太や、市の「まちづくり推進課」職員で映画館のスタッフでもある浅倉瑞帆、映写技師として長年勤めている黒川庄三から猛反対に遭います。映画館を無くしてレストランに変えるという不動産屋・佐々木の言葉に、売却を思い留まる並木。
さらに、並木の元妻でフリーライターの高山万智子が現れ、館長は映画館の相続権を浅倉に託したことを明かします。朝倉は映画館をまちづくりの一環に据え、その起爆剤としてムーンシネマを舞台にした映画を作ることを提案し、並木にプロデュースを依頼。
しかし、映画監督を任されていたのは、並木が並々ならぬ因縁を持つ相手、榊哲哉でした。並木の榊に対する怒りは、万智子との離婚にも関わっているようで…。
映画プロデュースは拒否しつつも渋々脚本の一部を読んだ並木は、並木の父・館長と、映写技師の黒川との思い出のシーンが描かれていることに驚きます。榊はなぜ、並木の過去を知っているのか。並木と父はなぜ絶縁に至ったのか。父の知られざる想いとは。登場人物たちの過去と思惑が複雑に絡み合い、物語は思わぬ方向へと進んでいきます。
中井さん演じる並木と、藤原さん演じる小暮を中心に、テンポよく心地よい笑いに包まれる中で、徐々に人々の隠された想いが明らかになっていく本作。『月とシネマ』というタイトルの意味を理解した時、きっと心がじんわりと温まるはずです。
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『月とシネマ2023』は11月6日(月)から28日(火)までPARCO劇場、12月3日(日)から10日(日)まで森ノ宮ピロティホールにて上演が行われます。上演時間は約125分(休憩なし)。当日券などの詳細は公式HPをご確認ください。
複雑な伏線がありながらも、丁寧に紐解かれていく作品。藤原さん・清水さん演じるもう一つの役柄にも注目です。