宮﨑駿さんの不朽の名作を世界で初めて舞台化した『千と千尋の神隠し』。2024年の再演では、3月の帝国劇場公演を皮切りとした全国ツアーと、英国・ロンドンで初の海外公演が上演されます(ロンドン公演は PW プロダクションズ共同製作)。本作で翻案・演出を務めるジョン・ケアードさんとキャストらが製作会見に臨みました。

演劇の原点がここにある

製作会見には千尋役の橋本環奈さん・上白石萌音さん・川栄李奈さん・福地桃子さん、ハク役の醍醐虎汰朗さん・三浦宏規さん・増子敦貴さん(GENIC)、カオナシ役の小㞍健太さん・山野 光さん・中川 賢さん(森山開次さんは欠席)、リン・千尋の母役の妃海 風さん・華 優希さん・実咲凜音さん、釜爺役の田口トモロヲさん・宮崎吐夢さん(橋本さとしさんは欠席)、湯婆婆・銭婆役の夏木マリさん・羽野晶紀さん・春風ひとみさん(朴 璐美さんは欠席)と、演出・翻案のジョン・ケアードさん、演出補佐・共同翻案の今井麻緒子さん、東宝株式会社 代表取締役社長 松岡宏泰さん、PW プロダクションズのマネージング・ディレクター兼共同最高経営責任者のイアン・ギリーさんが出席。

本作の演出にあたってジョン・ケアードさんは、1番大切にしたことは「ストーリーをどう明確に伝えるかということ」だとコメント。「良い人・悪い人がいたり、若い人が成長していくポピュラーな物語とは違って、宮﨑さんの作品は良い人・悪い人に分かれているわけではない。誰もが良い面も悪い面も持っていて、ヒロインやヒーローもそうであるということ。そしてそれは、人間の世界が複雑であることの現れであって、観客の皆さんにもそれを伝えなければならない」と語りました。

またジョン・ケアードさん念願のロンドン公演については、「全世界にいる隠れたジブリのファン・宮﨑さんの熱狂的なファンには若い人もいます。アメリカでもイギリスでも演劇のファンというのは必ずしも若い人たちではない中で、20代の若い人たちが新たに演劇を観に来てもらえるのではないか」と期待を込めました。

「私にとって、初演の時からかけがえのない作品になりました」と語った橋本環奈さん。初めての舞台出演が『千と千尋の神隠し』だった橋本さんは、「一言では語りきれないほどの経験をさせていただいて、いろんな感情が動いて。役者人生の中でこれだけ充実した時間を過ごせるのは本当に幸せなことだなと日々思いながら稽古とツアーを回らせていただきました」と振り返ります。

2月3日に25歳を迎えられた橋本さんは「千尋役が10歳なので、年齢を重ねるごとにどういうふうに変わっていくんだろうと思っていたんですけれど、遠ざかっていくわけではなく、より千尋の10歳の気持ちがわかったり、寄り添えたりしているのは、自分でも驚いています。早くお客様に見ていただきたい」と千尋の役作りが深まっていることを明かしました。

橋本さんと同じく初演から千尋を演じる上白石萌音さんは、「今年も大好きな作品に携われることが幸せ」と出演の喜びを語り、「どの会場でも素朴に、素晴らしいストーリーを信じて、それを伝えることに徹して、大切に千尋を演じたい」と意気込みます。そして千尋役について、「他のことをしていても心の中にいる」と語り、「街で10歳くらいの子を見かけると、目で追ってしまうんです。10歳の子はどうやって走るのかな、どうやって喋るのかな、と千尋のために研究をしている自分がいて。それは稽古をしていなくてもそうなので」と特別な役柄であることを語りました。

また「今日ここにいる4人に加えて、アンダースタディの森 莉那ちゃんの5人で千尋を作り上げています。キャストも2倍に増えて、頼もしいスウィングさんも加わって、より『千と千尋の神隠し』の世界が豊かに自由になっていくのを日々肌で感じております。私も毎日新鮮な気持ちで柔らかく、そして誠実に千尋として生きたい」と語り、カンパニー全体への愛が垣間見えるコメントとなりました。

今回千尋役として新たにカンパニーに加わった川栄李奈さんは、初演の際に上白石萌音さんが千尋役を務めた回を観劇。「幕が開いた瞬間に、本物の千尋がいると思って鳥肌が立ったことを今でも覚えています。その作品に自分が参加できるとは全く思ってもいなかったので、今こうしてここに立っていることを本当に嬉しく思います」と出演の喜びを語りました。

また「体力面や稽古になかなか参加できなくて不安も大きい中で、分からないことをやって見せて、背中で見せてくれる萌音ちゃんと、“大丈夫だよ、できるできる!”と言ってくれる明るい環奈ちゃんに本当に助けられていて。2人を見習いながら新しい千尋を作っていけたら」と初演から千尋を務めるお2人の頼もしいエピソードを明かしました。

同じく新たに千尋役を務める福地桃子さんは「(稽古場で)生で一番良い席で千尋を客観的に見てたくさん学ばせていただいて。大きな生き物から小さな生き物まで可愛くて、色々な匂いや音から自分の体が感動している体験をさせていただいていることが、楽しくて仕方がないです」と稽古場での刺激溢れる日々を語ります。

ハク役を務める醍醐虎汰朗さんは、「千尋の皆さんの小さくて大きい背中を間近で見られることを誇りに思います。今回も胸を張って精一杯演じさせていただきます」とコメント。

三浦宏規さんは「前回の御園座公演で、卒業宣言みたいなことをさせてもらったんですけれど(笑)、色々な奇跡が噛み合いまして、再び出演できることになりました。僕が舞台を始めた頃からの一つの夢であった日本のオリジナル作品を海外に持っていくということが、この素晴らしい作品で実現できたということに凄く喜びを感じています」とロンドン公演に向けて気合十分のコメントを。

新たにハク役として本作に参加する増子敦貴(GENIC)さんは「僕、実は年男で辰年なんんです。さらに宮﨑駿さんと同じ誕生日で、ハク役に選んでいただいたのはそういう運命だったのかな」と本作に縁を感じている様子で会場を和ませます。

今回新たに湯婆婆・銭婆役を務める羽野晶紀さんは、「お稽古が始まって新キャストの春風さんと顔を見合わせて、“初演でこの作品を作ってきた皆さんに尊敬しかない”と言ったのを覚えています。それから日々、たくさんの段取りを覚えさせていただきました(笑)。銭婆のセリフで“魔法で作ったんじゃ何にもならないからね”という言葉があって、『千と千尋の神隠し』も夢のようなお話をみなさんにお届けするんですけれど、やっているみんなは手作りで作っています。スタッフも役者も、チケットを買って観に来てくださるお客様も、みんなで作っているんだなと思うので、その奇跡をぜひ劇場でご覧いただけたら」と思いを語りました。

同じく湯婆婆・銭婆役の新キャストである春風ひとみさんは「初演から3回観させて頂いたんですけれども、本当に演劇の原点がここにあるなという感情を毎回受けていまして、みんなで寄ってたかって作る、これこそ演劇だなと感激しております」と作品の魅力を語ると共に、「30年ほど前、日本で行われたジョン・ケアードのワークショップに(夏木)マリさんと出させていただいて、その時にマリさんに“あなた、きっとお芝居必要な人ですよ”と言ってくださったんです」と夏木マリさんとのご縁を感慨深く語られました。

そして、本作に映画の声優から携わっている夏木マリさんは「映画から20数年も1つの役をやらせていただけることはとても幸せだなと思っています。後輩の俳優たちに“そろそろ湯婆婆を後輩にください”ということも言われたりしていて、でも私も湯婆婆も銭婆も愛おしいので、もうちょっとだけ、やらせていただきたいなと思っています」と役柄への愛を語ります。

また「自分の体を使ってセリフを言ってみると(映画と)全然違う表現になったりするんです。声優の声は忘れて新たに作っていったので、ある意味、二重苦でした。“前はこう言っていたけど本当に動いてみるとそうじゃない”ということがたくさんあって。でもジョンが初演の稽古場で“決して皆さんモノマネはしないでください”とおっしゃったので、それですとんと落ちたような気がして。演劇として、自分の手足を使った湯婆婆・銭婆を作っていきました」と映画と舞台の双方に参加するからこその苦労を明かしました。

舞台『千と千尋の神隠し』は3月11日に東京・帝国劇場にて開幕。4月名古屋・御園座、4〜5月福岡・博多座、5〜6月大阪・梅田芸術劇場メインホール、6月札幌・札幌文化芸術劇場 hitaruでの全国公演と並行して、4月30日から8月24日までロンドン・ウェストエンド最大級の劇場ロンドン・コロシアムでの海外公演が行われます。作品公式HPはこちら

撮影:山本春花
Yurika

東宝主催公演としても史上初の日本人キャストによる日本語でのロンドン公演は、製作発表にも駆けつけたPW プロダクションズのイアンさんが札幌公演を観劇後「ロンドンでやろう」とお声をかけたことから始まったのだそう。チケットのプロモーションはSNSを中心に行い、観客は18〜35歳の方々が多いのだとか。ロンドンの中でも若い方々からの反応が大きく、イギリスの演劇関係者も期待を寄せているそうです。