サイモン・スティーヴンスの2つの戯曲を同じ演出家・出演者で同時上演する『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY/レイジ RAGE』。五輪開催決定に沸くロンドンを舞台に、2005年7月に発生した地下鉄・バス連続爆破テロ事件を題材とした『ポルノグラフィ』と、2015年から16年へと移り変わる大晦日の都市空間を描いた『レイジ』。演出を担当する桐山知也さんと、本作に出演する亀田佳明さん、saraさんにお話を伺いました。

人が抱える孤独や満たされない気持ちを描いた2作品

−台本には余白が多い戯曲ですが、どのように作品を立ち上げていますか。
桐山「本当に余白が多いので、僕の考えをお伝えしながら、皆さんが考えていることも聞いて、それでも決まらなければ立ち稽古で動いてみると発見があって…といった形で進めています。2作品を並べた時に、人が抱える孤独や満たされない気持ちはどちらでも描かれていると感じます。世の中が見ている自分と、こうありたいと思う自分がずれている。その発露の仕方が『ポルノグラフィ』と『レイジ』で違うので、その違いも際立たせたいですね」

−チラシでは黄色いラインが印象的ですが、舞台でもキーアイテムになりますか。
桐山「そうですね。両作品を繋ぐキーアイテムとして舞台上に出現させようと思っています」

−出演者の皆さんは『ポルノグラフィ』と『レイジ』で全く異なる役を演じることになりますが、稽古をされていていかがでしょうか。
sara「私と(田中)亨くんは2作品とも全く違う人物ですが、姉と弟という関係性は変わらないので面白いですね。マンツーマンでの芝居が多いので、今までにないくらい、正直に腹を割って話していると思います。それは桐山さんがオープンな空気を作ってくださっているからでもあって、迷っても稽古場のどこかに答えがあるだろうなと思って稽古ができています」

亀田「僕は『ポルノグラフィ』と『レイジ』で全く異なる立場の人物を演じますが、それぞれが地続きのようにも感じています。1人の人間のいち側面として捉えると、色々とハマりが良い気がするんです。なので、2役を演じる上での混乱はないですね」

−台本には役柄の背景についてもヒントが少ないように思うのですが、どのように役柄を深めていますか。
亀田「みんなで話して、擦り合わせて言葉にしていく時間は多いですよね」

桐山「皆さんの中で共通の認識が出来たら、後は役者の皆さんにお任せしようと思っています。ただ最初の共通認識がずれていると怖いことになるので、まず崩しちゃいけないことを決めているところですね」

sara「稽古を始める時にみんなでコミュニケーションを取る時間があって、自分1人でやらなきゃいけないと思っていたことを稽古場でやって良いという安心感があります。自分が固まっていない中で立ち稽古をするのは怖かったのですが、桐山さんは「そこ難しいよね」と私が迷ったことに気がついて言葉にしてくださるので、凄くよく見てくださっているなと思うし、信頼して自分もできることをやってみようと思えます」

−桐山さんはそういった現場づくりを意識されているのでしょうか。
桐山「そうですね。稽古場が「楽しい」というのを大事にしています。楽しい内容の戯曲ではないかもしれないし、だからこそということもあるかもしれません。まずみんながフラットな関係であるべきで、勿論、僕は最終的に色々な決断をしなければいけないけれど、このダブルビルをやることに乗ってくれた皆さんとは正直に付き合いたい。分からないことを分からないと言えないのは、僕にとっても苦しいんです。こう思っていたけれどやっぱり違いましたね、と言えるのは僕にとっても重要なので、皆さんもそう言えるのが大事かなと思っています」

俳優の駆け引きが見えるのは演劇の醍醐味

−桐山さんから見て、亀田さん、saraさんはどんな役者でしょうか。
桐山「お二人はタイプが違って、亀田さんは粛々と青い炎というイメージ。saraさんはメラメラと燃えていて情熱的で、パワフルなパッションがある。ただお二人とも文学座ご所属ということもあって、台本に真摯に向き合って、言葉を大事にされています。演劇というのは戯曲に従属するだけではないと思うのですが、まず言葉があって、そこから何をやっていくか、という態度が素敵だと思いますし、演出する人間として信頼できます」

−お二人は戯曲の中で印象に残っている言葉はありますか。
亀田「『ポルノグラフィ』の前書きにある、「私たちの言葉は死んでしまった、でもこれから血を通わせ命を与えよう」という言葉は、2作品を演じる上で僕の核となっています。言葉があって、それに僕らが命を与える、そうすると僕らも見えてくる。僕らが先にあるのではなく、まず言葉があるのだと感じています」

sara「『ポルノグラフィ』では様々な登場人物が1人で語るモノローグのシーンが多く、それを見たり聞いたりしていると言葉の関連が凄く面白いです。出てくる人物がみんな素直じゃなくて、本心がどこで出てくるのか、深層心理をのぞいているような気持ちになります。特に登場して最初の一言にはそのキャラクター性が出るし、俳優とお客さんとの真っ向勝負で、駆け引きが見えるので、演劇の醍醐味だなと思うし、1人の人間が何を語るのか、台本が巧みだなと思います」

−今回は客席形状も面白く、舞台上に客席があったり、客席の外にアクティングエリアがあったりしますよね。
桐山「回廊のような空間を設けていて、お客さんに作中で起きていることを体験してもらえないかと考えています。『ポルノグラフィ』では亀田さんの演じる役がマンチェスターからロンドンに向かうので、その旅を一緒に体験しながら、彼がどんな経験をして何を考えていたのかを感じてもらいたいです。『レイジ』では街の大晦日の夜に立ち会ってもらいたいですね」

−本作を通じて、どのような体験をしてもらいたいでしょうか。
亀田「セットも衣装も、桐山さんが目指す方法も非常にシンプルで、何かを押し付けることなく立ち上がってくる世界観になると思います。我々も出来るだけシンプルに演じることで、お客さんの中にあるイマジネーションを刺激できる作りになっているんじゃないかなと思います。難しいことは何もないので、ただただ来て、言葉を浴びていただくと、なかなか面白い演劇体験になるんじゃないかなと思います」

sara「役者が役を被って出てくるというよりも、その役者自身が喋っているように見えると思うし、キャストの私たちもそういった気持ちで戦うことになる戯曲だと思います。だからこそ、「この人は自分である可能性もある」と感じるような、客席と舞台が混じった仕組みになっているので、ハッとさせられることもあるだろうし、安心したり妙に落ち着いたりすることもあるだろうし、自分を見つけたりすることもあるんじゃないかと思います。誰かの遠い物語というより、構えず、ここに座ってみようかなぐらいの感覚で来てくださったら、凄く面白いことになるんじゃないかなと思います」

桐山「この2作品を同時にやるということは作家自身は全く想定していなかったことなんですが、今はとても面白いアイデアだと喜んでくれているんです。こんな機会はなかなかないことだと思うので、2本で1本だという体験をまずしていただきたいです。それに言葉が美しいし、鋭い。そして温かいので、その言葉を浴びてもらいたい。かつ能動的に、観ながら感じていることを舞台に乗っけて観てもらえるとより複雑な、そして豊かな、その人だけが持ち得る作品になっていくと思うので、少し前のめりな気持ちで見て頂けると良いかなと思います」

撮影:晴知花

サイモン・スティーヴンス ダブルビル『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY/レイジ RAGE』は2025年2月15日(土)から3月2日(日)までシアタートラムにて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

息遣いの聞こえてくるシアタートラムで、さらに客席とアクティングエリアの境界が曖昧になる本作。どんな演劇体験ができるのか楽しみです。