10月5日(土)から東京・THEATER MILANO-Zaにて開幕したBunkamura Production 2024『台風23号』。赤堀雅秋さんが書き下ろした新作で、森田剛さん、間宮祥太朗さんの初共演が実現。さらに木村多江さん、藤井隆さん、伊原六花さん、駒木根隆介さん、秋山菜津子さん、佐藤B作さんという豪華キャストが、海沿いのとある町に生きる市井の人々を描きます。

市井の人たちの物語を、同じ目線で描きたい

Bunkamura Production 2024『台風23号』取材会には森田剛さん、間宮祥太朗さん、木村多江さん、藤井隆さん、伊原六花さん、駒木根隆介さん、秋山菜津子さん、佐藤B作さんと、作・演出・出演の赤堀雅秋さんが登壇しました。

書き下ろし新作ということで作品の内容がベールに包まれながらも、「赤堀作品ならば」と集結した豪華キャストの皆さん。伊原六花さんは「稽古にお金を払いたくなるくらい、素晴らしい皆さんとの学びの多い稽古の時間で、とっても毎日が楽しかったです」と振り返ります。

一方で佐藤B作さんは「赤堀さんの作品は大好きでよく拝見していたんですけれども、やるのと見るのとは大違いで…冬山に登るような厳しい稽古でした(笑)」と悩むことも多かったよう。これに対して赤堀さんは「僕は、稽古はスムーズに進んでいると感じていて、夏山だと思っていたんですけれど(笑)」と返しつつ、執筆自体は「近年稀に見るくらい難航した」そう。

そのため、当初は森田剛さんがかまぼこ工場で働く男性、その男性の別れた妻の弟が間宮祥太朗さんという、義理の兄弟の設定で物語を進めていたものの、役柄を変更し、森田剛さんは町の配達員、間宮さんは介護ヘルパーの田辺という今の形に変わっていったと明かしました。

「この作品に限らず毎回そうなんですけれど、商業演劇で、いわゆる“市井(しせい)の人たち”、生活者の物語を、僕自身が同じ目線で描きたいなというのを大事に書き続けていまして、そこには強い思いがあります」と作品への思いを語りました。

本作が初共演でダブル主演となる森田剛さんと間宮祥太朗さん。お互いの印象について森田さんは「(間宮さんに)会うのを非常に楽しみにしていたんですけれど、一緒に稽古をしてみて、稽古に取り組む姿勢や、すぐになんでも出来ちゃう感じが“このやろう、いいなぁ”って思っていました。僕はなかなか役を掴めずにいて、演出をしてもらっている時に、このままだと泣くんじゃないかなと思っていたんですれど、その時にB作さんを見たら同じ顔をしていて救われました(笑)。男っぽくて、優しくて、センスがあって、一緒に芝居するのが楽しいです」と絶賛。

間宮さんは笑顔で喜びつつも、「すぐ出来ちゃうっていうのだけやめてもらっていいですか(笑)」と苦情が。間宮さんも悩みながらも稽古だったようです。

そして森田さんについては「最初座っているだけのところから、一気にその人の今までの奥行きを感じさせられるようで、やっぱり森田剛さんって、役者として底知れない魅力があるなってことをすごく再認識しました。毎日稽古で同じ芝居をやっていても、同じことが起こらないというか、そこで交わす言葉のいろんな模様が変わってくるようなところがあって、本当に一緒にやっていて楽しいです」とコメント。お二人が刺激を受け合う良い関係性にあることが伺えました。

海沿いの小さな町の物語

海沿いの小さな町、異常な暑さの続く10月。少し寂れた雰囲気の町役場とスナックの間、階段の多い街角に人々は変わるがわる、やってきます。

配達員(森田剛さん)は大量の荷物を運ぶ途中、青いベンチで休憩中。一方、介護ヘルパーの田辺浩一(間宮祥太朗さん)は訪問先の老人・古川勝(佐藤B作さん)を探しに町役場に。田辺は、飲み物を買おうとするも小銭のない配達員に10円を貸そうとしますが、なぜか配達員は頑なに受け取ろうとしません。

スナックを切り盛りする菊池雅美(秋山菜津子さん)は届かない荷物を探して配達員の荷物を物色しますが、配達員は「勝手なことをしないでください」と怒り、警官(駒木根隆介さん)が間に入ります。

古川勝は自分を老人扱いするヘルパーの田辺を嫌っているよう。勝の娘・井上智子(木村多江さん)と町役場に勤める夫の秀樹(藤井隆さん)も古川勝を心配しますが、どこか人任せな秀樹に智子は怒りをぶつけます。

東京でアルバイトをしている雅美の娘・宏美(伊原六花さん)は、母の病気の報せを受けて帰省しますが、変わらない町に辟易とします。母はパチンコに熱い男・星野純(赤堀雅秋さん)と付き合っており、近々結婚すると宣言。そんな中、古川勝が「財布がない」と騒ぎ始め…。

増え続ける荷物をひたすら配達する配達員は、生きるために必死な毎日。ピンポンを鳴らしても出てこなかったのにもう一度持ってこいと電話する客とやり合い、ゆっくりご飯を食べる暇もありません。森田さんはすぐ近くの町で暮らしていそうな親近感ある配達員を、一方で“この男はちょっと変だぞ”と思わされるユニークさとの絶妙なバランスで魅せていきます。

撮影:晴知花

介護ヘルパーの田辺浩一演じる間宮祥太朗さんも、古川勝に優しい言葉をかけながらも、言動の端々に、鬱屈した気持ちをちらつかせます。配達員と介護ヘルパー、少子高齢化が進む現代の日本で人材不足が深刻な職業の2人。物語が進むにつれ、2人の「リアルな生きる姿」が見えてきます。

『台風23号』は10月5日(土)から27日(日)まで東京・THEATER MILANO-Za、11月1日(金)から4日(月・休)まで大阪・森ノ宮ピロティホール、11月8日(金)9日(土)に愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホールにて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

受け取る人によって悲劇にも喜劇にも見える『台風23号』。「ある町で一生懸命生きている姿を見て、生きようと思っていただけたら」と森田さんが語った通り、これはどこかの町に生きる人たちの物語であり、現代を生きる私たちの物語でもあります。