2023年は『ムーラン・ルージュ！』や『スクールオブロック』など、新作ミュージカルが大豊作。そして劇団四季が創立70周年を迎え、劇場通いが捗った1年だったのではないでしょうか？話題作が目白押しだった今年の上演作品の中でも、筆者が出会えて良かった、また会いたいと思えたミュージカルを3つ紹介します。

大人社会の当たり前に喝を入れてくれた『マチルダ』

今年の春、日本のミュージカル界に新しい風を吹かせたのが、2023年3月から5月まで東急シアターオーブ、5月から6月まで梅田芸術劇場メインホールにて上演されたミュージカル『マチルダ』。

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが2010年に製作し、トニー賞5部門を受賞した大ヒットミュージカルが初上演されました。

天才的な頭脳と豊かな想像力を持った少女マチルダが、横暴な仕打ちをする両親や校長に立ち向かい、懲らしめるという痛快な物語。

カラフルな舞台セットに、言葉遊びが巧みなナンバーなど楽しさが詰まった作品ですが、ただ楽しいだけではないのが本作の魅力です。

マチルダが歌う「ちょっと悪い子」の「人生が不公平ならそう我慢より行動しなきゃ。耐え忍んでいたらそれでいいって言ってるのと同じ。それは正しくない。」という歌詞は、大人の心にもグッとくるものがあります。

大人の社会は、おかしいと思っても「上司が決めたことだから」、「私なんかじゃ改善できないから」と仕方なく受け入れてしまうことばかり。それが当たり前になりつつありましたが、マチルダのおかげで正しくないことを正しくないと言う権利は誰にでもあるのだと思い出すことができました。

そしてマチルダに不思議な力が宿ったように、闘うと決意した人にはそれを後押ししてくれる大きな力が与えられるのだと思います。

トランチブル校長、ミス・ハニー、ワームウッド夫妻といった、愛さずにいられない個性的なキャラクター達にも夢中になりました。個人的に、再演してほしいミュージカルナンバーワンの作品です。

待望の再演！念願の完走！『アナスタシア』

再演といえば「おかえりなさい！」と言いたくなったのがミュージカル『アナスタシア』。2020年の日本初演時はコロナの影響を受け全52回の公演がわずか14回しか上演されませんでしたが、2023年9月から10月にかけて東急シアターオーブと梅田芸術劇場メインホールで上演された2度目の日本公演では、3年越しに全52回公演の完走を成し遂げました。

ニコライ2世の末娘アナスタシアが生きているという噂が飛び交う20世紀初頭のロシアで、記憶を失くした少女アーニャが自身の過去を辿るためパリへ旅立ちます。ミュージカルは、ときに観客を世界の文化や歴史と出会わせてくれるもの。本作はその要素が色濃く、歴史的事実とIfが巧みに混ざり合うストーリーが見事です。

観劇後にロマノフ王朝やアレクサンドル3世橋といったアナスタシアにまつわるワードを検索した人は、きっと筆者だけではないはず。

また2年目の『アナスタシア』は初演時よりもさらにキャストが増え、キャスト同士の組み合わせによって異なる演出も話題になりました。客席からも感じられるキャストの結束感、微細な演じ方の違いが見ていて楽しかったです。

熱量に圧倒された宝塚星組『1789　－バスティーユの恋人たち－』

2023年5月から6月まで宝塚大劇場、7月から8月まで東京宝塚劇場で上演されていたのが、宝塚歌劇団星組による『1789　－バスティーユの恋人たち－』。フランス革命の最中に生まれた若者たちの愛を描いたこのフレンチロックミュージカルは、宝塚版のみならず東宝版もファンが多い人気作です。

実は筆者にとって今年が初『1789』でした。「武器をとれ」や「サ・イラ・モナムール」などパワフルなナンバーに胸がカッと熱くなり、目が釘付けに。

ロナンとオランプの恋模様、王族と市民それぞれの群像劇、そのどれを切り取っても情熱的で見ごたえがあり、瞬きするのさえ惜しくなるほどです。

筆者が観劇する数日前、ロナン役の礼真琴さんの休演が発表され、当日は代役を務める暁千星さんが初めてロナンを演じる日でした。本編からパレードまでを見事に演じ切った暁さんへの万雷の拍手が、終演後もずっと鳴り止まず、あの熱気と感動に溢れた舞台の光景は今も目に焼き付いています。

生で見た感動が忘れられず、礼さんが復帰された後の千秋楽公演も配信で鑑賞。暁さんは元のデムーラン役に戻っていたのですが、劇中で実の兄弟のように絆を育むロナンとデムーランの姿がお二人と重なり、目頭が熱くなりました。