7月7日(木)に開幕予定の『ザ・ウェルキン』。一人の少女の裁判の判決を巡って集められた、12人の女性たちの物語です。劇作家も、演出家も実力派の若手が揃った本作。現代の価値観で18世紀中頃のイギリスの様子を描きます。

少女は本当に妊娠しているのか… 生死を決める審議の行方は

『ザ・ウェルキン』の舞台は1759年のイギリスの田舎町。ウェルキンというのは天空のこと。町の人々は75年に一度天空に舞い戻ってくるという彗星を待ち侘びています。そんな時、1人の少女、サリーが殺人罪で絞首刑を宣告されます。しかし、彼女は妊娠を主張。妊娠している罪人は死刑を免れるのです。

そこで、真偽を確かめるために陪審員として、妊娠経験のある女性12人が集められます。多産の者、流産経験ばかりで子供のない者、早く帰って家事をしたい者など、生死を決める裁判への参加に戸惑う陪審員たち。その中には、サリーに公正な扱いを受けさせようとする助産師のエリザベスの姿がありました。サリーは本当に妊娠しているのか、そうでないとしたら、なぜエリザベスはサリーを庇おうとしているのでしょうか…。
18世紀半ばの、男性支配社会に生きた女性たちの姿が浮き彫りにされます。

SISカンパニーは、野田秀樹主催の劇団「夢の遊民社」(1992年解散)のマネージメント部門「えーほーしよう会」が前身。1989年に「シス・カンパニー」として独立します。その後、舞台制作部門を設立し、「NODA・MAP」の制作業務を1994年から2008年まで請け負いました。シス・カンパニー独自の舞台制作もしており、年に3〜4本の上演はどれも好評。11月には三谷幸喜さん作・演出の『ショー・マスト・ゴー・オン』の上演が決まっています。

そんなSISカンパニーが手掛ける『ザ・ウェルキン』注目のキャストには、殺人罪で裁判にかけられている少女サリーに大原櫻子さん。サリーを庇う助産師エリザベスに、吉田羊さん。陪審員として呼ばれる女性たちに、『ピアフ』(2015年)で菊田一夫演劇賞を受賞された梅沢昌代さんや、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』など舞台だけでなく映像でも勢力的に活動されている鷲尾真知子さん等、ベテランから若手まで実力ある俳優陣が揃います。

現代の価値観で18世紀半ばのイギリスを描く

本作は、イギリスの若手劇作家ルーシー・カークウッドの新作として、コロナ禍直前の2020年1月末にイギリスのナショナルシアターで開幕。ロックダウンのため、本来は半年間を予定されていた公演が途中で中止となりましたが、作品は大好評を博しました。
彼女が一躍有名になったのは、天安門事件を主題に、アメリカと中国の過去と現在の抱える問題を追求した『チャイメリカ』という作品。日本でも2019年に上演されました。
他にも、巨大震災・大津波・それに伴う原発事故を描いた『チルドレン』など、社会問題に鋭く切り込んでいく劇作家です。

演出は、新進気鋭の演出家・加藤拓也さん。演劇作品にとどまらず、古田新太さん主演のドラマ『俺のスカート、どこ行った?』(2019)などで脚本を務めた経験があります。今回、翻訳戯曲に初挑戦です。
加藤さんは本作を演出することについて「女性について深く描かれた作品を、男性と自認している自分が演出する。女性の演出家がこの作品をやるのと違って、お客さんの見方にバイアスがかかると思う」と言います。「作品作りに性別を持ち込むことは時代遅れだと感じるけれど、作品を俯瞰して、お客さんにどう現実世界にこの物語を持ち帰ってもらえるかが大切だと思うので、そこを目指して頑張りたい」と稽古初日俳優たちに話す姿が印象的でした。
作品のテーマとも重なるジェンダーロールへの先入観。世間も敏感になっているからこそ、作品作りの際も丁寧に真摯にこの問題と向き合うことが必要になってきます。

7月7日(木)〜7月31日(日)東京公演をBunkamuraシアターコクーンで、8月3日(水)〜8月7日(日)大阪公演が森ノ宮ピロティーホールで行われます。詳しくはこちらから。

ミワ

演出の加藤さんは、一人一人と関係を丁寧に築いていこう、作品とも真摯に向き合おうとしている印象を受けました。稽古初日の本読みの映像をみて、作品への期待が高まります!