“20世紀最大のプリマドンナ”と称されるマリア・カラス。その芸術に捧げた人生を語る舞台『マスタークラス』が、2025年3月に世田谷パブリックシアターにて上演されます。初めてストレートプレイに挑む望海風斗さんと、気鋭の演出家・森新太郎さんのタッグにも注目です。

トニー賞受賞作が26年ぶりに日本で上演

舞台『マスタークラス』は、著名なオペラ歌手であるマリア・カラスの生涯を描いた作品です。原作者は、アメリカを代表する劇作家のテレンス・マクナリー。60年にも及ぶキャリアではオフ・ブロードウェイからブロードウェイまで幅広く活躍し、同時代の演劇界における最高峰の劇作家の一人として「アメリカ演劇の詩人」とも謳われています。

オペラファンであり、カラスの大ファンでもあったというマクナリーは、アメリカのジュリアード音楽院でカラスが行った公開授業(マスタークラス)の講義録をもとに、本作を生み出しました。1995年にニューヨークのブロードウェイで初演されると、翌1996年にはトニー賞の演劇作品賞を受賞。日本では1996年、1999年と2度にわたってパルコ劇場で上演され、黒柳徹子さんが主役を務めました。そして2025年、26年ぶりとなる舞台が東京で幕を開けます。

1923年に生まれたマリア・カラスは、わずか14歳でソプラノ歌手としてデビュー。若くして歌唱の才能を開花させ、「椿姫」「蝶々夫人」といったオペラの大作で存在感を発揮した彼女は「ディーヴァ・アッソルータ」(絶対的、究極のディーヴァ)と呼ばれました。

世界中で稀代の歌姫と称賛を浴びる一方、のちにジャクリーン・ケネディ(元アメリカ大統領夫人)と結婚するギリシャの実業家アリストテレス・オナシスとの約10年に渡る恋など、私生活では恋多き女性としても知られるように。1977年に亡くなるまでの生涯は決して平坦ではなく、波乱万丈だったともいえるかもしれません。しかし、現役引退後はジュリアード音楽院で後進の育成に努めていたように、ただひたすら音楽を愛していたこともひとつの事実ではないでしょうか。

<あらすじ>
世界中のオペラファンを虜にした20世紀最大の歌姫(プリマドンナ)、マリア・カラス。引退後のカラスは、ニューヨークの名門音楽学校のジュリアード音楽院で、若きオペラ歌手たちにマスタークラス(公開授業)を行う。授業では、ユーモアを交えつつ、的確だが辛辣な言葉で、芸術に向き合う術を惜しみなく伝えてゆく。生徒の歌声を聴くカラスには、過去の輝かしい舞台や想い出がよみがえってくる。愛を求め、挫折を乗り越え、芸術に人生を捧げたカラスの秘めていた過去が、解き明かされてゆく。

実力あるキャストとスタッフによる渾身のストレートプレイ

今回、オペラの歴史にその名を刻むマリア・カラスを演じるのは、望海風斗さんです。宝塚歌劇団雪組のトップスターとして人気を博し、退団後も『ドリームガールズ』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』『イザボー』など数々のミュージカル作品に出演。歌やダンスはもちろん演技面でも実力を評価され、第30回読売演劇大賞の優秀女優賞や第48回菊田一夫演劇賞を受賞しています。直近ではミュージカル『next to normal』で主演していますが、実はストレートプレイに挑むのは初めて。そんな望海さんとマリア・カラスには、「舞台演劇の世界で生きてきた」という共通項があります。これからの時代を担う若者たちに何を伝えたかったのか、望海さんが表現するカラスの思いをぜひ劇場で見届けてください。

そして脇を固めるのは、経験豊富なキャスト陣です。

ソプラノ1役を演じるのは池松 日佳瑠(いけまつ ひかる)さん。劇団四季にて『ライオンキング』『サウンドオブミュージック』などに出演し、退団後はコンサートを主に活動しています。

ソプラノ2役は、藤原歌劇団・日本オペラ協会に所属する林 真悠美(はやし まゆみ)さんです。ちなみに藤原歌劇団とは、日本オペラ振興会の西洋オペラを公演する事業部門。日本で最も歴史のあるオペラカンパニーとして、イタリア・オペラを主軸に公演を行っています。一方の日本オペラ協会は、同振興会の事業部門における日本オペラ担当。西洋と日本、どちらのオペラにも精通した団体からのキャスティングに、作品とマリア・カラスへの敬意を感じます。

また、テナー役の有本 康人(ありもと やすと)さんはオペラだけでなく、藤原歌劇団のヴォーカルアンサンブルユニット 『Quattro Aria』のメンバーとしてJ-POPにも活動の場を広げています。

道具係役の石井 雅登(いしい まさとう)さんはかつて劇団四季に所属し、その後は東宝や梅田芸術劇場、劇団☆新感線などの舞台を中心に出演。さらに、歌唱指導にも携わられています。

音楽監督・伴奏者役には、東京都内を中心に数々の合唱団で音楽監督や指導者を務める谷本 喜基(たにもと よしき)さん。指揮者からピアニスト、歌手に至るまで活動ジャンルは多岐にわたっており、実力も経歴も役柄にぴったりです。

なおスウィングメンバーとして、藤原歌劇団・日本オペラ協会所属の岡田 美優(おかだ みゆ)さんと演劇集団円所属の中田 翔真(なかた しょうま)さんが名を連ねています。

本作の演出を手掛けるのは、演出家の森新太郎さんです。演劇集団「円」に所属しながらモナカ興業を主宰。デビュー以来、古典から現代劇まで多彩に手掛け、ミュージカルにも挑戦しています。ジャンルにとらわれない活躍で新進気鋭の演出家として注目され、2014年には第21回読売演劇大賞で最優秀演出家賞を受賞しました。近年の演出作は2023年の『夜叉ヶ池』『バンズ・ヴィジット』、2024年の『ヴェニスの商人』など。

芸術に生き、愛を求めたマリア・カラスの語りをどのように舞台上で演出するのか、森さんの手腕にも期待が高まります。

舞台『マスタークラス』は3月14日(金)から23日(日)まで、東京・世田谷パブリックシアターにて上演。その後、3月29日(土)・30日(日)に長野県のまつもと市民芸術館 主ホール、4月5日(土)・6日(日)に愛知県の穂の国とよはし芸術劇場 PLAT、4月12日(土)から20日(日)まで大阪府のサンケイホールブリーゼに巡演します。チケットの一般販売は2月1日(土)10時よりスタート。詳細は公式ホームページをご確認ください。

もこ

本作の公開授業を通じて、マリア・カラスがただ“有名なオペラ歌手”というだけではなく、“一人の人間”としてより身近に感じられるのではないでしょうか。