『トップ・ガールズ』や『クラウド・ナイン』などの話題作で知られる、現代イギリス演劇を代表する劇作家、キャリル・チャーチルさん。彼女の名作『A Number—数』と、最新作『What If If Only—もしも もしせめて』が、2024年に日本で上演されることになりました。この記事では、作品のあらすじや豪華キャストなどについて、余すところなくご紹介していきます。

話題作に日英のコラボレーションで挑む

日本と海外のクリエイターが共同し、優れた海外戯曲を今日的な視点で上演してきた、BunkamuraのDISCOVER WORLD THEATRE(以下「DWT」)シリーズ。シアターコクーンが海外の才能と出会い、新たな視点で挑む演劇シリーズとして、2016年秋にスタートしました。

このDWTシリーズの第14弾として、キャリル・チャーチルさんの2作品が上演されます。

1本目は、2002年に初演され、2022年にはローレンス・オリヴィエ賞リバイバル部門にノミネートされた名作『A Number—数』。2本目は、2021年に上演されたチャーチルさんの最新作で、日本初演となる『What If If Only—もしも もしせめて』です。

演出を手掛けるのは、これまでにDWTシリーズで3作品を演出した経験を持つジョナサン・マンビィさん。英国で2010年に『A Number』を演出し、「父と息子の一筋縄ではいかない対話が見事に展開された」と高い評価を獲得しました。

独特な表現スタイルと文体で人間心理を浮かび上がらせるチャーチルの作品をどう紐解いていくのか。『A Number—数』『What If If Only—もしも もしせめて』に、日英のコラボレーションで挑みます。

普遍的なテーマをSF的に描く

『A Number—数』で父と息子の二人芝居に挑むのは、堤真一さんと瀬戸康史さん。人間のクローンを作ることが可能となった近未来を舞台に、秘密を抱えて葛藤する父を堤さんが、クローンを含む3人の息子たちを瀬戸さんが演じます。

マンビィさんが手掛けてきた3本のDWTシリーズすべてに出演し、絶大な信頼関係を築いてきた堤さん。そして、マンビィ演出公演に初出演で、堤さんとも初共演となる瀬戸さんが、複雑な感情を交錯させる親子の会話劇を繰り広げます。

マンビィさんは『A Number—数』について、次のように語ります。

「このダークで、時にコミカルで、複雑に交錯する道徳の物語において、チャーチルは“人間のクローンをつくること”を出発点に父と息子の関係を探求し、氏か育ちか(人間は遺伝子によって決まるのかそれとも育った環境で決まるのか)という議論に真っ向から立ち向かっています。」

『What If If Only—もしも もしせめて』では、大東駿介さんと浅野和之さんの舞台初共演が実現。愛する人を失い苦しむ“某氏”を大東さんが、“未来”と“現在”を浅野さんが、“幼き未来”(ポピエルマレック健太朗さん・涌澤昊生さんのWキャスト)とともに演じます。

『What If If Only—もしも もしせめて』に関して、マンビィさんはこんなコメントを寄せています。

「短くも爆発的な戯曲に人間としての経験が凝縮されていて、それは観客を刺激し、楽しませ、笑わせ、泣かせることになります。(中略)このユニークなゴースト・ストーリーは、失うことの傷み、そして多元宇宙の可能性という不条理な世界へ深く飛び込んでいく物語です。」

両作品を通じて描かれるのは、アイデンティティ、悲しみ、愛といった普遍的なテーマ。これらがSF的に表現されることで生まれる濃密な時間を、ぜひ劇場で味わってみませんか?

読み終えた時「出会えた!」と思った

ここからは、出演者の方のコメントをご紹介したいと思います。

『A Number—数』に出演する堤さんは、「ジョナサンとの仕事は4回目ですが、彼は役者から生まれるものを第一に、いつの間にか役者がうまく階段を上がれるように導いてくれます」と、その手腕を賞賛。

また、「最初はごく普通の親子の会話かと思いきや、よくよく聞いていると恐ろしい話になっていく。あり得ないとは言えない近未来の物語を、二人の会話だけでどう演劇として成立させていくのか。初めて共演する瀬戸君と一緒にじっくり取り組みたいですね」ともコメントしています。

『What If If Only—もしも もしせめて』に出演する大東さんは、「日本初演のこの戯曲を読み終えた時、「出会えた!」と思いました。なかなか難解ですけれど、それくらい吸い込まれ、圧倒されたんです」と、作品の魅力を語ります。

そして、「気付かないうちに凝り固まっている自分の発想を、国境や思考、あらゆる意味で境界線を飛び越え開かせてくれる演出家のジョナサン・マンビィと共に創作できることが有難いですし、時間も空間も超越した作品に少しでも近づけたらと思っています」と意欲を見せています。

『A Number—数』『What If If Only—もしも もしせめて』は、9月10日(火)から29日(日)まで、世田谷パブリックシアターで上演されます。また、10月4日(金)から7日(月)まで森ノ宮ピロティホール、10月12日(土)から14日(月・祝)までキャナルシティ劇場にて上演されます。詳細は公式HPをご覧ください。

さよ

私が個人的に注目しているのは瀬戸康史さん。NHK『グレーテルのかまど』や映画『違国日記』がとても好きなのですが、舞台での演技は拝見したことがないので、ぜひ劇場に足を運びたいと思います!