舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』3年目新キャストとしてハリー・ポッターを演じる平方元基さん。ミュージカル『エリザベート』『レディ・ベス』『王家の紋章』『マイ・フェア・レディ』『サンセット大通り』『メリリー・ウィー・ロール・アロング』など数々の作品に出演してきた平方さんが、ハリー役に挑みます。ロンドン・ニューヨーク・日本と3か国で公演を観劇した平方さんに、本作の魅力を伺いました。

持って帰る感想は、世界共通で変わらない

−平方さんは、2016年にロンドンで開幕したあとに『ハリー・ポッターと呪いの子』を観劇されていたそうですね。
「観劇したのは、2016年のクリスマスの頃だったと思います。当時は2部作でしたね。まさか日本で上演されるとも思っていなかったし、自分がハリー・ポッターを演じさせていただける日が来るなんて思いもしませんでした」

−ハリー役としての出演が決まってから、ブロードウェイ公演にも観に行かれたそうですが、日本との印象の違いはありましたか?
「モノを吐き出す能力が高いなと。日本では1回受け止めて、自分の中で育ててから言葉や感情を出すイメージがあるけど、ブロードウェイでは会話がポンポン進んでいくというか。喜怒哀楽がものすごくわかりやすくて、なだらかじゃない。急に階段を登ったみたいに怒ったり、表現の仕方が面白いなと感じました。そういった違いがある分、日本語訳のチョイスをどのように(翻訳の)小田島さんが選ばれているんだろうというのも気になりました」

−ブロードウェイ公演を観に行かれたのは何か理由があったのでしょうか。
「海外に行くのが好きなんです(笑)。ブロードウェイ公演でハリーを演じている俳優に直接会うことも出来たし、開場前にメンテナンスしているところも見られて、良い経験が出来ました。ブロードウェイと日本での違いは色々あると思いますが、最後に物語が終わって持って帰る感想はきっと変わらないんだろうなとも感じます。“愛”が大切であることは世界共通だし、それを作品として言い続けることにも意味があると思う。だからこそ世界で愛される作品なのだと思います」

−日本版『ハリー・ポッターと呪いの子』の印象はいかがですか?
「ハリー役に決まってから2回観劇したのですが、自分が台本を読む前に観てしまうと役をなぞってしまうと思ったので、自分の頭の中に台本を入れきった状態で観ました。台本を読んでいて、この台詞どういう風に言うんだろうと思っていた部分も、ある意味ひとつの正解を見せてもらえたので面白かったですね」

台本を覚えるのは苦じゃなかったんです、気持ちが分かるから

−何度も観劇されてきた『ハリー・ポッターと呪いの子』、改めて作品の魅力はどこに感じますか?
「主役はアルバスやスコーピウスなどの子どもたちだと僕は思うんですけれど、大人になりきれない、父親になりきれなくてもがくハリーは、すごく人間らしいじゃないですか。魔法使いなのに。魔法で全部が解決するわけじゃない中で、人間の愛や希望がすごく詰め込まれた作品なのが良いですよね」

−本作は世界を救ったヒーローでありながら、父親として“完璧ではない”ハリーが描かれています。平方さんはハリーをどのような⼈物だと捉えられていますか?
「ヒーローって他人が決めるモノだと思うんです。自分も俳優をやらせてもらっていますけれど、他人が見る自分と自分が見る自分って違っていて。ハリーだけじゃなく、ロンやハーマイオニーも“みんなが見てる”と言うシーンもありますし、そういう他人の評価と自身にギャップがあるのは人間くさいところですよね。ハリーは自分のことを制御できていなくて、思春期で多感なアルバスと似ているんですよ。だから似たモノ同士で相反してしまう。そういうハリーだからこそ、僕がやる意味があると思うんです」

−ハリーに共感する部分が多いということでしょうか。
「普通のお父さんの役だったら、もっと年齢がお父さんに見える方がやれば良いと思う。僕は父親役にしては若すぎる。でもハリーとは似ている部分が多くて、オーディションで人間らしく素直でいられたと思ったので、それを面白がってくださったということは、そういうところが役にも出ると良いのかなと思います。台本を覚えるのは大変でしたけど、苦じゃなかったんです、気持ちが分かるから」

−共感できる部分が多いと役作りはしやすいですか?
「そうですね。実際には父親ではないけれども、言葉の端々に共鳴することがあると自然とその役に乗っかっていけるというか。そこが助けてくれると思います」

−特に印象に残っているシーンはありますか。
「絶対言っちゃいけないのにって思ったのは、マクゴナガル先生に対して“先生は子供がいないからわからないんだ”と言うシーン。口を突いて言ったにしてもひどいことだけど、なぜあれをハリーが言ったかというと、自分のことすら理解もできてないし、父親として自分を支えるものがもう何もない、その脆さや弱さが出てしまったと思うんです。かと思えば、僕なんて生き残らなければよかったんだとすごく悲観的にもなる。普段生きているとそういう言葉って吐かないようにしようとするけれど、演劇って嫌なことや辛いことを表現するからお客様に見せるものになりうるというか。そこを見てくださるわけだから、僕が舞台上で本当に傷つけば傷つくほど、喜べば喜ぶほど、厚みのある舞台になるのかなと思います」

−アルバスとハリーの関係性は本作の大きな軸となりますが、アルバスと、どのような関係を築こうと考えられていますか?
「最後にハリーがアルバスに“今日はいい日になりそうだ”と言うシーンがありますが、その時に一番近く彼を感じると思うんです。そこで初めて父親としてのスタートラインに立てる。物語は終わるけど、アルバスもハリーもそこからスタートするんですよね。あのスタートラインに2人でちゃんと辿り着きたいですね」

自分にとっても飛躍できるチャンスに

−ハリー役に決まった時の反響はいかがでしたか。
「中学校の同級生から20年ぶりに連絡が来て、同窓会をやろうと言われました。キャストスケジュールを調べたから休演日に博多に帰って来いって言うんですよ(笑)。次の日に公演があるんだけどな…とは思いつつも、身をもってハリー・ポッター効果を実感しました。地方公演はないのに、地元のみんなも“観に行くね”と言ってくれて、嬉しいですね」

−『ハリー・ポッターと呪いの子』は初めて演劇を観るという方も多く、作品の強さを感じますね。
「あの小説・映画の世界がどんな風になるんだろうって気になりますよね。観終わったお客様の感想がテレビで放映されているのを見ているとものすごく笑顔で帰っていくので、純粋に素敵だなと感じました」

−日本では3年目を迎え、リピーターの方もたくさんいらっしゃいます。
「凄いですよね。それだけ愛されている作品に出られるということは自分にとっても飛躍できるチャンスを頂いたなと思うし、そういう時に一緒に過ごせる仲間はきっと良いカンパニーになって、一回りも二回りも大きくお客様に届けられるものが出来上がるんだろうなというのを今から楽しみにしています」

−ロングラン公演に挑む心境はいかがですか。
「きっと、長く同じ役をやるからこその楽しみを見つけながら、やっていくんでしょうね。不安なんて言い出したらきりがないですけれど、それは出演する皆さん一緒だから。演劇は1人では作れなくて、それを学ばせてもらったから出会えた作品だと思うので、皆さんと新しいものが作っていけたらいいなと思います。3年目キャストは様々な場所で活躍されてきた方々が出演しますし、新キャストの数も多いので、新しい風が吹くと良いな」

−『ハリー・ポッターと呪いの⼦』に出演する中で大切にしたいことはありますか。
「その日の相手、キャラクターと演じている中で、同じ演出を受けていても感じることは日々変わると思うんです。なんで今日は手が動いたんだろう、なんで今日は語気が強めなんだろうとか、俳優はそういう些細な変化を大事にしていると思うから、それをお客様にも楽しんでもらえたら良いなと思います。その日に起きたその日のベストをみんなで創る共同作業だと思うし、やることも多いので、みんなのチームワークの良さを見せられるような公演にしていきたいですね」

−最後にお客様にメッセージをお願いします。
「魔法もてんこ盛りですし、炎の熱さなど五感で楽しんでいただける舞台になっています。その裏で、魔法使いたちの傷ついているところ、悲しんでいるところ、楽しいところ、そういった心の機微にも注目して観ていただけると嬉しいです」

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はTBS赤坂ACTシアターにてロングラン上演中。平方元基さんは7月8日(月)から出演します。公式HPはこちら

Yurika

ハリーがアルバスに“今日はいい日になりそうだ”と言うシーンは、2年目キャストの大貫勇輔さんもAudienceのインタビューで大事にしたいと仰っていたセリフでした。平方さんはどのような旅路を経て、このセリフに辿り着くのでしょうか。