小説『ハリー・ポッター』シリーズのその後を描いた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にて、ドラコ・マルフォイの息子で作中の重要な役柄スコーピウス・マルフォイを演じる西野遼さん。初舞台にして大役を掴み取り、2023年8月から本作に出演しています。オーディションから約半年の出演を通して感じていることを、たっぷり伺いました。
スコーピウスは、自分との親近感を覚えるキャラクター
−イギリスの演出チームも参加するオーディションには、どのような準備をされましたか?
「通常のオーディションは台本を覚えて来てやるものだと思うのですが、『ハリー・ポッターと呪いの子』のスコーピウス役のオーディションでは、台本は見ながらやって良いと言われました。だからセリフは覚えずに、『ハリー・ポッター』の映画を見返すくらいしかしていないんです。オーディションでは、その場で、感じたことを表現しました」
−オーディションの手応えはいかがでしたか。
「スコーピウスとアルバスが出会うシーンをやったのですが、“ここの席空いているよ”というセリフを言った時に演出の方に笑って頂いたので、“これは合格したんじゃないか”と、実は手応えを感じていました。セリフをパッと明るく、笑顔で言ったのが良かったのかなと思っています」
−初舞台が世界的に人気の高いハリー・ポッター作品ということで、プレッシャーはなかったですか?
「本当にプレッシャーでしかなかったです。既に日本でもスコーピウスを3人の方が演じられていて、人気のキャラクターでもあったので、初舞台の僕がどこまでできるのか、ものすごく重圧がありました。でもだからといってどうすることもできないから、漠然とした不安を抱えていましたね」
−約半年演じてみて、その心境には変化はありましたか?
「今はどちらかというと責任感が強くなりました。僕の一つのセリフで舞台が違った方向に行かないように、ちゃんと集中して一つ一つやっていくということに重きを置いています」
−演出チームから言われたことで、印象に残っていることはありますか?
「僕が最初、“ここはこういうセリフだから強く言う”とか凝り固まって考えてしまっていたので、“もっと自分の言葉で話して。遼は遼のスコーピウスを作れば良いんだよ”と言っていただきました。稽古中もそういう風に見守るように育てて頂いたので、伸び伸びと役作りをすることができました」
−自分のスコーピウスを構築するために、やられたことは?
「1つ1つのシーンの解釈を鮮明にするということに注力しました。僕自身のバックグラウンドや過去を重ね合わせて、スコーピウスを身近なものにしていくという感覚です。オタクな感じや明るいところ、優柔不断なところも自分とすごく似ているので、自分との親近感を覚えるキャラクターでもありますね」
−西野さんがオタクなことは何でしょうか?
「漫画やカレーが好きなんです!漫画について語り始めると止まらなくなっちゃって…スコーピウスも歴史オタクで話すと止まらないので、そこは似ていると思います」
ドラコとスコーピウスの関係性の変化を見てもらえたら
−スコーピウスを語る上で欠かせないのは、父親のドラコ・マルフォイだと思います。ドラコを理解するために見た過去の作品はありますか?
「『ハリー・ポッターと謎のプリンス』と『ハリー・ポッターと死の秘宝』の2作品は、ドラコが自分の方向性を探る重要な作品だと思います。最終的に良い人間として生きていこうと決めたことが、スコーピウスへの教育にも関わっていると想像しています。ドラコの父親ルシウス・マルフォイとは違った教育をしたいと思っていたでしょうし、だからこそ明るくて伸び伸びと育ったスコーピウスがいるのかなと思っています」
−スコーピウスは、どのくらい父ドラコの過去を理解していると思われますか?
「スコーピウスは歴史オタクなので、魔法界に起きたことは詳しいですよね。だからドラコの過去も理解していると思います。それが母親への依存にも繋がっているのではないでしょうか。母親はこれまでのシリーズでも舞台でもほとんど描かれていませんが、だからこそ考える余地があって、ものすごく優しい人なのだろうなと。スコーピウスにとって母親の存在は大きいと思います」
−『ハリー・ポッターと呪いの子』ではドラコとスコーピウスのすれ違いも描かれますね。
「すれ違いが生まれながらも、お互いに寄り添いたい、気持ちを知りたいと思っているんですよね。そこが舞台で多く語られることはないですが、段階的に感じ取ってもらえるような作りになっているので、ぜひドラコとスコーピウスの関係性の変化を見てもらえたら嬉しいです」
−西野さんのスコーピウスを拝見して、理性的な一面もある人物に見えました。そんな中で、アルバスの無茶な提案に乗った理由が気になったのですが、どのような解釈で演じられていますか。
「スコーピウスはものすごい歴史オタクで、ハリー・ポッターとロンとハーマイオニーの3人が魔法界を救ったことに憧れを抱いているんです。だからハリーの息子であるアルバスに出会った時、アルバスの無茶なところ、突き進むところも好きになって、危険でも着いていきたいと思ったのかなと思います。“僕の夢はホグワーツに行って一緒にめちゃくちゃできるような友達を作ることだった”というセリフがあるのですが、その通りにアルバスのことを、めちゃくちゃできる友達だと感じたんだと思います」
−西野さんは、アルバスとの関係性をものすごく丁寧に描かれているように感じました。
「すごく大切に思っています。図書室で大喧嘩するシーンまでは、唯一無二の親友という感じなのですが、全てを曝け出して喧嘩したことで、雨降って地固まるような感覚があります。そこからアルバスと離れている時間もあるので、よりアルバスの大切さや信頼が増していっていますね」
エンターテイメントを通して、生きる活力を与えられる俳優に
−ロングラン公演を行う中で、役柄やシーンの解釈が変わることはありますか?
「日々変わりますね。日によって大切に感じるシーンや、意味のあるシーンも変わっていきます。誰かの言い方が変われば、受け取り方も違うし伝え方も異なってくるので。もちろん変わらない大切なシーンというのはいくつかありますが、日によって感じ方が変わるシーンは多いです」
−中でも変化を感じるシーンは?
「アルバスとの最後のシーンですね。その日の総括じゃないですけど、その日やってきたものが全てあのシーンに出るので、2人の関係性も含めて、凄く繊細に演じています。物語を紡いできた結果、この2人がいるというところを大切に演じていますね」
−『ハリー・ポッターと呪いの子』には様々なメッセージ、見え方がありますが、西野さんご自身はどのような作品だと受け取っていますか。
「許してあげる、ということですよね。他人のことも、自分のことも。生まれ持った運命や環境があって、それに抗ったり切り開いたりすることは大事ですけれども、自分をもっと許してあげようよというメッセージを感じるんです。その許しが、他人に対しては愛に変わっていくのだと思います」
−『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演し続けることで、エンターテイメントの凄さを感じる瞬間はありますか?
「西野くんのスコーピウスを見て励まされた、今日も生きたいと思ったというお手紙を頂いたことがあって、僕はこのためにやっているんだと強く感じました。僕がこの仕事をしている理由にも繋がるのですが、見てくれた人、1人でも多くの人が、今日1日を生きる活力を与えられたらなと思うし、僕もそういうものを作品からもらっているので、そういったところがエンターテイメントの素晴らしさだなと思います」
−本作の出演は、西野さんの俳優人生にどのような影響を与えそうでしょうか。
「初めて舞台を踏んだのがこの作品なので、舞台の素晴らしさも、怖さも、ひしひしと毎日感じています。そういったことはすごく僕の俳優人生においてすごく大きな出来事です。技術的な面でも先輩方からいっぱい教えていただいて、日々努力を重ねているので、それが今後の俳優人生に絶対繋がっていくるだろうなと思いますね」
−最後に、本作のファンの皆さんと、これから観てみたいと思われている方へ、メッセージをお願いします。
「ハリー・ポッターシリーズのファンの皆さんには、楽しんでいただける仕掛けがたくさんありますし、小説・映画の後の物語なので、ファンの方が観たかったものをお届けできるんじゃないかと思います。初見の方は、もちろん初見でも分かるように創られていますし、炎や水を使ったショー要素もあって、人間模様も描かれていて、初めての舞台でも楽しめる作品になっています。上演時間は約3時間40分ありますが、一瞬に感じられると思います」
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はTBS赤坂ACTシアターにてロングラン公演中。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。
1シーン1シーンを大切に演じられている西野さんの想いが感じられるインタビューとなりました!撮影では「初めて!」というお花を使ったカットに挑戦いただきました。