ヨーロッパ企画の最新公演は、2016年に初演され第61回岸田國士戯曲賞を受賞した『来てけつかるべき新世界』。大阪・新世界にドローン、ロボット、AI、メタバースがやってきた…というまさに現代を予見していたような作品が、2024年に甦ります。そして本作ではヨーロッパ企画のメンバーに加え、岡田義徳さん、板尾創路さんと豪華キャストも集結。本作への出演の経緯と見どころを、岡田義徳さんと、作・演出の上田誠さんにお話いただきました。
台本が待ちきれなくて、戯曲を買って読みました
−今回、岡田義徳さんが出演することになった経緯を教えてください。
上田「初めて岡田さんとご一緒したのは、僕が脚本を担当したドラマ『ユキポンのお仕事』(2007年)でした。それ以降もヨーロッパ企画のメンバーがご一緒する機会が何度かあって、去年『横道ドラゴン』という作品でまた僕がご一緒したんです。劇団ひとりさんや岡田さん、芸人さんたちがアドリブで芝居をした後、それを受けて僕がその後の物語を書くという仕事で、かなり密な時間を過ごしたので、岡田さんと“ぜひまた舞台でもご一緒したいです”とお話して、今回出演いただけることになりました」
岡田「出演できて嬉しいです。ヨーロッパ企画の皆さんは年齢も近いですし、『ユキポンのお仕事』は本当に自分の中で好きな作品なんです。30歳になって最初の作品が着ぐるみというのも思い出深いですし、今やっても面白い作品だと思っています。焼きそばパンのエピソードは秀逸で、ワンシチュエーション、ワンカットで笑いもあるエピソードで、凄く好きです」
上田「そうなんですか。実は焼きそばパンのエピソードだけ、僕のオリジナルなんですよ。原作があるので基本的に原作にあるエピソードを使っているのですが、1話だけ自由に書かせていただいて。17年経って初めて聞けて嬉しいです」
−『来てけつかるべき新世界』の脚本を読んでみていかがでしたか?
岡田「世界観が凄いですよね。僕、台本を頂くのが待ちきれなくて、ヨーロッパ企画のHPで戯曲を買って読みました。これから稽古で変わっていくこともあると思うので読み込むことはしていないですが、楽しみすぎて。新世界は友達が住んでいるので遊びに行ったことも何度かあって、アンダーグラウンドというか、大阪だけど違う国のように感じるところがあるので、そこを舞台に描くのは面白いなと思いました」
−本作はドローンやAI、メタバースなどが登場し、2016年に書かれたということに驚いたのですが、どのくらい未来に実際に起こると予想して書かれていたのでしょうか。
上田「テクノロジーって調べていくと、今の技術がこうだから未来はこうなるだろう、みたいなことは数年後のことなら結構正確に予想しやすいんです。だからどの章も割と実際に起こることとして予想しながら、その中で物語は逸脱させて書くという形で作っていたので、ちょうど今は追いつかれないくらいで良かったです」
岡田「どのアイテムも未来に行きすぎていることがなく、平行線で今出てきている技術というのが凄いですよね」
−観客も、2016年の初演時とはまた違う受け止め方がありそうです。2024年版として調整する部分もありそうでしょうか。
上田「そういうつもりで読み返したんですけれど、大きなテコ入れは必要なさそうですね。冒頭で、食べログやブログ、NAVERまとめのような身近なところからAIなど遠いところに行くという構成になっているので、現代に接続する部分は少し直すかもしれません。あとは役者の皆さんと、稽古で色々と試しながら作っていければと思っています」
エモさと馬鹿馬鹿しさ、笑い、可愛げ。岡田さんならではの散髪屋を作ってもらえそう
−個性的なキャラクターがたくさん登場しますが、岡田さんにはなぜ散髪屋の役をやってもらおうと思われたのでしょうか。
上田「散髪屋はデジタル空間の人物に恋をしてしまうという役で、初演の時はギャグっぽい感じがあったのですが、今はそうも言っていられないというか、生成AIで作られていて、凄く可愛いなと思うものも多いですよね。だから散髪屋のエピソードも恋愛物として読めるようになっていると思います。だからこそ、エモさと馬鹿馬鹿しさ、笑い、可愛げも必要な役だと思うんです。岡田さんであれば、そういった要素を押さえながら、岡田さんならではの散髪屋さん像を作ってもらえそうだなと思いました」
岡田「この前、Macが作ったVRを体験してみたのですが、本当に凄かったです。人物だけでなく、人物の影までリアルで…。こういうものに恋をすることってあるだろうなと実感しました。笑いの要素も必要だと思うんですけど、ある種のリアルさがあって、そこに笑いが生まれてくるっていう方が面白いかなと思います。滑稽な人を客観的に見ていただいて、それがお客さんの笑いに繋がれば良いですね」
−公演には、本物のドローンやロボットも登場する予定でしょうか。
上田「初演も出せるものは出したので、それは踏襲しようかなと思っています。僕らヨーロッパ企画は企画性を大事にしていて、舞台上に大きな迷路を作ってその中で迷うとか、企画性に物語を後付けしているんですね。それでこの作品は、機械やデジタルと人間が舞台上で実際に絡むっていうのが企画性だなと思って作り始めたんですけれど、思いのほか物語が育ったんです。だからドローンなどは使いつつも、お芝居で見せる部分もあって良いなと思うので、虚実織り交ぜながら今回もやりたいと思います」
−新世界を舞台にしたのはどのような意図があったのでしょうか。
上田「新世界という名前なのにレトロな街並みがあるというのも元々好きだったので、そこに“新世界”が到来する、というのが面白いなと思いました。最初は大阪のおっさんがドローンと戦う、という劇にしようと思っていたのですが、『来てけつかるべき新世界』というタイトルにしてからドローン以外のデジタル技術も取り入れた話が出来ていきました」
−今回は本作の舞台である、大阪公演もありますね。
岡田「関西弁が心配ですね。稽古場が京都なので、その間に少しでも近づけたらとは思っているのですが」
上田「でもヨーロッパ企画も関西出身ではないメンバーもいますし、いろいろな場所からやってきた人たちが集う街でもありますから。それに岡田さん、今でも結構関西弁ですよね?」
岡田「この間まで出演していた音楽劇『A BETTER TOMORROW −男たちの挽歌−』でも関西弁でしたからね。演出助手の山田翠さんに、次の作品も関西弁なので厳しめにお願いしますって言っていたので、めちゃくちゃ鍛えてもらいました(笑)」
上田「東北弁からの関西弁とかじゃなくて良かったですね(笑)」
人に笑ってもらうのが一番難しい
−岡田さんはヨーロッパ企画という劇団の作品に出演するというのはどのような感覚ですか?
岡田「僕、憧れでした。劇団って踏み込みたくても踏み込めないものという感覚なので、ナイロン100℃の作品に客演で出させていただいた時も、僕が一番年下だったので一番早く行って稽古場を掃除したりして。劇団員という経験がないので、憧れですね。今回は皆さんと年齢も近いので、京都で一緒に作品を作るというのは、新しい体験ができるんだろうなとワクワクしています」
−東京では本多劇場で上演が行われますが、お二人にとって本多劇場はどのような劇場ですか?
岡田「たくさんの作品に出た劇場なので、思い出深いですし、また出られるのが嬉しいです。フットマイクだけで一番後ろの席まで声が届きますし、小さい声での細かいニュアンスも届くので、凄く良い劇場だなと感じます」
上田「ヨーロッパ企画としても東京の本拠地という感じで、コメディに合っている劇場だなと思います。距離の近さもそうですし、建物の響き方が良い感覚があります。ギターやバイオリンって使っていると音が馴染んでいくというのがあると思うのですが、劇場もそういうのがあるんちゃうかな、と思いますね」
−本作はAIやデジタル技術が日常に入ってくることでさまざまな変化が起こりますが、デジタル技術が演劇に入ることで、演劇はどう変わっていくと思われますか。
上田「僕らは割と積極的にデジタル技術を活用していると思います。リモート劇団という面もあって、京都で稽古をしているんですけれど、東京や大阪にもスタッフがいるので、デジタルの時代じゃなかったらそもそも出来ない劇団活動なんですよ。だからそういう意味でも、上手く取り入れていくものなんじゃないかなと思います」
岡田「僕も新しいものはどんどん取り入れていくべきだし、上手く付き合っていければ良いと思います。生の人とAIの人がお芝居をするっていう新しい演劇が生まれても僕はおかしくないと思いますし、それでいろんな人が面白さを感じられたり、感動を与えられたりするんであれば、別にやらないことはないと思います。怖さもあるんですけれどね」
上田「新しいものって、最新の時点ではどれも面白いんですけれど、だんだん浸透していくと、ここはCGで良いけれど、ここは人が演じた方がリッチだなとかいうことが出てくるので、適材適所になっていくんだろうなと思います」
岡田「多分、AIが生の人たちの演劇に勝ることはこの先もないと思います。そうであれば、今でも演劇を観にくる人はいないでしょうし。生の人が動いて、その肉声を聞いて、それが感動したりとか楽しかったりすることがあるっていうのは、やっぱり生の人たちがやる良さだと思うので、そこは絶対的に負けることはないと思っています」
上田「特にコメディは、お客さんとの空気感も含めて、生の人がやるからこその良さがありますよね」
岡田「人に笑ってもらうことって、一番難しい気がします。泣かすことよりも笑わすことの方が100倍ぐらい難しいって僕はいつも思っているんです。劇場という空間で、構えている人たちを笑わせるって、ものすごいエネルギーが要ることだなっていつも感じます。一生懸命やりすぎていても、“一生懸命やっているな”と思われて笑いにならないし、良い意味で力を抜くことも必要なので」
上田「油断されながら愛されて、リスペクトもないと笑いって生まれないですよね。あと笑い声ってお客さんの勢いみたいなのも必要だと思っていて、例えば漫才大会の決勝で、お客さんが前のめりで、全部を聞き逃さないように集中度が上がっていると爆発的な笑いになると思うんです。だからヨーロッパ企画でもお客さんが見逃さないぞと思ってもらえるような作品にしたいですし、再演ですけれど、油断なく観てもらえたら嬉しいです」
ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』は8月31日に栗東プレビュー公演を行ったのち、9月5日から8日まで京都公演を上演。魚津・新潟・東京・大阪・名古屋・横浜・福岡・広島・高知・金沢・札幌公演が行われます。東京は本多劇場で9月19日から10月6日まで。公式HPはこちら
初演時より作品の世界に近づいた今だからこそ、感じることがありそうですね。岡田義徳さんや板尾創路さんがヨーロッパ企画に加わることで、どのような化学反応が起こるのか楽しみです。