ロングラン3年目を迎え、総観客数100万人を超えた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。2022年の開幕時から2023年6月までマクゴナガル校長役として出演し、2024年3月からカムバックした榊原郁恵さんに、本作の魅力と役柄への思いを伺いました。(※「榊」は正しくは”木へんに神”)

竜也くんが“ワンチーム!”と言ってくれて、救われました

−本作への出演が決まった時、感激で涙を流されたそうですね。
「オーディションを受けてからしばらく音沙汰がなかったので、合格を頂いて驚きました。別の仕事で楽屋に戻った時に舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の脚本の書籍が置いてあって、それを開いたら“マクゴナガル校長に合格しました”と書いてあって。サプライズして頂いたので、思わず涙が出ました。オーディションを受けて評価して頂き、役を頂くというのが初めての経験だったので、私はこの先もお仕事を続けていいんだな、と思えました」

−作品に長く関わられて、本作の魅力をどのように感じられていますか?
「J.K.ローリングの脚本が素晴らしいですし、それを素敵に翻訳されているので、何気ない台詞が凄く良い言葉なんです。だから出演していても、聞き入る瞬間があります。ハリー・ポッターと言うと魔法の世界、異世界に思われるかもしれないですが、物語は親子の愛や、友情、葛藤を描いていて、私たちの年代でも、どの年代でも心揺さぶられるシーンがあります。だからこそ長く愛されているのだと思います」

−お好きなシーンや台詞はありますか。
「ダンブルドア先生は哲学者ですね。全ての台詞が刺さります。それに、ドラコが映画とは印象が変わって大人で、良いことを言うんですよ。ハリーに向かって言う台詞は良いなぁといつも思いますね」

−ドラコが大人なのに対して、ハリーはなかなか子どもっぽいと言いますか、特にマクゴナガル先生や息子のアルバスに対して、“それは言っちゃダメ!”と思うことを言ってしまいます。それでもマクゴナガル先生はかつての生徒としての愛情を持って接しているように感じるのですが、どのようにハリーと向き合っていますか。
「大人になったハリーは魔法省で国を統括する立場なので、そういったところは尊重しています。だから強く言えない部分もあるんですけれど、やはりかつての教え子として気掛かりで、ダンブルドア先生のことを引きずっているハリーにはピシャリと言わなければと思っています。最後の校長室のシーンで目の前にいる生徒と向き合うため、“あなたの出番ではない”としっかりハリーに苦言を呈するところは、好きなシーンですね。最初は一番緊張したシーンでもあるんですけれど」

−そうなんですか?
「ハリーやドラコ、ジーニー、ハーマイオニー、アルバス、スコーピウスと錚々たる面々がいて、感情を押し殺しながらも、タイムターナーを保管していたことがどれほど大変なことかを訴えなければならないので、最初は焦ってなかなか台詞が出てこなくて。苦戦していたら、(ハリー役を務めた藤原)竜也くんが“ワンチーム、ワンチーム!”と言ってくれて、救われました。自分だけが演じているんじゃない、みんなで創っているシーンなのだと感じられるようになりましたね」

−カンパニーの皆さんは家族のような深い絆で結ばれている印象があります。
「そうですね。アンサンブルの方が役を獲得してデビューすることも多いのですが、先日も手打隆盛さんがエイモス/ダンブルドア役でデビューをした時、藤木直人さんや1年目のキャストが駆けつけていました。出演が終わってもそういった情報をキャッチして集まるなんて、本当に素敵なカンパニーだなと思います」

生徒たちと過ごすうちに、マクゴナガル校長としての愛情が芽生えるように

−榊原さんはマクゴナガル校長だけでなく、他の役も演じていらっしゃいます。2役を演じてみていかがですか?
「私はどちらかというともう一つの役の方が先に掴むことができました。2幕の冒頭が凄く楽しくて、愛すべき人物ですね。一方でマクゴナガル校長は、映画であまりにもイメージが定着しているし、私にはかけ離れた存在という印象があったので、なかなか辿り着くまでに時間がかかりました。でもマクゴナガル校長として時間を過ごしているうちに、アルバスやスコーピウスといった生徒たちが背伸びしながらもがいている姿を見て、愛情が芽生えた瞬間があったんです。そこから私なりにマクゴナガル校長としての感覚、生徒たちやハリーへの接し方が作れていけるようになりました」

−一度出演を終え、カムバック期間までに少し時間が空いたことで見えたことはありましたか。
「いっぱいありました。みんなも“凄く変わったね”と言ってくれました。初めはずっと苦戦していましたし、必死になってやっていたので、一回役から離れて、お客様と同じように真っ白な気持ちで作品を観劇したことで気づいたことが、カムバック後に反映できている気がします」

−舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』と言えば、数々の魔法も魅力的です。
「実は本作でフライングに携わってくれているのは、私が『ピーター・パン』出演時にフライングを担当してくれていたピーター・フォイさんの息子さんなんですよ。機械にはあまり頼らず、人力で魔法を創り出す裏側を知っているので、イギリスの演劇らしさを感じますし、それが魅力の1つだと感じます」

−マクゴナガルも校長となり、ハーマイオニーは魔法大臣になっています。女性がトップに立っているというのも印象的です。
「そうですね。そういった点でもマクゴナガルはハーマイオニーを敬愛していて、だからこそタイムターナーを持っていたことへの残念な気持ちが大きいのだと思います。それがどれだけ大変なことを引き起こしてしまうのか。なぜトップに立つ人間がそんなことをしてしまうの?という問いは今の世の中にも重なるので、大事に演じたいと思います」

撮影:鈴木文彦
衣裳:【ワンピース】Cucina、【イヤリング】Kinoshita pearl、【リング】NINA RICCI/エスジェイ ジュエリー

−最後に、お客様に向けてメッセージをお願いします。
「ハリー・ポッターシリーズのファンの方にとっては、映画の世界を生で体感できる楽しさを感じてもらいたいです。私と同じ世代の方はハリー・ポッターにあまり馴染みのない方もいると思うのですが、物語はとてもシンプルなんです。親子の愛や友情、身近なテーマを描いていますし、人力で魔法を創り上げる、演劇としても考え抜かれた作品ですので、ぜひこの世界観を体感してもらいたいです」

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はロングラン上演中。チケットの詳細は公式HPにてご確認ください。

Yurika

作品に長い期間携わられている榊原さん。マクゴナガル校長の視点からのハリーやハーマイオニーへの想いが伺えました。撮影では、作品の世界観が詰まっている劇場での幻想的な撮影が実現し、カメラマンと共に大興奮でした!