かつてアメリカ金融市場で台頭した大手投資銀行で、2008年には世界金融危機の発端となったリーマン・ブラザーズ社。本作はその創業から転落までを描いた、リーマン一族の壮大な叙事詩でした。とんでもなく、とんでもなく面白いです。(ナショナル・シアター・ライブ・ジャパンによる映画館配信で鑑賞・2020年)
時間を忘れる、圧巻の三人舞台
3時間にわたり160年分の壮絶な物語を描き切る本作ですが、俳優はサイモン・ラッセル・ビール、アダム・ゴドリー、ベン・マイルズの3人だけ。創業者であるリーマン三兄弟に始まり、それぞれの息子、孫、妻、部下など、くるくると役柄を変えていきます。
その間入退場はほとんど無く、衣装もスリーピースの地味なスーツのまま。そして役が入れ替わりながらも流れるように続いていく、それぞれの「語り」。幾多ものキーワードが台詞の中に散りばめられ、役から役へ引き継がれていきます。
世界トップクラスの俳優陣と細部まで拘り抜いた脚本に、五感も心も鷲掴みにされました。
確かに存在する「もう一人の語り手」
本作のもう一つの見所は、音響、セット、照明など、いわゆる「裏方の仕事」の存在感。幕間のインタビューでは「もう一人の語り手」として紹介されていましたが、その言葉通り、ピアノのテンポやセットの角度、照明の切り替えひとつで物語が大きく進展していきます。舞台の細部ひとつひとつに職人技が宿っていて、何度見ても飽きません。
私は初見の衝撃が忘れられず、今後もナショナル・シアター・ライブ・ジャパンで上映される度に足を運んでしまうと思います。 ナショナル・シアター・ライブ・ジャパンの今後の上映スケジュールについては公式HPをご確認ください。