ミュージカルの本場・米ニューヨークのブロードウェイ。毎年新しい作品が生まれ、活気に満ちあふれています。そんなブロードウェイの“舞台裏”を描いたミュージカルをご紹介します!

山崎育三郎がキュートに変身!『トッツィー』ソプラノ歌唱にも注目

2024年1月10日、ミュージカル『トッツィー』が東京・日生劇場で幕を開けました。主演は山崎育三郎さんで、大阪・名古屋・福岡・岡山でも上演されます。山崎さんが演じるマイケル・ドーシーはなんと、女装する男性俳優。というのも、40歳のマイケルは仕事がなくなってしまったため、ドロシー・マイケルズという名前で女性になりすまして受けたオーディションに合格。女優のドロシーとしてトップ俳優になってしまうことから始まるコメディです。山崎さんがキュートにメガネをかけてドレスを着こんだキービジュアルがとにかくキャッチーで、インパクトがあります。

『トッツィー』は1982年公開の同名の映画が原作で、映画でマイケルを演じたのはダスティン・ホフマンさんでした。2018年にシカゴでプレビュー上演の後、19年にブロードウェイで上演され、この年のトニー賞ではミュージカル主演男優賞・ミュージカル脚本賞を受賞しています。

とにかくマイケルの女装姿にインパクトがありますが、序盤の売れない俳優からドロシーに変身し、ショーの場面でゴージャスなドレスを着こなしてしまう山崎さんに注目です。ドロシーの本気のソプラノ歌唱も見どころ。

ドロシーになったマイケルの周囲には女性プロデューサーのリタ(キムラ緑子さん)、演出家のロン(エハラマサヒロさん)、若手俳優のマックス(岡田亮輔さん・おばたのお兄さんさんのダブルキャスト)と、「業界モノ」でお馴染みのキャラクターが舞台を彩ります。マックスはリアリティショーに出演してブレイクしたという設定で、現代のエンタメ情勢も反映されています。

最低のミュージカルでボロ儲け!?初演でトニー賞を総なめした『プロデューサーズ』

『トッツィー』のような演劇界そのものを舞台にした作品は「バックステージ・ミュージカル」とも言われ、多くの作品が上演されてきました。1968年の映画公開以降、何度も映画やミュージカルになった『プロデューサーズ』もその一つです。

落ち目のプロードウェイのプロデューサーのマックス・ビアリストックと会計士のレオ・ブルームは、ヒットした舞台よりも失敗した舞台の方が手元にお金が残ることに気づき、わざと最低のミュージカルを作ってひと儲けを目論みます。そしてヒトラーを信奉する脚本家フランツ、ゲイの演出家のカルメン・ギアと振付師のロジャー・デ・ブリーのカップル、素人同然の女優ウーラを集めて、史上最低のミュージカル『ヒトラーの春』の上演にこぎつけますが………。

「わざと最低のミュージカルを作って資金をいただく」という奇想天外な発想、劇中劇ながら華麗に作りこまれた『ヒトラーの春』のレビューシーン、ミュージカルナンバーが映画版同様に舞台化されたブロードウェイ版は2001年のトニー賞で12部門を受賞し、世界で上演が繰り返されました。

日本でも2005年・2008年・2020年の3度にわたって上演されています。レオとマックスのコンビを演じたのは2008年まではV6の井ノ原快彦さんと長野博さん、2020年版では井上芳雄さんがマックスを、吉沢亮さんと大野拓朗さんがレオを演じています。

ブロードウェイのヒットメーカーの半生をミュージカル化『ロジャース/ハート』

2023年に日本で2度目の上演がかなった『ロジャース/ハート』は、20世紀のブロードウェイで数多のヒット曲を残した作曲家リチャード・ロジャースと、作詞家ロレンツ・ハートのコンビの半生をモチーフにしたミュージカル。1925年に2人が初めてコンビを組んだ時の曲『Manhattan』から物語が始まり、彼らが書き上げたスタンダード・ナンバーで展開されるお洒落な舞台です。

日本版の演出はダンサー・演出家・振付師とマルチに活躍する玉野和紀さんで、自身も出演。ロジャースとハートのコンビは2018年の日本初演では林翔太さんと矢田悠祐さん、2023年の再演では林さんがハートを演じ、寺西拓人さんがロジャースを演じました。

“逆再生”でつづられる若者たちの物語『メリリー・ウィー・ロール・アロング』

2013年には、1950年代のブロードウェイを舞台にした『メリリー・ウィー・ロール・アロング』が日本で初演されました。2014年に英ロンドンで初演されたミュージカルです。この作品は、登場人物たちが過去にさかのぼっていく“逆再生”形式で展開されるのが特徴で、ショービジネスの世界で成功を夢見る若者たちの奮闘と、人生で直面する苦悩が描かれました。メインの登場人物はプロデューサーのフランク、脚本家のチャーリー、小説家のメアリーの3人で、彼らの人生と周囲の人間模様が描かれていき、波乱の人生に共感することも多い作品です。

ウディ・アレン映画がミュージカルに コミカルで王道な『ブロードウェイと銃弾』

ウディ・アレン監督による1994年の映画『ブロードウェイと銃弾』もミュージカルになりました。売れないブロードウェイの劇作家デビッドの舞台に出資するのはマフィアのニック。しかもニックは愛人のオリーブを主演に起用しろと口を挟み、さらにデビッドに色仕掛けを試みる大物女優のヘレンやニックの部下のチーチ、デビッドの恋人エレン、その他一癖も二癖もある業界人たちによって騒動が繰り広げられていきます。コメディタッチながらも1920~30年代にアメリカでヒットしたナンバーが歌われ、王道ミュージカルに仕上がった本作は、2018年と2021年には日本でも上演されています。

こういったバックステージ・ミュージカルは、「本家」ブロードウェイでは戦前から作られてきました。もちろん、映画と劇団四季のミュージカルで日本でもおなじみの『コーラスライン』(ブロードウェイ初演は1975年)も、これらの系譜に位置づけられるでしょう。

それだけ演劇という文化は強烈な魅力を放っており、舞台を作る人々の情熱も作家や俳優の創造心を刺激してくれるようです。

「業界モノ」はミュージカルでも人気のジャンルです。華やかな業界の人間模様は、いつの時代も皆興味津々のようですね。