2024年9月にシアタートラムにて上演されるのは、池田亮さんが岸田國士戯曲賞を受賞後初の書き下ろし新作『球体の球体』。ガチャガチャをモチーフに芸術作品を創作するアーティストの半生を描いた作品で、新原泰佑さんが主人公の現代アーティスト・本島を演じます。共演には小栗基裕(s**t kingz)さん、前原瑞樹さん、相島一之さん。濃厚な4人芝居に挑む新原さんに、本作の魅力と意気込み、また俳優を志すきっかけとなったミュージカルについてもお話を伺いました。

子どものような無邪気な夢がいっぱい詰まった作品

−池田亮さん新作書き下ろし作品『球体の球体』。既に作品のシノプシス(概要)をお読みになったそうですが、どのような印象を受けましたか?
「池田さんと初めてお会いした時に少年心のある方だなという印象があったので、池田さんの子どものような無邪気な夢がいっぱい詰まった作品になるのかなと思いました。ガチャガチャと、親ガチャなど誰もが一度は考える“自分では選べない状況”というテーマを紐づけるのは面白いですし、美術プランについても色々と書いてあって、凄く刺さりました。池田さんはお客さんがシアタートラムの劇場に入った瞬間から『球体の球体』の世界に閉じ込めて逃したくないんだなと思いましたね」

−ガチャガチャをやったことはありますか?
「あります。アニメやゲームが好きなので、そのコラボのガチャガチャは小さい頃からよくやっていました。ガチャガチャって何が出るか分からないランダム性が凄く面白いですよね。自分では操作できなくて、でもそれを作っている人は操作をしているわけで、そういう構図も面白いと思います。池田さんは今作でガチャガチャを縦に天井まで積んで生命のあるもののようにしたいと仰っていて、それは美術家ならではの発想だと思うし、ものすごく楽しみです」

−物語はどのような世界観でしょうか。
「ファンタジーの要素はありながらも、現実にあるかもしれない世界線を描いていくので、寓話的さと、現実と紙一重な部分の両方があるというのがこの作品の目玉になると思います。そこはシアタートラムという劇場だからこそ成立する空間でもあるのかなと思います」

−当て書きということもあり、池田さんとは何度かお会いされているそうですね。
「池田さんが脚本を手掛けられた『テラヤマキャバレー』を観に行かせていただいた時にご挨拶して、その後は僕が出演した「Amuse Presents SUPER HANDSOME LIVE 2024 “WE AHHHHH!”」を観に来てくださいました。「HANDSOME LIVE」を凄く楽しんでくださったみたいで、ものすごい熱量で“毎年やる理由が分かります!また行きたいって僕は思ってますよ”と言ってくれたので嬉しかったです。僕が踊っている姿や、ライブで素に近い姿を見て役を作ってくださったのかなと思います」

−ご自身が演じる本島というキャラクターについてはどのような印象でしょうか。
「ものづくりが好きな現代アーティストで、ゲームが好きな部分も同じですし、やはり当て書きなので僕に似ている部分が多いです。でも新原泰佑ではないし、そうではいけないと思うんです。自分にあるものと結びつけながら、僕ではないものを演じるのが役者だと思うし、役者という仕事の魅力だとも思うので、本島というキャラクターを綿密に計算して作っていきたいです」

−池田さんから言われた言葉で印象に残っていることは?
「僕はダンスをずっとやっていて、ものづくりや演出が好きなので、現代アーティストという役を新原さんがやってくれて良かったと言ってくださったのは嬉しかったです。池田さんとはお話ししていると共感することが多くて似ているなと思う部分が個人的には多いので、話が尽きないんです。同じ熱量を持って、同じベクトルを向いている演出家の方とセッションをしながらお芝居を作っていけるというのは本当に楽しみです」

シアタートラムは「お客さんに熱量を送りやすい空間」

−シアタートラムで4人芝居ということについてはいかがですか。
「KAAT神奈川芸術劇場での『ラビット・ホール』では5人芝居で、僕の人生で初めてのストレートプレイ作品でした。その時のことを思い返すと、足も手も震えるくらい緊張していたのですが、まさかシアタートラムで主演をやらせていただく日が来るなんてまだ実感が湧かない部分もあります。今回は4人芝居で、大先輩の方々ばかりですけれど、シノプシスに書かれたキャラクター像を見ると、本当に皆さんにぴったりなんです。当て書きということもあって、池田さんのシノプシスを読むとホログラムのように皆さんが動いている絵が浮かび上がってくる感覚があります。池田さんはその場で起こったハプニング、例えば噛んだ瞬間でさえも生かしながら演出されていくそうなので、皆さんとどうセッションしながら作品を作っていけるのか、凄く楽しみです」

−先日シアタートラムで上演されていた舞台『メディスン』を観劇されていましたが、シアタートラムはどのような劇場だと感じられましたか?
「舞台と客席との距離が近いので、お客さんに熱量を送りやすい空間だなと感じました。『メディスン』でも声の響き方が包み込まれていくようで、気づいたら前のめりになってしまいそうなくらい惹きつけられていて。演出や脚本の意図や思惑通りに体を操られているような感覚があったので、空間としてもの凄く面白いと思いました。池田さんは今回、シアタートラムという劇場全体で『球体の球体』を描こうとしていらっしゃるので、きっとお客さんは心も体も鷲掴みにされると思います」

−そういった空間は、緊張がありそうですか?楽しみが強いですか?
「緊張するでしょうね。僕はいまだにどの作品でも緊張するし、ゲネプロではもう震えているんです。2月に出演した『インヘリタンス -継承-』では1人で客席に降りていかなければいけなかったので、もうめっちゃ怖かったです(笑)。でも今回は舞台と客席の境界線すらないような空間だからこそ、良い緊張と共に新たな面白みがあるんじゃないかと思っていて。お客さんの目の圧力みたいなものも感じると思うので、そういったことを楽しめればと思っています」

『キンキーブーツ』が芸能界に興味を持つきっかけに

−新原さんは芸能界に持ったきっかけがミュージカルだと伺いました。どの作品をご覧になったのでしょうか。
「ミュージカル『キンキーブーツ』です。それまでダンスをずっとやっていたので、ダンスに歌とお芝居が加わったらこんなにすごいことになるんだと、言葉にならないくらい圧倒されました。こんなキラキラした世界に飛び込んでみたい、と思ったきっかけの作品です」

−実際にミュージカル作品に出演するようになってどう感じましたか?
「僕が観たキラキラした世界というのは、そこに至るまでにとてつもない努力があるのだなというのは実感しました。自分の至らなさを感じながらも、それが今の自分の向上心にも繋がっています。でもやはりミュージカルもストレートプレイも、舞台はこの瞬間を生きていると感じられるのが楽しいですね」

−『キンキーブーツ』には出演してみたいですか?
「いつか。今はまだ出たいと張り切って言えるような自分ではないと思うので、もっと経験を積んで、いつかは出たいです」

−最近観劇した作品の中で、印象に残っている作品はありますか?
「色々とあるのですが…『デカローグ5・6』かな。きっかけは出演していた福崎那由他さんと田中亨さんが仲良しなので観に行ったのですが、気づいたら作品の世界観に惹き込まれていました。照明を含めた色使いや、リアルさを追求した演出も、凄く好きでした。上演されていた新国立劇場 小劇場もお客さんとの距離が近い空間なので、だからこそ、極限までリアルを追求していて。『球体の球体』に出演するにあたっても勉強になったことが多くて、良かったです。2人には長文のメッセージも送りましたし、一緒に飲みに行った時にめっちゃ語りました」

撮影:鈴木文彦、ヘアメイク:国府田圭、スタイリング:土田寛也

−新原さんはパブロ・ピカソの「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ」という言葉を大切にされているそうですね。
「はい。今回の『球体の球体』にもぴったりの言葉じゃないですか?僕は4歳からダンスをやっていて、表現や芸術を大事にしていることが自分の一番の強みになると思っています。『球体の球体』では現代美術家を演じるということで、さらにこの言葉を大切に挑んでいきたいと思います」

舞台『球体の球体』は2024年9月14日(土)から9月29日(日)までシアタートラムにて上演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

ドラマ『25時、赤坂で』でも注目を集めた新原さん。取材では柔らかなお話しぶりと、芸術に対する深くまっすぐな愛が印象的でした。舞台『球体の球体』ではどのような表現をされるのか楽しみです。