「才能が宿るのは肉体なのか?魂なのか?」というテーマをベースに、モーツァルト35年の生涯を描いたミュージカル『モーツァルト!』。ヴォルフガング役・京本大我さん、ヴァルトシュテッテン男爵夫人役・香寿たつきさん、アマデ役・白石ひまりさんで行われたゲネプロリポートをお届けします。

今の29歳の京本大我が出来るヴォルフガングへのアプローチを大事に

「僕こそ音楽」を始めとするミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイが手がけた名曲の数々と、帝国劇場のステージいっぱいに置かれた大きなピアノのセット、シーンごとに美しく彩られる衣裳や美術、“才能の化身・アマデ”。唯一無二の魅力を放ち、私たちを魅了し続けるミュージカル『モーツァルト!』が帰ってきました。

今回、新たに主人公のヴォルフガング・モーツァルトを演じるのは、京本大我さん。井上芳雄さん、中川晃教さん、山崎育三郎さん、そして今回Wキャストとなる古川雄大さんに続き、日本公演で5人目のヴォルフガングとなります。

京本大我さんは初日を前に、「あっという間の稽古期間でした。雄大君をはじめ、皆さん優しくて、色んな角度から多くのアドバイスをくださいました。今まで演じてこられた方々の事を考えるとプレッシャーはあるのですが、僕にとっては初挑戦なので、作品の歴史にリスペクトを持ちながら、今の29歳の京本大我が出来るヴォルフガングへのアプローチを大事にしようと思っています」と稽古期間を振り返ります。

また「なるべく守りに入らずに“攻める”気持ちで行きたいです。ヴォルフガングだけでなく、京本大我自身の心もあえて尖っていたい。腰が引けたくないし、心持ちだけは常に強く前を向いていたいです。もちろん謙虚さは持ちつつも、舞台に挑む上での“尖り”が、ヴォルフガングの役柄にも良い影響を与えられたら良いなと思います」と今の心境を語りました。

久しぶりの帝国劇場作品への出演、主演については「『エリザベート』を経て久しぶりに帝劇に帰ってきたので、重みを知っているからこそ感じるプレッシャーと、逆に噛み締められる想いがあります。僕が帝劇に立つことを待ってくださっていた方々へは恩返しにもなると思いますし、何より作品が本当に素晴らしいので、観ていただける事が本当に嬉しいです。歴代の素晴らしいヴォルフガングがいらっしゃる中で、僕はかなり初々しく映ると思うんですけど(笑)、おこがましいかもしれませんが、何回も観ていらっしゃる方がご覧になっても、新しい作品を観ているくらいの新鮮さを感じていただけたら嬉しいです。荒削りな部分も沢山ありますが、頑張っていきたいです!」と意気込みました。

このままの僕を愛してほしい

5歳にして作曲の才能が花開いた“奇跡の子”、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。貴族たちにもてはやされた彼にも、歳月は流れます。ヴォルフガングはコロレド大司教に仕えて作曲をする日々を過ごしますが、制限の多い日々に嫌気がさし、幼少期のように演奏旅行に出かけたいと考えます。京本さん演じるヴォルフガングは子どものような無邪気さ、やんちゃさに溢れ、喜びや自由さが内側から溢れ出ているよう。軽やかに舞台上を駆け回る姿を見ていると思わず笑みがこぼれるような、愛らしいヴォルフガングが印象的です。

自分の才能は自分だけのもの、自分の感じるもの全てが音楽になっていく。まさに“天才”の領域にいるヴォルフガングにとって、身分を理由に自分を支配するコロレド大司教の態度に納得がいかないのも頷けます。

しかし市村正親さん演じる父のレオポルト・モーツァルトは、現実的で、ヴォルフガングを愛するが故、彼を守るためにコロレド大司教に逆らわないように忠告し続けます。父の愛を理解しながらも、自由を求める自分を理解してほしいと願うヴォルフガング。

“このままの僕を愛してほしい”。彼の願いはとてもシンプルで普遍的です。しかしそれ故、ヴォルフガングとレオポルトだけでなく、多くの親子における悩みとも言えるかもしれません。レオポルトや姉のナンネール(大塚千弘さん)は人々に賞賛された過去を忘れられないまま過ごしており、ヴォルフガングと心の距離が開いていってしまいます。

ヴォルフガングと対立するコロレド大司教を演じる山口祐一郎さんは、その独特で凄みのある歌声、“支配者”として君臨するオーラで圧倒。舞台上を動き回るヴォルフガングと対照的に、“静”でありながら、観るものを惹きつけます。ヴォルフガングの邪魔をし、彼を独占しようと画策し続けるコロレド大司教は、ヴォルフガングの敵でありながら、彼の才能を一番評価していた人間かもしれません。

ヴォルフガングがウィーンに移り住むきっかけを与えるのが、幼少期から彼の才能を見抜いていたヴァルトシュテッテン男爵夫人。香寿たつきさん演じる男爵夫人は全てを包み込むような懐の大きさを感じさせ、ウィーンに行くことを反対する父の気持ちを慮りながらも旅立たせるよう促す楽曲「星から降る金」は圧巻です。

“このままの僕を愛してほしい”。ヴォルフガングのありのままを愛したのが、ウェーバー一家の娘であるコンスタンツェでした。父と上手くいかないヴォルフガングの孤独を埋めてくれたコンスタンツェ。両親から愛情を受けられなかった彼女にとっても、ヴォルフガングは救いの存在だったのでしょう。真彩希帆さんが演じるコンスタンツェで印象的だったのは、名曲「ダンスはやめられない」。ヴォルフガングにインスピレーションを与える存在でいなければ。そんなプレッシャーに打ち勝てない自分を憂うような、そして怒るような表現力に魅了されました。

ヴォルフガングのそばには常に幼い頃の格好のままの“才能の化身・アマデ”が寄り添い、作曲に勤しんでいます。アマデは名曲を生み出し続け、遊びに行こうとしたり、家族の声に揺らいだりするヴォルフガングを、音楽に引き戻そうとし続けます。時には、ヴォルフガングの心を引き裂き、命を削らせてでも。

撮影:山本春花

“自分の影から逃れられるのか”。過去から解き放たれたいと願いながらも、ヴォルフガングの喜び、怒り、悲しみ、その全ての感情は音楽に繋がっていきます。“感じる全てを音に乗せ”るヴォルフガング。京本さんが演じるヴォルフガングには孤独や悲しみもありますが、その全てを音楽に昇華させる強いエネルギーに満ち溢れており、やはりヴォルフガングは、彼そのものが“音楽”なのだ、と感じさせられました。

ミュージカル『モーツァルト!』は8月19日(月)から9月29日(日)まで帝国劇場、10月8日(火)から27日(日)まで梅田芸術劇場メインホール、11月4日(月)から30日(土)まで博多座にて上演されます。公式HPはこちら

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Yurika

「僕こそ音楽」「愛していれば分かり合える」「星から降る金」「ダンスはやめられない」「終わりのない音楽」…改めて名曲が詰まった本作の凄さを感じました。