芝居の出来が悪い役者のことを、日本では「大根役者」と呼びます。「大根」と省略するだけでも、ネガティブな意味が伝わるこの言葉。そもそもなぜ大根に例えられているのか、皆さんはご存じですか?
観客の野次から生まれたネガティブワード
大根役者という言葉が定着したのは、江戸時代からと言われています。江戸時代に生まれたエンタメといえば、歌舞伎です。歌舞伎の鑑賞スタイルは観客が役者へ掛け声を送り、一緒に芝居を盛り上げるのが江戸時代から定番でした。
現代でも「○○屋!」、「○○代目!」といった役者を応援する威勢の良い掛け声を聞いたことがあるのではないでしょうか?
一方で、江戸の観客たちは下手な役者に野次を容赦なく飛ばすこともありました。大根役者は、歌舞伎で観客が役者への野次として使われたのが始まりと言われています。
なぜ下手な役者を大根に例えたのか
ではなぜ、観客は演技の下手な役者を茄子でも葱でもなく、大根に例えたのでしょうか?大根役者の由来には様々な説がありますが、有力な説として以下の3つが挙げられます。
1つ目は、大根は消化が良く食あたりしない、すなわち「当たらない野菜」だから。芝居がヒットすることを「当たる」と言うため、大根は下手な役者の例えに使われました。
2つ目は、大根は白い野菜なので、「素人(しろうと)」や「白ける」などの芝居を盛り下げる言葉を連想させるから。
3つ目の理由は大根の食べ方にあります。江戸の人たちは大根おろしを刺身の薬味や汁物にしていたそうで、おろして食べる大根は「役を降ろされる」実力不足の役者に重なったのです。
大根役者ではネガティブな意味に使われていますが、大根には「厄をおろす」という縁起の良い意味もあり、着物の柄にも用いられる人気のモチーフでした。また、歌舞伎の演目『矢の根』では、主人公の曽我五郎時政が大根を鞭にして馬を走らせるシーンが最大の見せ場になっています。
英語ではハム役者?!フランス語ではカブ?!
下手な役者を食べ物に例えた言葉は海外にもあって、英語では大根役者ではなく、「ハム役者(ham actor)」と呼ぶそうです。この由来には、売れない役者はお金が無くて舞台メイクをハムの脂で落としていたこと、ハムレットの作品はどんなに下手な役者が演じてもヒットすることが挙げられます。
さらにフランス語では、拙い演技の役者やつまらない映画のことを「カブ(navet)」に例えるのだそう。言語によって異なるものの、食材に例えるという共通点があるのは面白いですね!
大根役者と同じ意味の言葉に「三文役者」があります。三文役者に対して上手い役者は値段が上がって「千両役者」と呼ばれますが、大根役者の直接的な対義語がないのが不思議です。 大根の反対といえばなんでしょう?筆者は、幅広い食材に加工できる大豆が思い浮かびました。皆さんも何か良い例えが思いついたら、ぜひ聞かせてください!