KAAT神奈川芸術劇場で2025年度のラインアップ発表会が行われ、芸術監督の長塚圭史さんからラインナップ作品が紹介されました。また、各クリエイターからのコメント映像も到着しました。
2024年度はKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『リア王の悲劇』で主演した木場勝己さんが第32回読売演劇大賞 最優秀男優賞を受賞、演出を手がけた藤田俊太郎さんが芸術選奨文部科学大臣新人賞(演劇部門)を受賞。Vanishing Pointと日英国際共同制作した『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』に出演の那須凛さんは第五十九回 紀伊國屋演劇賞 個人賞を受賞し、演劇界に大きな影響を与えたKAAT。2025年度はどのような作品が展開されるのでしょうか。
2025年度メインシーズンタイトルは「虹〜RAINBOW〜」
KAATは長塚圭史さんが芸術監督に就任して以来、シーズン制を設け、2021年度は“冒険”の「冒(ぼう)」、2022年度は“忘却”の「忘(ぼう)」、2023年度は「貌(かたち)」、2024年度は「某(なにがし)」を掲げていました。
そして2025年度は「虹〜RAINBOW〜」。5年目も「豊かな日本語で遊ぼう」という長塚さんの想いのもと、「ボウ」が付くタイトルとなりました。タイトルについて、長塚さんは次のようにコメントしています。

「太陽光が空気の中の水滴で屈折し、反射することによって生み出される「虹」は自然現象です。欲望渦巻く人間界の空に、皮肉なほど美しく鮮やかに架かります。また「虹」は厳しい試練の後、夢のように現れて、人々の心を鮮やかにし、時に勇気づけます。そして「虹」は多様な人々を繋ぎ、越境する七色の架け橋です。急速な変化を続ける時代から目を背けず、世界の煌めきも綻びも捉えるシーズン「虹〜RAINBOW〜」にご期待ください」。

また、タイトルに込めた想いについて伺うと、「暗い世の中、強者が勝つ社会で、劇場に来て1つ明るいもの、ホッとするようなものが作れないかという想いと、困難の後の幸福の光のようなものが見えないかという想いがありました。ただ色が違うということは、そこに摩擦が生まれる可能性もありますし、一見して良いように見えても何かが起こる可能性があるのが今の社会だとも思います。そういった様々な角度から受け取れる言葉としてタイトルをつけました」と語りました。
KERA新作『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』
メインシーズンの1作目は、作・演出をケラリーノ・サンドロヴィッチさんが手がける新作『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』。9月中旬~10月上旬にホールにて上演され、福岡・大阪ほかでもツアー公演予定。かの有名なセルバンテスの原作『ドン・キホーテ』を元に、KERAさんの視点から新たな冒険奇譚が書き下ろされます。
主役のドン・キホーテを演じるのは、大倉孝二さん。そして、咲妃みゆさん、山西惇さん、音尾琢真さん、矢崎広さん、須賀健太さんら豪華キャストを迎えます。

KERAさんは敬愛する別役実さんやテリー・ギリアム監督も『ドン・キホーテ』を題材に作品を創作していることに触れ、『ドン・キホーテ』に惹かれる理由として「夢想狂と言われる男と世の中との関係に、狂気と現実社会の対立のようなテーマを感じて惹かれる。そしてもう一つの側面は、だんだん妄想と現実の境目がなくなっていくことへの興味もあると思います」と語ります。
また舞台演出については「生演奏を取り入れ、舞台上を縦横無尽にミュージシャンが移動しながら演奏します。また、私の芝居では映像やステージングがデフォルトになっているんですけども、最近そこから脱却しようと思っていて、映像やステージングの少ない作品がこれから増えていくと思いますが、この『ドン・キホーテ』は各セクション、総力戦で参りたいと思います」と意気込み、KERAさんの色が存分に詰め込まれた作品になりそうです。
山内ケンジ新作『アマンダ・Kの甘い生活』(仮)
11月に中スタジオで上演されるのは、演劇プロデュースユニット「城山羊の会」を率いる山内ケンジさんの新作『アマンダ・Kの甘い生活』(仮)。2022年にKAATで書き下ろした『温暖化の秋 -hot autumn-』は読売文学賞 戯曲・シナリオ部門を受賞するなど大きな評判を呼び、待望の再タッグが実現します。
詳細は明かされていませんが、かつて日本が欧米文化に憧れた頃の、デカダンな雰囲気の中、絶望的なコメディが展開されるとのこと。山内さんは「誰からも言われていませんが、この数年は自分としては社会派になっていると思っております。そして今年は再びのKAATです。社会派としては、まず世の中の情報を得ないといけないので、今、新聞を読み、ビデオニュース・ドットコムを見ています。そして、KAATはいつもの三鷹や下北に比べると家から遠いです。この距離の感覚が確実に私に新しい意欲をもたらしてくれることが、前回の経験で分かりました。今年の新作も楽しみです」と意気込みます。
長塚さんは山内さんの作品の魅力について「大人のコメディを創るんですけれども、お芝居を初めてご覧になる方も入り込みやすい世界観をいつも持っていらっしゃるなと思います。僕もいつも山内さんの作品はもちろん大きな期待を抱きながら、とても気軽な気持ちで足を運んでいます。大笑いして、でも毒気もたっぷりで、そういうのを楽しめると思います。虹というシーズンタイトルとどのように重なるのか楽しみにしています」と語りました。
神奈川県内各所で上演する『冒険者たち』
2026年2月、中スタジオでは長塚さんが隔年で開催しているKAATカナガワ・ツアー・プロジェクト第三弾を開催。KAATで作品を上演後、神奈川県内各地の文化施設を巡演し、長塚さんが掲げる<ひらかれた劇場>の体現を目指します。
上演作品は、2021年度に上演された『冒険者たち 〜JOURNEY TO THE WEST〜』の再演と、『冒険者たち』シリーズの新作の同時上演。三蔵法師と孫悟空ら一向が神奈川県の各所に迷い込むストーリーで、新作では脚本を長塚圭史さん、演出を初演時にも共同演出で参加していた大澤遊さんが務めます。
出演は、初演時と同様、柄本時生さん、菅原永二さん、佐々木春香さん、長塚圭史さん、成河さん。新作では三蔵法師と孫悟空らが「暗黒面(ダークサイド)に落ちかけている神奈川県を救おう」とする物語なのだとか。
大澤遊さんは「前回同様、色々な世代の方々に楽しんでもらえるよう、軽いタッチの作品になっているのではないかなと思っております」と語り、長塚さんは「演劇の喜びがいっぱい詰まった作品にしたい」と意気込みました。
作・演出:岡田利規、新作『未練の幽霊と怪物』
2026年2月3月大スタジオでは、東京芸術劇場新芸術監督に就任する岡田利規さんによる新作『未練の幽霊と怪物』が上演されます。本作は2021年にKAATで上演し、第25回鶴屋南北戯曲賞や第29回読売演劇大賞 優秀演出家賞を受賞した『未練の幽霊と怪物 挫波/敦賀』の第2弾となる新作です。
『未練の幽霊と怪物』は現存する世界最古の舞台芸術「能」に触発された音楽劇で、岡田さんは「今の世の中に無数にいると思っている成仏できない幽霊、満たされない想いを抱える存在を掬い上げることができる形式」だと語ります。音楽監督には前作に引き続き内橋和久さんを迎え、「成仏できないでいる存在に対して想いを寄せる場を創り出したい」と意気込みました。

その他KAATでは大小島真木展「あなたの胞衣はどこに埋まっていますか?」(仮)、ダンス海外招聘作品『CARCAÇA(カルカサ)』などを上演。メインシーズン6作品をお得な価格で購入できる「KAATメインシーズンパスポート」も販売されます。また、「神奈川県民割引」をはじめ、U24チケット(24歳以下)、シルバー割引(満65歳以上)、高校生が1000円で観劇できる高校生以下割引を全ての主催公演で実施しています。公式HPはこちら

『リア王の悲劇』と『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』を観劇後、「某(なにがし)」というタイトルが染み渡ってくるように感じました。本シーズンでも様々な作品から「虹」を感じるのが楽しみです。