シアタークリエで3月10日に開幕するミュージカル『ボニー&クライド』。世界恐慌下のアメリカ中西部で銀行強盗を繰り返した実在の人物を元に、フランク・ワイルドホーンが音楽を手がけた作品で、今回は瀬戸山美咲さんによる新演出版として上演されます。初日を前に、クライド役の柿澤勇人さん、矢崎広さんと、ボニー役の桜井玲香さん、海乃美月さんらがフォトコールと囲み取材に臨みました。

「満足できる人生を2人で掴み取ろう」

名作『Bonnie and Clyde』/邦題「俺たちに明日はない」で描かれた伝説のギャング、クライド・バロウとボニー・パーカーを描いたミュージカル『ボニー&クライド』。

『ジキル&ハイド』『笑う男The Eternal Love -永遠の愛-』『デスノートTHE MUSICAL』など、名だたるミュージカルを手掛けた作曲家、フランク・ワイルドホーンさんが音楽を手がけ、2011年12月にブロードウェイで上演されました。

2012年に日本で初演後、ブラッシュアップされた本作は2022年ロンドン・ウェストエンドで再演し、2023年には宝塚歌劇団雪組で上演。そして2025年3月4月、シアタークリエにて瀬戸山美咲さんによる新演出版が上演されます。

フォトコールではまず、クライド役を柿澤勇人さん、ボニー役を桜井玲香さん、ボニーの幼馴染で保安官のテッド役を吉田広大さん、コックのチャーリー役を焙煎功一さんで、1幕第二場「アメリカン・カフェ」から、ボニーとクライドが初めて出会う第三場「舗装されていない道」までが披露されました。

退屈な日常を過ごしながら映画スターを夢見るボニーと、脱獄し「俺には明確なプランがある」と語るクライド。柿澤さんはソングナンバー「残すのさ 名前を」で、クライドが世界を切り拓く姿を予感させるエネルギッシュなステージを魅せ、桜井さんはクライドの強烈な光に一気に惹かれるボニーを演じます。2人の出会いが象徴的に描かれ、今後の展開に期待が高まります。

次にクライド役を矢崎広さん、ボニー役を海乃美月さん、クライドの母カミー役を安田カナさん、クライドの父ヘンリー役を広田勇二さんで、2幕第四場「バロウ・ガソリンスタンド/隠れ家」が披露されました。

食料品店を襲った際に警官を射殺してしまった後、両親を訪ねるクライド。矢崎さん演じるクライドは両親を前にすると小さな男の子のような繊細さが見えます。一方で、自分の父親のように「死ぬまで畑仕事は出来ない」と自分の道を歩む決意をします。

クライドと同様、自分の母のような人生は満足できないと感じるボニー。海乃美月さんはボニーの「満足できる人生をこの手で掴みたい」という芯の強さを力強い歌声で魅せました。

「空を夢見る籠の中の鳥のように」

囲み取材にはクライド役の柿澤勇人さん、矢崎広さん、ボニー役の桜井玲香さん、海乃美月さん、上演台本・演出の瀬戸山美咲さんが登壇しました。

イチオシのシーンについて聞かれると柿澤さんは、「バスタブの中でウクレレを持ってクライドが歌うシーン。音楽に携わる人からすると楽器を持ってお風呂で演奏するなんて言語道断なのですが、クライドは全くそんなことを気にせず、ボニーへのラブソングを熱唱します。しかも人を殺めて逃げている隠れ家なので、本当なら音はあまり出しちゃいけないのに。よく考えるとバカだなと思うのですが、ボニーとクライドの普通ではない、型にハマらない関係性を象徴しているシーンだと思います」と魅力を語ります。

矢崎さんは「2人はしょっちゅう喧嘩をするんですが、そこが見どころだと思います。よくダブルキャストの時って“組み合わせが違うと全然違う”と言いますけれど、今回は本当に喧嘩の仕方が全く違うんです。それは見どころだと思う」と語ります。

桜井さんは喧嘩のシーンに悩みながら挑む日々を過ごした結果、キレ癖がついてしまったのだとか。「瀬戸山さんにも、できない!と言っちゃうくらい甘えさせて頂き…」と明かすと、柿澤さんも「もう分かんない!ってキレてたよね(笑)」と体当たりで挑んだ桜井さんの様子を明かしました。

また桜井さんは「クライドと、兄のバック、ボニーの幼馴染の保安官テッドが後半でそれぞれの思いを歌う大ナンバーがあるんですけれど、本当にかっこよくて、稽古場で初めて観た時、観ていた女性陣が“かっこいい…!!”ってなったくらい。ぜひ楽しみにしていただきたい」と熱を込めて語ります。

海乃さんは「1幕も2幕もラストシーンが印象的です。1幕では2人が一緒に進んでいく爽快感やスリリングさがあって、ザ・ボニクラというのを感じますし、2幕ではボロボロになって、でも生きていかなきゃいけないという2人の世界を繊細に、1幕とはまた全然違うボニーとクライドの姿をお見せできると思う」と語りました。

ボニーから見たそれぞれのクライドへの印象を聞かれると、桜井さんは「柿澤さんは、めっちゃカッキー!(笑)勢いもテンポ感も凄くて、必死についていかないと置いていかれそうで。好きにさせないと、頑張らないと、と思わされる」と語り、柿澤さんは「それって褒めてる?(笑)大好きな気持ちでやっているんだけど…(笑)」と突っ込みます。

矢崎さんについては「包容力が凄い。お父さんみたい」と表現する桜井さんに、矢崎さんはがっくり。桜井さんは慌てて「違うんです!すみません!!」と謝りつつも、それぞれのカップルの関係性が垣間見えます。

一方、海乃さんは「柿澤さんのクライドはとにかくワイルドで、生きているエネルギーが熱くて。クライドとボニーは一目惚れをするんですけれども、本当に一目惚れできるくらいのオーラと熱量を持っていらっしゃるので、私は何も考えなくてもリアルに惹かれるシーンになります。矢崎さんのクライドは繊細さがあって、一瞬一瞬のボニーを逃さずに見てくださっているような感じがして。自然と温かい気持ちになれますし、クスッとなってしまいそうなユーモアなセンスもあって。でも瞬間を全力で生きていらっしゃって、心の振れ幅が広い方」と語りました。

柿澤さんはボニー役のお二人に対して、「(桜井)玲香は何度か共演をしているのですが、今回はいわゆる王道なヒロインではなく、アウトローなカップルなので特殊ですし、皆さんが全て共感できるわけではないと思うんです。そんな中で初めて見る玲香の顔がたくさんありましたし、これからも色々とトライしていくんでしょうけれども、今まで自分がやったことのない、踏み入れていなかった領域に行こうと悩み苦しむ姿は凄く美しく、かっこいいなと思います。海ちゃんは宝塚をご卒業されて、芝居のやり方や見せ方が全然違うし、稽古場に男性キャストがいること自体が初めてで、戸惑ったと思うんです。でも元々持っているエネルギーや精神が強いので、何があっても食らいついてやるという意思が感じられました。きっとファンの方も初めて観る方も、こんなこともできるんだ、新しい姿だなとびっくりすると思います」と共演者としての想いを語りました。

矢崎さんは「稽古に入る前は、玲香ちゃんはダークサイドが似合う方で、海ちゃんはライトサイドが似合う方だと思っていたんですけれど、稽古に入ってから印象が逆転しました。玲香ちゃんは女の子らしくて繊細で、キュートなハートの持ち主で、コミカルな部分もたくさんあって。ライトサイドを持っている人がボニーに果敢に挑んでいるんだなと稽古で感じました。海ちゃんは宝塚の印象があったので華やかなイメージがあったんですけれど、ある時、色々と悩んだ結果だと思うんですけれど、バッサリ髪を切ってイメチェンされたんです。そこからバチンとスイッチが入って、元々真面目でストイックな方だと思うんですけれど、そのストイックさが突き抜けるとグンとダークサイドに行くんですね。それを止められない怖さみたいなのを感じました。なので、お互いにライトサイドもダークサイドも持っていると感じています」と語りました。

上演台本・演出の瀬戸山美咲さんは本作について、「大恐慌時代のアメリカが舞台で、今の環境から飛び出したい、羽ばたきたいと思っているボニーやクライド、周囲の人たちの生きるエネルギーを楽しんでいただける作品だと思います。空を夢見る籠の中の鳥のように、人の夢は誰にも制御できないし、変えていこうとする力を止めることはできないということを楽しんでいただけたら。そしてワイルドホーンさんの音楽がとにかく強く、私たちをグイグイと引っ張ってくれるので、ぜひその音楽に乗っかって、遠くまで一緒に旅をしていきたい」と想いを語りました。

撮影:鈴木文彦

ミュージカル『ボニー&クライド』は3月10日(月)から4月17日(木)までシアタークリエにて上演。4月5月には大阪・福岡・愛知でのツアー公演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

柿澤さんが「映画では「俺たちに明日はない」という邦題がありますが、俺たちは明るい明日が来ると信じて、いきいきと生きています」と語られたのが印象的でした。また、瀬戸山さんの「空を夢見る籠の中の鳥のように」という言葉が、鉄格子に囲まれたような舞台セットとリンクするように感じられました。