みなさんは「時代劇」と聞くと、どんなイメージを持ちますか?馴染みがない、難しそう、登場人物が多くて覚えられない……でも、それだけじゃもったいない!今回は、こうした価値観をひっくり返す新時代のエンターテインメント時代劇『浪人街』について、魅力を余すことなくご紹介していきます。

時代劇の歴史を更新した伝説の作品が舞台化

もともと『浪人街』は、脚本家・山上伊太郎が書き下ろし、1928年にマキノ正博監督によって制作された「浪人街第一話 美しき獲物」から始まるサイレント映画シリーズです。主演も含めたキャスト陣は無名の若手俳優ばかりだったにもかかわらず、日本全国で大ヒットを記録し、映画雑誌『キネマ旬報』では同年のベストワンを獲得しました。

時代劇といえば「殺陣」のイメージが強いかもしれません。同作は、時代劇映画で初めて、数十人で行う集団殺陣のジャンルを切り拓いた印象的な作品でもあります。また、古めかしい時代劇に特有の「忠義」や「武士道」といった演出はなく、現状に怒り、己の感情のままに戦う無名の浪人たちを、ありのままに描いています。

『浪人街』は、松竹において、1990年にマキノ正博監修、原田芳雄主演で4度目のリメイクとして映画化され、長年愛され続けてきたことでも有名です。そんな伝説的作品が、2025年に「新時代のエンターテイメント時代劇」として舞台化されることになりました。人情、欲望、裏切りといった時代劇らしさはそのままに、2025年の新たな視点も織り交ぜた『浪人街』が幕を上げます!

<あらすじ>
舞台は安政時代の江戸の町。藤兵衛が営む飲み屋にはやくざ者、夜鷹、浪人といったはみ出し者たちが集い、毎晩酒を酌み交わしていた。新顔の浪人・源内は店の支払いを巡り、用心棒である赤牛と刀を合わせる事態に。そこへ浪人の母衣が仲裁に入り、その場を収めるのであった。

店の常連で巾着切りのお新は実は源内と顔なじみで、いつも弄ばれ金をたかられているのだが、源内に惚れ込んでいるためきつく当たりながらも縁を切れずにいた。

一方、浪人たちが暮らす寂れた長屋に住む孫左衛門と妹のおぶんは、以前はれっきとした武士であったが没落し、お家再興のために必要な印籠も質屋に流してしまい、物乞いをして食いつなぐ日々を過ごしていた。

そんな日々の中で事件は突然に起こる。藤兵衛が殺されたのだ。実は旗本の小幡伝太夫とその弟の七郎右衛門が屋敷の裏売買を有利に進めるため、藤兵衛に盗みの冤罪を擦り付け殺したのであった。父同然であった藤兵衛の復讐に燃えるお新。伝太夫らの仕業であることを見抜き赤牛と共に座敷に乗り込むお新であったが、人質として捕らえられてしまう。源内はお新を助けにいくも、伝太夫側に寝返った赤牛に嵌められその場から逃げるのであった。その夜、翌朝にはお新が牛裂きの刑に処されると聞いた源内は……

不器用な浪人たちの人生を佇まいから表現

主人公の源内を演じるのは、音楽をはじめとする芸術分野に加え、バラエティー番組やMCの経験も豊富で、幅広い世代から人気を集める丸山隆平さん。上演を目前にし、次のようなコメントをされています。

「これまで映画や舞台など様々な『浪人街』がありますが、今回はまた新たなストーリーになるということで、さらにブラッシュアップして作り上げていけたらと思っています。まず目指すところとしては、佇まいから説得力を出すこと。背景のあるお役なので、それに基づいた精神と身体作りをして武士らしさを出していきたいです」

共演は、玄理(ひょんり)さん、入野自由さん、藤野涼子さん、入江甚儀さん、佐藤誓さん、矢柴俊博さん、神保悟志さん、そして板尾創路さんなど、個性と実力を兼ね備えた顔ぶれ。伝説の作品を踏まえながら、アンダーグラウンドな浪人たちの世界を現代に具現化します。

私が特に注目しているのは、お新を演じる玄理さん。初めて主演に抜擢された映画『水の声を聞く』(2014年)で第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞したのち、ソウルドラマアワード2017ではアジアスター賞に選出されるなど、活動当初から唯一無二の輝きを見せる俳優です。

「海外作品が続く中で、日本を深く感じられる作品が出来たらと思っていた時にいただいたオファーでした」と語っており、彼女オリジナルのお新を見られるのが、本当に楽しみです!

今回の舞台では、オリジナル映画版以上に浪人たちにフォーカスし、それぞれが抱える感情の機微をより丁寧に描くとのこと。演者の方々がその佇まいから表現するすべてを、ぜひ劇場で受け止めてみてください。

舞台『浪人街』は、2025年2月20日(木)〜3月16日(日)まで、東京の新橋演舞場で上演されます。また、3月21日(金)~28日(金)は愛知県の御園座、4月2日(水)~10日(木)には京都府の南座にて、ツアー公演が実施されます。詳しい情報は、公式サイトでご確認ください。

さよ

時代劇に馴染みが薄い方、抵抗感がある方にこそ観てほしい作品。一緒に、幕末のアウトロー物語に没入しませんか?