2009年にブロードウェイで初演、2010年に韓国で上演され、日本でもこれまで2度上演されたミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』。2人の生涯の友情を美しい音楽と共に描いた約110分間の2人ミュージカルです。11月5日の開幕を前に、囲み取材とゲネプロが行われました。本記事では囲み取材と、山崎大輝さん×小野塚勇人さんペア回のゲネプロの様子をお届けします。

「どう関係を修復し治癒していくかを優しく訴える作品」

囲み取材では、演出:高橋正徳さん(文学座)、アルヴィン役:太田基裕さん×トーマス役:牧島輝さん、アルヴィン役:山崎大輝さん×トーマス役:小野塚勇人さんが本番衣裳で登壇しました。

「それぞれの記憶や思い出の断片が繋がっていって、どう移り変わるかによって変わっていく作品です。丁寧に紡がれた先に見える景色というのがドキドキもしますし、毎回楽しみだし、お客さんも一緒に注目して、最後どうなるのかを楽しみに観ていただけたら」と語った太田基裕さん。

「新しいペアも入って、“バタフライ効果”のように、どんどん作品が大きくなっていったらいいなと思っております。凄く無垢で、非常に残酷で、でも心に訴えかける魅力的な作品だと自信を持って言えますので、ぜひ楽しんでください」と作品になぞらえて呼びかけました。

牧島輝さんは「3年ぶりの出演ということで、台本を読んだ時に前回とだいぶ作品の印象が違うなと感じました。3年という時間の中で色々な経験をしているし、舞台にも立ってきて、3年ぶりにトーマスに会って感じることが少しずつ変わって、また新しく作品を作る過程がすごく楽しい稽古でした」と振り返り、「物語冒頭と最後のシーンが同じ台詞で始まるので、最初と最後のトーマスの表情がどう変わっていくのを観てもらえたら嬉しい」と語りました。

また「前回クリスマスの時期に上演していて、作品もクリスマスイブに起こる出来事が中心になっていくのが印象的で、去年も一昨年もクリスマスが来るたびにこの作品のことを思い出したりして。観に来てくれたお客様がどんな刺さり方をするかは分からないけれど、こういう時期になったら思い出してもらえるような、心に残るような作品になったら良いなと思っております」と作品への想いを語りました。

太田さんは牧島さんについて「3年前とは違う一面を見ている気がするし、色々な案を提案してくれて互いに高めあえた稽古場だったと思います。本番でもさらに刺激しあって素敵な作品になると良いなと思っています」と照れながらも語り、牧島さんも「太田さんは俳優である前に人として信用できるので、頼らせてもらっているし、太田さんも頼ってくれているなと感じる瞬間があって嬉しいなと。一緒に作っているという感覚があります」と深い信頼関係を語りました。

本作に初出演となる山崎大輝さんは「やることがもの凄く多くて、まずそれに打ちのめされていたんですけれど…2人芝居、110分間、相方を信じて何があっても2人で続けていくという絆を構築してきたのかなと思っています。アルヴィンという役はある種、ピーター・パンのように思っているので、そういう心を大切に演じたいと思います。観る人によって捉え方が違ったり、同じ人でも観るタイミングによって捉え方が違ったりする作品になるなと思って、魅力に感じています」とコメント。

小野塚勇人さんは「とにかく緊張しています。久しぶりに少人数のミュージカルで予想はしていたんですけれども、予想を遥かに上回る緊張をしています。めまぐるしく展開も変わりますし、楽曲も次から次へと出てくるので…最後は作品を心から楽しみながらやれる自分になりたいなと思いますが、今はまだ緊張しています」と緊張を明かしつつも、見どころについて「アルヴィンとキャンプ場でキャンプファイヤーをやるシーンですかね」とおどけ、山崎さんから「そんなシーンやってないから!」と突っ込まれる一幕も。

山崎さんは小野塚さんについて「すぐボケる、すぐ笑いに行こうとする(笑)。僕もどっちかというとそっち側の人なので、やりやすくて、楽しくやらせてもらっています」と言い、小野塚さんは「最初の取材段階で今みたいに食い気味に突っ込んでくれる印象があったので、“これはちょっと甘えられるぞ”と思って自由にリラックスして稽古場を過ごせました」とお2人ならではの空気感で稽古が進んだようです。「お芝居をしていても感覚的に噛み合う瞬間が多かった」と小野塚さんが語り、相性の良さが伺えました。

高橋正徳さんは今回の2ペアについて「太田さん牧島さんチームは前回のベースができているところからどう深めていけるか、戯曲や歌詞の解像度を上げていく作業を粛々と出来たし、牧島さんは前回が26歳と若かったので、それから3年経ってより大人になって、ちょっと尖っているところもあるんですけれども、それを太田さんが優しく見守りながら(笑)、稽古で作っていけたかなと思います。山崎さん小野塚さんペアは情報量が多い作品なのでそれに翻弄されていましたが、それを乗り越えるエネルギーが作品にエモーショナルなものを呼び起こしてくれていますし、繊細なところもあるので、両極端なバランスが良いペアです。新しい空気の『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』になりました」とそれぞれの魅力を語りました。

また「2回目の上演時はコロナ禍で、苦労しながら稽古をしていたのですが、コロナが明けた後、劇場にたくさんのお客様が戻ってきてくれた一方で、コロナ禍以降に社会がさらに辛くなったり、分断みたいなものが問題になっていたりすると思います。そうした中でこの作品で届けられるのは人と人との出会いや、その時間をいかに豊かに過ごすか、時に人を傷つけてしまうけれども、どう関係を修復し治癒していくかを優しく訴える作品だと思っていますので、ぜひ多くの皆様に観てもらいたいと思います」と、今この作品を上演する意義を語りました。

山崎大輝×小野塚勇人が魅せる新たな“物語”

ベストセラー作家のトーマス(小野塚勇人さん)は、幼なじみのアルヴィン(山崎大輝さん)の弔辞を読むため、故郷へと帰って来ます。しかしアルヴィンに贈る言葉が出てこず、彼の何を知っているのか、何が2人の仲を変えてしまったのか、呆然と立ち尽くします。

そこに現れたのは、死んだはずのアルヴィン。彼は本棚の中から2人の物語が描かれた原稿を選び、記憶を辿っていきます。トーマスは助けを借りずに弔辞を書くと言い張りますが、アルヴィンは気にもとめず、次々と物語を選んでいきます。

本棚は2人の記憶であり、またアルヴィンの父親が経営していた本屋でもあります。2人は本屋で多くの時間を共に過ごしていました。

6歳で出会った2人は“変わり者”同士でしたが、成長するにつれ、トーマスは周囲と違うことをすると笑われることを学び、アルヴィンに「このままだと高校でいじめられる、普通になれ」と諭します。しかしアルヴィンは無邪気にチョウチョを追いかけ、ハロウィンには亡くなったお母さんの幽霊の仮装をする、“変わり者”の青年のままでした。

やがてトーマスは小説家を志ざし、町から出ていってしまいます。そのきっかけを作ったのは、アルヴィンがクリスマスにトーマスに贈った小説『トム・ソーヤーの冒険』。そしてトーマスが描く物語にはいつも、アルヴィンの“バカバカしい”ファンタジーが盛り込まれていました。

アルヴィンはトーマスが離れていくことを感じながらも、トーマスが書く言葉を待ち続けますが、トーマスは段々と書けなくなってしまい…。

多くの観客は、大人になっていくトーマスの視点から本作を観るでしょう。小野塚勇人さんは自然体にトーマスを演じ、ファンタジックさもある本作と現実との距離感を近づけてくれます。一方で、Audienceのインタビューでも「天才に憧れた凡人であることに共感する」と語った通り、トーマスの奥底にあるアルヴィンへの羨望や、書けない現実の中でもがく姿、小説への賞賛に縋ろうとする姿は、身につまされる想いにもさせられます。

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山崎大輝さんはアルヴィンの無邪気さを軽やかに表現。子どもの頃には誰もがしていた空想を大人になっても無垢に語る姿は、山崎さんが囲み取材にて「ピーター・パンのよう」と語ったのも頷けます。眩しく輝くアルヴィンを演じながらも、愛する母親を幼少期に亡くした彼の悲しみや、町に取り残されてしまう孤独さを繊細に表現しているのも印象的でした。

本作は過去の思い出を振り返りながら、同じ台詞が何度もリフレインしていきます。物語が進むにつれ、どんどんとその言葉の意味が変化していくのは、音楽と共に語られるミュージカル作品ならではの愉しみではないでしょうか。

アルヴィンとトーマスの物語を辿っていった最後に、忘れていた子どもの頃の些細で大切な思い出を思い出すのか、手放してしまった誰かを思い出すのか、今失いたくない人を想うのか。忙しない日常を過ごしている大人にこそ、届いてほしい作品です。

撮影:鈴木文彦

ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』は11月5日(火)から11月15日(金)までよみうり大手町ホールにて上演。11月22日(金)、23日(土)には大阪・サンケイホールブリーゼにて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

キャストの皆さんが語った通り、観るタイミングによっても感じ方の変わる作品だと感じました。