シアタークリエで2025年2月、3月に日本初上演されるミュージカル『ヒーロー』。アメコミ漫画家を目指す主人公“ヒーロー”を、本年『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』で帝国劇場初主演を務め、2025年には『キンキーブーツ』チャーリー役が控えるなど躍進の続く有澤樟太郎さんが務めます。有澤さんに本作の魅力と意気込みを伺いました。

やりたいことを口に出して言えないヒーローに共感

−まずは作品について教えてください。
「タイトルだけ聞くと“戦うの?”と言われるのですが、そうではなく、アメコミの漫画家を目指す青年ヒーロー・バトウスキーの物語です。舞台はウィスコンシン州のミルウォーキーという少し田舎で、2008年、まだ電子書籍はなく、コミックが主流の時代です。出てくる登場人物がみんな凄く個性的で、色々なことを抱えていて、「奇跡はすぐそこにある」というキャッチコピーの通り、奇跡を信じたくなる人間ドラマになっています。台本を初めて読んだ時に、めちゃくちゃ僕の好みだなと感じて、自分が主演をやるというのを忘れて読み進め、心が打たれました」

−演じるヒーロー・バトウスキーはどのようなキャラクターでしょうか。

「アメコミのヒーローが好きな28歳で、父親が経営しているコミックショップを手伝いながら、深夜はバーでアルバイトをしています。自分のやりたいことはアメコミの漫画家なのですが、やりたいことを周囲にはあまり言っておらず、自分の日記に絵を描いていて、空を飛んだり羽が生えたり想像力が凄いんです。周りの人は想像力やセンスを買ってくれているのですが、自分ではそう思っておらず、自分が描く漫画でも周囲の人は登場するのに自分は“傍観者”であり登場しません。でも最初からそういった人ではなく、ある10年前の事件がきっかけとなっていて、それが物語の軸になっています。とても愛おしく、応援したくなる役柄だと思います」

−自分の殻に篭りがちな部分のあるキャラクターですが、共感できる部分はありますか?
「僕もあまり好きなことや、やりたいことを口に出して言えないタイプなので、とても自分に近い役だと思います。色々なキャラクターに背中を押される役どころなのですが、僕も小学生の頃は友達がドッジボールをやっている中に入って行けず、母がみんなに声をかけて、“この子を入れてもらっていい?”と言ってくれていたくらいなんです。でもあることをきっかけに前向きに生きようと思った転機があったので、そういったところもヒーローに重なるし、気にしいなところや家族を大事に思う点も似ているなと思います」

−差し支えなければ、前向きに生きようと思った転機についてお聞かせいただけますか。
「ずっと野球をやっていたのですが、野球を辞めたタイミングで学校も辞めてしまい、何もすることがなくなった自分に、母が新聞に載っていた事務所のオーディション広告を見せてくれ、“こういうのをやってみたら?”と言ってくれたんです。そこから新しい人生がスタートした感覚がありました。テレビっ子でしたし、ドラマも映画も、特撮も大好きだったので、引っ込み思案な自分でも目指して良いんだ、好きなことを仕事にして良いんだと思えたんです。そこから人前に立ってみたいという気持ちになり、どんどんとこの仕事に興味が湧くようになりました」

−本作ではマーベル作品が数多く登場しますが、有澤さんご自身は、マーベル作品はお好きですか?
「マーベルヒーロー大好きです!ジムに行く時はキャラクターのTシャツや、劇中でキャラクターが着ていた服を着ています。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『キャプテン・アメリカ』『マイティ・ソー』などが好きですね。ハマったのは遅かったのですが、20代半ば頃に地方公演中の宿泊先でサブスク配信が見られて、見てみたら一気にハマってしまいました」

−どのようなところがアメコミの魅力だと思われますか。
「仮面ライダーなどピンチの時に助けてくれる日本のヒーローも大好きなのですが、アメコミでは『バットマン』など正義の味方だけではなく、裏側を描くのが好きです。人間味がありますよね。スパイダーマンのように、ヒーローになりたくてなったわけではない人もいて。アクションシーンもすごく好きですが、どちらかと言うと人間ドラマの部分に惹かれます。『ヒーロー』でもヒーローもみんな人間なのだということに触れるフレーズがあって、そこに共感しました」

一豪さんは作品の年代と国に連れて行ってくれる

−演出家の上田一豪さんとは『グリース』『のだめカンタービレ』でご一緒されていますが、どのような印象をお持ちですか。
「一豪さんが作る作品は大好きで、今回はご一緒できることがとても嬉しかったです。一豪さんの凄く好きなところは、稽古場で作品の年代と国に連れて行ってくださるということ。当時の時代背景について、お勉強という感じではなく、楽しく感じさせてくれるんです。『グリース』の時はハンバーガーをみんな食べていたんだよとハンバーガーを差し入れしてくださったこともありました。作品に入り込む雰囲気作りがとてもお上手で、役者としては凄く親切な方だなと思います」

−本作の音楽についてはいかがでしょうか。
「大好きです。派手な楽曲というより落ち着く楽曲が多くて、既にお気に入りの楽曲が何曲もあります。今は歌稽古に入っているのですが、難しい楽曲と、すんなり歌えるけれどそれだけにしたくない、これから突き詰めたいと思う楽曲があります。全部キャッチーな楽曲なので、お客様も好きな楽曲がたくさんできると思います」

−有澤さんが特に好きな楽曲を1曲挙げるとしたらどの曲になりますか。
「前に踏み出していくような楽曲が好きなので、「何かいいことの始まり」という曲が好きです。登場人物それぞれに良いことが起きそうで、その姿がもう想像できるくらいワクワクできる曲です」

−共演者についての印象はいかがでしょうか。
「カーク役の古屋敬多さんとは先日稽古場でお会いしました。第一声が「髪サラサラだね」って言われて、僕自身も最近何もしてないのに髪サラサラだなと思っていたので、「やっぱりそうですよね」と返して不思議な会話になっちゃいました(笑)。カークは作品の中でムードメーカー的な存在なので、もう間違いないだろうなと、好きになりました。作中では父親との関係性もとても重要なので、佐藤正宏さんとの共演も楽しみです。僕、家族のお話に弱いんです。佐藤さんは素晴らしい方だと聞いていますし、ご一緒するのが凄く楽しみです」

−シアタークリエは観客からするととても近い距離感の劇場ですが、舞台に立つ側から見るとどんな劇場ですか。
「客席と近いので緊張します。帝国劇場とはまた違った緊張感がありますね。クリエってクリエーションから来ている名前だと聞いてそれも良いなと思いました。皇居近くを散歩することもありますし、日比谷の街ってとてもワクワクしますよね。関西に住んでいる母も、クリエで上演するというと“行きたい”と言います。銀座も近いからじゃないかな(笑)」

「代表作になる作品」に等身大で挑みたい

−有澤さんは2024年2月には『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』でジョナサン・ジョースター役を務められました。帝国劇場にて初主演という経験はいかがでしたか?
「2023年に帝国劇場で上演された『キングダム』に出演した時に、絶対にこの劇場で主演として立ちたいと思ったんです。だから主演として帝国劇場に帰ってこられたのは凄く嬉しかったです。歴史を感じる劇場ですし、全てに上質さがあって凄く好きな場所ですね」

−帝国劇場の舞台に立つのは怖さもあるという方もいますが、有澤さんはいかがでしたか。
「作品のテイストにもよると思うのですが、僕はポジティブな印象しかなかったです。もちろんオリジナル作品の初演ということへのプレッシャーはありましたが、それは僕だけじゃなくみんなが感じていたことですから、自分だけが大変だとは思いませんでした」

−2025年には『ヒーロー』主演、『キンキーブーツ』チャーリー役と大役が続きますね。
「ありがたいですね。ただ主演だからと気負うことはあまりなくて、役をまっとうする中で自分も周りの役について語りますし、周りも自分のことを語ってくれて、助けてくれることがいっぱいあると思うんです。そういったことは、自分が色々な役をやってきて身についたことだと思います。世界的に人気な作品や、日本初演の作品に携わらせてもらえるというのは凄く嬉しいですし、最近は重責とかを感じるよりも、単純に喜ぶことにしています。今は本当に楽しみな気持ちが強いですね」

−どういったところにワクワクしていますか?
「取材を受けているのも、作品が動き出していく感じがしてワクワクしますよ。歌稽古も、早くみんなで歌いたいなとワクワクします。準備段階は一番ワクワクするかもしれないですね。もちろん“できるわけない、何も見えない”という瞬間もありますが、それを乗り越えて出来上がった時、達成感以上のものを感じます」

−台本も好みの作品で主演できるというのは良いですね。
「プロットを頂いて読んだ時点で面白かったので、台本が届くのをずっと楽しみにしていたんです。1幕と2幕が別々で頂いたので、1幕を読んだ後に早く続きが読みたすぎて、来週のジャンプ発売を待っているような気持ちになりました。これはお客様へのヒントでもあるかもしれないですね、早く続きが知りたくなるような1幕ラストになっています。お仕事である台本で先を読みたくて仕方ないというのは初めての感覚だったので、上演が本当に楽しみです」

撮影:鈴木文彦、ヘアメイク:池上豪(NICOLASHKA)、スタイリング:山田安莉沙

−最後に意気込みとメッセージをお願いします。
「28歳の役ということで、今29歳の僕にとって等身大な役だと思います。2025年1発目の作品でもあり、30歳になる前に、きっと代表作になる作品だと思っています。台本を読んだ時点でめちゃくちゃ好きな作品で、ミュージカルとしての完成度も高い作品です。絶対に観にきて良かったと思える感動的な作品になっていると思いますし、前情報なしに楽しめる作品だと思うので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います」

ミュージカル『ヒーロー』は2025年2月6日(木)から3月2日(日)までシアタークリエにて上演。公式HPはこちら

Yurika

ミュージカル界で躍進の続く有澤さん。1つ1つ、作品が出来上がっていく過程をワクワクしながら楽しまれている姿が印象的でした。ヒーロー・バトウスキーの想像する世界をどのように舞台上に出現させるのか、楽しみです!