実力ある劇団が数多く旗揚げされてきた早稲田大学。そのひとつとして注目を集めているのが、2005年に結成されたプロデュースユニット「タカハ劇団」です。リリカルかつクールな世界観が特徴で、創設当初から高い評価を得てきました。今回は、そんなタカハ劇団の魅力と新作公演についてご紹介します。

リリカルでクール、だけどあなたを受けとめる

脚本家・演出家の高羽彩さんが主宰するプロデュースユニット「タカハ劇団」。2005年、早稲田大学公認サークルの学生劇団「てあとろ50’」から誕生しました。1974年に創設された「てあとろ50’」は、劇団ラッパ屋や演劇集団キャラメルボックスなど、プロの劇団を輩出し続けています。

タカハ劇団の魅力は大きく分けて2つあると、わたしは思います。

1つ目は作風です。

根幹となるのは「日常会話を積み上げて生まれるドラマ」。日常に当たり前のごとく存在する小さな絶望や、どんな壮絶な状況でも変わらない人間の些細なあり方・生き方を、随所にコメディー要素を散りばめて笑い飛ばしながら、リリカルかつクールに締めくくる。そんな独自の世界観が、タカハ劇団の作品には流れています。

2013年に東京芸術劇場の「芸劇eyes」で新時代の5人の女性劇作家に選ばれたり、『帰還の虹』(2014年)が岸田國士戯曲賞最終候補作品になったりと、若手劇作家として進化を続けてきた高羽さん。近年では、TVアニメ「魔法使いの嫁」やNHKドラマ「ここは今から倫理です。」の脚本を手掛けたり、集英社月刊文芸誌「すばる」の連載エッセイを担当したりと、活躍の幅は今後も拡大していきそうです。

魅力の2つ目は、誰もが観劇を楽しめるよう、アクセシビリティの向上に取り組んでいる点です。

2013年に制定された「障害者差別解消法」や、2024年4月に施行された民間事業者の「合理的配慮の義務化」により、障害を持つ方や日本語が分からない方への鑑賞サポートは、演劇界でも徐々に普及してきました。こうしたサポートを小劇団演劇で積極的に進めてきたのが、タカハ劇団です。

タカハ劇団の鑑賞サポートは『美談殺人』(2021年)から本格導入されました。今回の『他者の国』では、舞台手話通訳、バリアフリー字幕のタブレット貸し出し、音声ガイド、事前舞台説明会、最寄り駅からの移動サポートが用意されています。

様々なバックグラウンドを持つ人々が、同じ場所に集い、同じ作品を味わい、「面白かったね!」と笑顔で帰路に就く。「言うは易く行うは難し」な課題に向き合い、誠実に作品を届けるタカハ劇団の価値観に、わたしはとても魅力を感じます。

終戦80周年。倫理観に切り込む会話劇

前振りが長くなってしまいましたが、ここからはタカハ劇団第20回公演『他者の国』をご紹介します。あらすじは以下のとおりです。

日本が大正デモクラシーから、やめられない戦争の時代へと突入していく頃。

6人の医者が大学の解剖学教室に集められた。彼らの目的は、とある死刑囚の遺体を解剖し、並外れた犯罪者の肉体には形質的・医学的特徴があるか否かを調べること。しかし、待てど暮らせど肝心の遺体が届かない。

医者達は遺体を待ちながら無為な時間を過ごすうち、それぞれの胸の内を語り出す。彼らのメスで切り裂かれるのは死刑囚か、それとも。

他者とは誰のこと――?

上演を目前に控え、高羽さんは「想像を超える現実を前に、フィクションの力はあまりに脆弱に見えるかもしれませんが、それでも私はフィクションには現実を超えていく力があると信じています」とコメント。終戦80周年を迎える2025年。『他者の国』は、わたしたちにどう切り込み、何を問いかけるのでしょうか?

12の綺羅星。注目若手俳優からベテラン声優まで!

注目若手俳優からベテラン声優まで、『他者の国』には12名の俳優が顔を揃えます。

まず、連続テレビ小説『虎に翼』(2024年)に汐見圭役として出演した平埜生成さん。ミュージカル『刀剣乱舞』など、ジャンルを問わず幅広い舞台で存在感を示す小西成弥さん。スーパー・エキセントリック・シアターに所属し、大河ドラマから日曜劇場まで数々の人気映像作品に出演してきた野添義弘さん。

オフィスコットーネやこまつ座など有名劇団からの信頼も厚い土屋佑壱さん。劇団チョコレートケーキに所属し、タカハ劇団第19回公演『おわたり』(2023年)では民俗学者役を好演した西尾友樹さん。劇団ゴジゲンに所属し、主に舞台で活躍中の本折最強さとしさん。コンプソンズなどの小劇場作品から、『ミッドナイトスワン』(2020年)といった話題の映画まで幅広く出演する近藤強さん。

さらに、声優として数々の有名キャラクターの声を担当し、連続テレビ小説『虎に翼』にも出演して注目を集めた田中真弓さん。タカハ劇団の過去作にも多数出演し、唯一無二の印象を残す柿丸美智恵さん。イキウメ『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』(2024年)でも注目された平井珠生さん。劇団東京夜光の作品で数多く主演を務める丸山港都さん。さらに今回は、脚本家・演出家の高羽彩さんも自ら出演します。

タカハ劇団第20回公演『他者の国』は、2025年2月20日(木)から23日(日)まで本多劇場で上演されます。アフタートークや鑑賞サポートなども含めて、詳細は公式サイトをご覧ください。

さよ

「フィクションには現実を超えていく力がある」そう信じる高羽さんから生まれた作品に、心を切り込まれてみませんか?