2019年に韓国でミュージカル化され、今回が初の日本版上演となるミュージカル『ナビレラ−それでも蝶は舞う−』。一流のバレエダンサーを目指すイ・チェロクを、先日第49回菊田一夫演劇賞を受賞した三浦宏規さんが演じ、かつて諦めたバレエという夢に70歳で挑戦するシム・ドクチュルを川平慈英さんが演じます。三浦宏規さん、川平慈英さん、岡まゆみさん、狩野英孝さんが登壇した囲み取材と、ゲネプロの様子をお届けします。

「箱ティッシュを持ってきてください」

5月18日からシアタークリエにて上演されるミュージカル『ナビレラ−それでも蝶は舞う−』。バレエダンサーを目指す青年イ・チェロクと、70歳でバレエという夢に挑戦するシム・ドクチュルの姿を描いた作品です。

囲み取材には、イ・チェロク役の三浦宏規さん、シム・ドクチュル役の川平慈英さん、ドクチュルの妻を演じる岡まゆみさん、ドクチュルの次男を演じる狩野英孝さんが登壇しました。

クラシックバレエを5歳から始め、国内バレエコンクールでの入賞経験もある三浦さんにとってぴったりの役柄となりますが、三浦さんは「クラシックバレエを題材にした作品に出られることが嬉しくて舞い上がってしまって、色々な取材で“僕しかいないと思います”と言いすぎて自分の首を絞め、今日めちゃくちゃ緊張しています…」とプレッシャーを明かします。

しかし「僕しかいないという気持ちを持って」と意気込むと、川平慈英さんも「宏規しかいない」と後押し。「1曲目からそれが分かるので、期待してください」とアピールされました。

ジャズダンスの経験はありながらも、初めてクラシックバレエに挑戦した川平さんは、「どうなんだろうと思ったんだけど、逆にチャレンジングだなと思いまして。なんといっても楽曲が圧倒的で、それにノックアウトされて、この船に乗っかりたいなと思いました」と出演の理由を語ります。バレエには「虜になりました!腰痛が治りました」と川平さんご自身も魅了されているそうで、三浦さんも「上手いです!ピルエットの軸が凄く真っ直ぐです」と太鼓判を押しました。

本作はNetflixでドラマ化されている話題作。三浦さんは「(作品の)イメージを持っている方はたくさんいらっしゃると思うんですけれど、良い意味で裏切るというか、原作をリスペクトしながらも、日本オリジナルの、我々にしか出せない味を作っていけたら」と意気込みます。

川平さんも「上演台本・演出の桑原裕子さんのオリジナルタッチも入っていますし、力強いストーリー・音楽で心を鷲掴みされるものになっていると思います。小さいティッシュではなくて、箱ティッシュを持ってきてください」と感動作であることをアピールしました。

本作が初めてのミュージカル出演となる狩野英孝さんは、「このメンバーについていくのが大変」と苦労を明かしながらも、「皆さんが(物語を)しっかり作ってくれるので遊びどころがあって、伸び伸びやらせてもらっています」と楽しんで作品と向き合っているご様子。

「生バンドがあって、歌の前に芝居を(尺に)収めてから歌わなければいけないのも初めて知って、僕、楽譜通りに歌ったことがないので(笑)、崩さないように歌うのが難しかったです」と語った狩野さんですが、川平さんは「あんなに真っ直ぐに見つめられて歌われるともうやばくて。ストレートで、何も染まってないからグッとくる」と狩野さんの歌声の魅力を語りました。

ドクチュルの妻を演じる岡まゆみさんは、「1人1人が本当にぴったりなんです。三浦さんはもちろん、ドクチュルはジェイさんしかいません。狩野さんはもう、心も顔もイケメンだって今回再認識しました」とキャストそれぞれが適役であることをコメント。

とても和やかな関係性の皆さんの様子が伝わってくる囲み取材で、三浦さんは「演出の桑原さん始め、スタッフの皆様、そしてキャストの皆様も全員心意気が良く、家族みたいなカンパニーなんです。その奇跡に感謝しながら、自信を持って皆さんにお届けできる作品に仕上がっております」と力強く会見を締め括られました。

世界に色が付いて視界が開けていくようだ

川平さんが囲み取材で語った通り、三浦さんは1曲目からダイナミックで優雅なバレエシーンを披露し、一気に本作への期待感を高めます。しかし三浦さん演じるイ・チェロクはバイトに明け暮れ、バレエのレッスンには遅刻ばかり。若き才能ある青年ながらも、どこか人生に疲れ、諦めている姿が垣間見えます。

一方で「人生の夕暮れ」時に、このまま穏やかに過ごすだけで良いのかと考えるシム・ドクチュル。かつて夢見たバレエを学ぶことを決意します。

趣味ではなく本気でバレエを習いたいと訴えるドクチュルの熱意に負けたバレエ団長(舘形比呂一さん)は、無料でレッスンを受けさせる代わりに、イ・チェロクのマネージャーを務めるように言います。こうして老人と青年の奇妙なレッスンが始まるのです。

家族が「良い歳して恥ずかしい」と反対する中で、次男(狩野英孝さん)は何でも好きなことをさせてくれた父親に、好きなことをしてもらいたいとバレエを後押しします。

初めは真っ直ぐ立つことすらままならないドクチュルに、何を教えれば良いのかと戸惑うチェロク。しかしタンデュ、プリエ、ピルエットなど1つ1つ学んでいき、目を輝かせるドクチュルと過ごしていくうちに、硬く強張ったチェロクの心が解けていくのが分かります。

チェロクの踊る姿をドクチュルは「世界に色が付いて視界が開けていくようだ」と表現しますが、三浦さんのバレエシーンはまさに世界を切り拓いていく力強さがあり、バレエへの愛に満ち溢れているのが伝わります。ミュージカル界で躍進を続ける三浦さんご自身のエネルギッシュさも、チェロクに生命力を与えているように思えます。

そして本作はコミカルで心を軽やかにしてくれるシーンも多く、その大きな役割を狩野英孝さんとバレエ団長の舘形比呂一さんが担っています。ドクチュルの次男の何事も面白がり、柔軟に受け入れる姿勢が印象的です。また真っ直ぐさが伝わる狩野さん歌唱シーンも必見!

チェロクの元サッカー仲間を演じる瀧澤翼さんは普段の柔らかさを封印し、グレた“嫌な奴”を熱演。ひょんなことからドクチュルと関わり、不器用ながらも変わっていく様を愛らしく描いています。

バレエが好きだというドクチュルの純粋な気持ちを、真っ直ぐに美しく演じる川平慈英さん。瞳を輝かせて生き生きと踊る姿を見ていると、何歳になっても“夢”が人生を彩り、人に生きる理由を与えてくれるのだと強く感じます。

撮影:山本春花

ミュージカル『ナビレラ−それでも蝶は舞う−』は5月18日から6月8日までシアタークリエにて上演。公式HPはこちら

Yurika

華やかなバレエシーンはもちろん、感情豊かな楽曲たちにも心を掴まれる作品です。ドクチュルが抱える病やチェロクの孤独、バレエ団の経営難なども描かれているからこそ一層、ドクチュルとチェロクの絆が尊く感じます。