東宝がフランク・ワイルドホーン氏ら世界有数のクリエイターを迎え、名作小説の世界初ミュージカル化に挑む『ケイン&アベル』。松下洸平さん、松下優也さんが宿命の2人、ケインとアベルを演じます。本作のゲネプロと開幕記念会見の様子をお届けします。

因縁の2人、憎しみの先にあるものとは

ミュージカル『ケイン&アベル』は、ジェフリー・アーチャーのベストセラー小説を原作とし、フランク・ワイルドホーン氏が音楽を、ダニエル・ゴールドスタイン氏が脚本・演出を手掛け、世界初演として開幕しました。

物語は咲妃みゆさん演じるフロレンティナの回想で始まり、アルバムをめくるように、2人の男の人生が語られていきます。20世紀初頭に同じ日に生まれた、ボストンの名家ケイン家のウィリアム・ケインと、ポーランドの山奥で生まれたヴワデク(のちの、アベル・ロスノフスキ)。

アベルは戦争によるロシア軍の侵略により孤児となり、「アメリカン・ドリーム」を夢見てアメリカに渡ります。松下優也さんは不安と期待を抱え、貧しいながらも未来に進んでいこうとする若きアベルを瑞々しく演じていきます。

一方ケインは、「社会と人を支える」使命に満ちた銀行家の父の後を継ぐべく、名門ハーバード大学に入学し、卒業後はケイン・アンド・キャボット銀行に取締役として入行。上品なスーツに身を包んで登場したケイン役の松下洸平さんは輝かしさに溢れ、佇まいで名家の息子としての上質さを感じさせます。

アベルは移民仲間のジョージと共にウェイターとして働き、持ち前の頭脳明晰さと野心の高さで手腕を振います。上川一哉さんは楽観的ながらチャーミングなジョージを好演。上川さんと松下優也さんのダンスシーンはダイナミックで、2人が鮮やかにのし上がっていく姿を予感させます。

そしてアベルはホテル王のデイヴィス・リロイ(山口祐一郎さん)に認められ、ホテル経営に携わるように。移民仲間のザフィア(知念里奈さん)と再会し、結婚するのと同時期に、ケインは未亡人のケイト(愛加あゆさん)と出会い、恋に落ちるのでした。

しかしそんな矢先、ニューヨークは大恐慌に襲われ、株の暴落により銀行は苦境に立たされます。デイヴィスのホテルはケインに融資を断られ、銀行に差し押さえられる危機に。デイヴィスが非業の死を遂げ、アベルはケインへの復讐を決意します。

遂に対峙する2人。ケインはアベルの経営戦略や手腕の高さを評価しましたが、融資は実現せず、2人の溝は深まっていきます。1幕最後の楽曲「命ある限り AS LONG AS I’M ALIVE」は2人の対立構造を描きながら、単なる憎しみ合う関係ではない、複雑な関係性を描き出します。共にR&Bやソウルにルーツを持つ松下洸平さんと松下優也さんの声が重なり合うと、その相性の良さが、相反しながらも似たケインとアベルの関係性に重なり、不思議な、まさしく運命的な縁を感じました。

松下洸平さんは、大切な家族や友人を失い、自分が目指すべき銀行家の姿は何かを葛藤するケインを繊細に表現。特に植原卓也さん演じるケインの親友マシューとの場面で心を許した表情が印象的だからこそ、その後の人生での孤独が浮き彫りになっていきます。多くを与えられた環境で育ちながらも、終始、孤独なケインの生き様が胸に刺さります。

一方、松下優也さんは感情豊かなアベルを持ち前の表現力で見事に演じ、アベルそのもの。野心をたぎらせながらも、妻や娘に対する愛情深い表情に、アベルの人間性を感じさせます。ダイナミックな身体表現やダンスも各所で光り、本作の大きな軸を担っています。

そして特筆したいのは、本作でストーリーテラーを担うフロレンティナ役の咲妃みゆさん。ケインとアベル、双方の視点から物語を観る観客と同じ目線に寄り添いながら、2人を見守り、時に手助けし、物語を進めていきます。2幕後半で彼女が物語に入り込んだ時には、すっかり彼女に肩入れしてしまっている状態に。可憐なダンスシーンで躍動したかと思えば、アベルに争いを止めるよう語りかけ、その聡明さと強さは、新たな主人公として映りました。

舞台美術は白い2つの大きなボックスを軸に展開され、映像を駆使しながらもノスタルジックさを漂わせ、独特な世界観を作り上げます。またボックスの上もアクティングエリアとなり、空間を立体的に使っているのも印象的。ケインとアベルの2人がそれぞれ同じように愛する人に出会う場面を、振付でリンクさせながら、交差するように描いていくのはミュージカルならではの美しさではないでしょうか。

アベルの視点から見ると、ケインは大切なものを全て奪った憎き相手に見えるでしょう。しかし私たち観客は、そうではないケインを知っています。2人がほんの少しでも歩み寄り、素直に心を打ち明けられていたら。それは現代の私たちにも繋がる、人間としての永遠のテーマなのかもしれません。

穏やかに進められたのは隣に洸平くんがいてくれたから

開幕記念会見には、松下洸平さん、松下優也さん、咲妃みゆさん、知念里奈さん、愛加あゆさん、益岡徹さん、山口祐一郎さんが登壇しました。

松下洸平さんは初日を振り返り、「思ったより緊張せず、リラックスして舞台に臨めたなと思いますし、何よりお客様がいてくださることが安心に繋がって充実した初日を迎えられたなと思います」と笑顔でコメント。

松下優也さんも「普段は割と初日に緊張があるのですが、前日にゲネプロを経ての初日だったので、凄く落ち着いて出来ましたし、お客様のテンションを感じながら、皆さんが味方にいてくれるような感覚があって、落ち着いて楽しく出来たので安心しています。ぐっすり寝れました」とほっとしたご様子。

一方、咲妃みゆさんは冒頭からストーリーテラーを担うこともあり、「信じられないくらい緊張して開幕の時を迎えたんですけれど…お話が進んでいくにつれてシーンごとに皆さんが熱量のバトンをどんどん受け渡して行って、それをお客様が受け止めてくださっているのを感じられるようになって、呼吸ができるようになりました。これまでの稽古の全ての時間が思い起こされて、胸がいっぱいになりました」と心境を語りました。

知念里奈さんは「世界初演というと大変なプレッシャーを感じてしまうかなと思っていたのですが、私も凄くリラックスして初日を迎えることができたので、今話を聞いていて、洸平くんと優也くんがそういう雰囲気を作ってくれていたんだなと思いました」と語ります。

愛加あゆさんは「私も信じられないくらい緊張していました。皆さんより遅れて登場する役なので、舞台袖やモニターで観させて頂いていて、皆さんの熱量がとにかく凄くて、モニターからお客様の集中力が伝わってくる、そんな初日でした」と振り返ります。

益岡徹さんは「個人的に歌がないと思っていたところから、稽古の終盤になって歌うことになって。短いんですけれど、何しろミュージカルの新参者でございますので、稽古場からどうするべきか課題でした。でも初日、自分ではまとまったかなと思っております。ここから世界初演の実感と自覚を感じていきたい」と意気込みます。

山口祐一郎さんは「皆さんが凄いということを真横で感じながら、21世紀前半で最も素晴らしいミュージカルだったと語り継がれる、そういう初日だったと僕は確信しております」と笑顔で松下洸平さん、松下優也さんを労いました。

今回、初共演となる松下洸平さんと松下優也さん。お互いについて、松下洸平さんは「僕が本当にびっくりしたのは、優也はずっと練習しています。稽古場で自分の声を録音して、それを休憩中にずっと聴きながら微調整して、ここまで研究熱心で努力家な人はお会いしたことがない。そばにいる身としては、刺激を受けましたし、勉強させてもらいました。ミュージカルという枠にとらわれない人ではあるんですけれど、ここ数年ミュージカルの活躍を僕も見ていますし、色々と勉強させてもらって、頼りにしています」と語ります。

松下優也さんは「洸平くんは凄く周りを見ているし、自分のやることが多いにも関わらず、人のお芝居を凄くしっかり見てくれています。また、この現場に入る前もギリギリまで他の撮影があった中で、常に冷静で、その冷静さに凄く助けられました。本当にケインとアベルのような…ケインは凄く冷静で、アベルは喜怒哀楽があって、自分もどちらかと言うとアベルのようなタイプなので、洸平くんの冷静さに助けてもらいました。稽古場って新作になると後半は切羽詰まってくる時期があると思うのですが、全くそういうこともなく、自分の気持ち的にも穏やかに進められたのは隣に洸平くんがいてくれたからだと思うので、最高の存在です」と抜群の相性を明かしました。

お二人を稽古場から見守っていた山口祐一郎さんも、「テーブルではそれぞれが勉強していて、それが終わると常に2人でディスカッションしているんです。初日も素晴らしかったですが、稽古場での生き様をカメラに収めてほしかったくらい…お二人ともチャーミングで、グイグイこの作品を引っ張っていました」と語られました。

最後に松下優也さんから「世界初演ということで、海外のクリエイターの皆さんがブロードウェイでまずワークショップを行ってから日本に来て、国内のスタッフの皆さんも、オーケストラの皆さんも、たくさんの方々が関わってこの作品が出来ています。1人でも多くの方に届けたい」、松下洸平さんから「何か次に繋がる良い体験が僕らも出来ていますし、お客様にエネルギーをお届けして、それを何かに活かしていただけるような、力強い作品を作っていきます」とメッセージが語られ、会見が締め括られました。

会見撮影:山本春花

ミュージカル『ケイン&アベル』は2025年1月22日(水)から2月16日(日)まで東急シアターオーブにて上演。2月23日(日)から3月2日(日)まで大阪・新歌舞伎座にて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

観劇後は、「プライドを捨てていれば分かり合えたのに!」とつい熱くなってしまうくらい、物語にのめり込んでいました。フロレンティナの存在がとても救いに感じました。