TBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』の百合子役で大きな話題を呼び、2025年5月から彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2『マクベス』でマクベス夫人を演じる土屋太鳳さん。憧れだったというシェイクスピア作品に挑む心境、女性としての問題提起を多く投げかけるマクベス夫人への思いを伺いました。
『マクベス』は野生的な悲劇であり、普遍的な物語

−世界中で愛される名作『マクベス』の印象を教えてください。
「野生的な悲劇であり、普遍的な物語だと感じます。歳を重ねれば重ねるほど、誰しもが“こういうことってあるよね”と思うような物語ですし、様々な問題提起が入っているのも魅力的です。中でも名前のないマクベス夫人は当時の女性の立場を象徴していて、今でも“◯◯ちゃんのお母さん” “◯◯さんの奥さん”と言われることも多いと思います。たくさんの方に共感していただけると思うので、少しでも多くの方にマクベス夫人の棘を刺していけたらと思います」
−マクベス夫人は“夫を滅ぼした女性”や“権力に溺れた女性”とも言われますが、どのような人物だと捉えられていますか。
「献身的な女性だったんじゃないかなと私は思っています。マクベスを一生懸命に守ろうとしていたし、幸せになりたかった。でも幸せではない時間が長かった人なので、どんどん心が壊れてしまい、そのことに気がつかないままに起きてしまった悲劇なのかなと思います」
−悪女と言われる役柄でもあります。
「彼女は最初から悪女だったわけではないと思います。彼女にも幸せだった過去があって、守りたいものがあったからこその行動だと思うので、その過去を大事にしたいです。台本を読んでいても、彼女が悪女であるということはあまりしっくりきていないです。手段が極端であっただけで、彼女なりの理由があると思います」
−『マクベス』で印象的な台詞はありますか。
「たくさんあるんですけれど、“私は赤ん坊を育てたことがあります、自分の乳房を吸う赤ん坊がどんなにかわいいか知っています。”という台詞は、マクベス夫人の過去が分かる瞬間かなと思います。どういった解釈で、どう言うのが良いのか、演出の吉田鋼太郎さんともお話をしているところです。マクベス夫人の過去を大事にしながら、彼女が狂っていくきっかけを探っていけたらと思います」
自分の足りないものに向き合いたい

−シェイクスピア作品に初挑戦となりますが、どんな心境ですか。
「私にとってシェイクスピア作品への出演は1つの夢でした。学生時代から蜷川幸雄さん演出のシェイクスピア作品を観に彩の国さいたま芸術劇場に行ったり、DVDで繰り返し観たりして、刺激と希望をいただいてきました。彩の国さいたま芸術劇場でシェイクスピア作品に出演するということで、自分の足りないものが見えたり、大切にしないといけないことが分かったりするきっかけになるのではと期待しています」
−自分の足りないものに直面することに、怖さはないですか。
「ミュージカルに挑戦した時も、大声が出ないという悩みからだったんです。映像作品を続ける中で今後も悩み続けるのであれば、一度向き合わなければいけない状況を作ろうと思いました。そうしたら色々なボイストレーナーさんに出会えて、声の出し方を学んで、声を出すことが少し好きになりました。今回も挑戦することで自分の引き出しを少しでも増やしたいという思いがあります。また、どうしてもお仕事を“させていただく”環境にいると、役を生きる上での何かが足りない気がしていて。足りないものを自分から探していき、向き合うことが、これから演劇を続け、お芝居をより好きになるために必要なのかなと感じています」
−そう思われるようになったのは最近ですか。
「30歳というのは自分のなかで1つ節目になっていて、健康で生きてこられた奇跡をしっかりと感じて、受け身ではなく、やりたいことを1つ1つ丁寧に社会に巡らせていかなければいけないという責任感が生まれたと思います。藤原竜也さんにも、“太鳳ちゃんが30歳の節目にこの役をやれるのは良いきっかけになると思う”と言われたんです。竜也さんは『ハムレット』が人生の教科書になっているそうで、私にとって『マクベス』が人生にとって大切な存在になれば良いなと思います」
−学生時代から観劇に訪れていた彩の国さいたま芸術劇場の舞台に立つということについてはいかがでしょうか。
「一方的に伝えるのではなく、その時代に必要なこと、大切なことをお客様と共にぶつけ合える場所だと思います。お客様も色々なことを思いながら観てくださると思うので、その瞬間が凄く楽しみです」
シェイクスピア作品のパワー、生きる熱量を感じてもらいたい

−役作りにおいて大切にされていることは何でしょうか。
「役の過去を想像することです。過去があってのその人なので、マクベス夫人であればなぜ悪女と言われるようになったのか、どこから歯車が狂ってしまったのかというのをしっかり台詞の中で拾っていけたらと思っています」
−舞台作品でも映像作品でも役作りの仕方は変わらないでしょうか。
「心情の作り方としては変わらないと思います。ただ動き方の大きさや、受動的ではなく能動的に動いていく表現力という部分は、舞台ではより求められると思います。そこはこれまでの自分が培ってきた身体表現も活かして、自分にしかできないマクベス夫人を創り上げていきたいです」

−土屋太鳳さんはTBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』での百合子役でも新境地を見せ、大きな話題となりました。
「私自身はそんなつもりはなかったのですが、新しいと言っていただくことが多かったです。何よりも、共演していた杉咲花ちゃんが私の演技を見て号泣したと言ってくれたり、國村隼さんがテレビで見て泣いちゃったよと声をかけてくださって、苦しかったけれどやって良かったなと思いました」
−百合子は少し意地悪でチャーミングな表情と、内に秘めた繊細さが見える役でした。難しい役どころだったと思いますが、演じるなかでご自身の変化はありましたか。
「監督が“もう一歩欲しい”と何度も諦めずに向き合ってくださったので、難しいと思いながらもやっていると、自分では予想していなかったところから声が出たりするんです。そうやって引き出していただいた役柄だったと思いますし、1つの表情でも細かくこだわって作られる監督の生き方も反映された作品だと思います」
−様々な表情の百合子を見て、マクベス夫人もとても楽しみになりました。マクベス夫人は女性の立場について考えさせられる役柄であり、現代に通じる部分も多いと思います。
「共感していただけることが多いと思います。私自身もライフステージの変化があり、社会における女性の立場への疑問も多く感じました。マクベス夫人はそういった小さな疑問や怒りの積み重ねによって悲劇を生んだのだと思いますし、休息が足りなかったんだろうなと思います」

衣装:カーディガン¥59,400- ドレス¥59,400- / CFCL、ネックレス ¥42,900- / PLUIE、イヤーカフ ¥33,000- リング¥49,500- / Hirotaka、シューズ ¥49,500- / MANA
−シェイクスピアは「演劇は時代を映す鏡」だと言いましたが、今回の『マクベス』はどんなことを映し出すと思われますか。
「大切なもの、大切な人をどう大切にしていくのかが、映し出されると思います。マクベスとマクベス夫人は共依存の関係で、愛情は一緒だけれど、愛情の大きさや種類、スピードが変わっていってしまった。大切に思う人とどう関わっていくかというのは現代にも通じると思います。また女性の立場に対する、強い燃える心を表現したいです。吉田鋼太郎さん、藤原竜也さん、河内大和さんとシェイクスピアをずっとやられてきた方々が揃っていらっしゃるので、シェイクスピア作品のパワー、生きる熱量を感じていただき、それが皆さんの生きる熱量に繋がっていったら嬉しいです」
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2『マクベス』は2025年5月8日(木)から5月25日(日)まで彩の国さいたま芸術劇場 大ホールで上演。その後ツアー公演あり。公式HPはこちら
〇ツアー公演情報
【宮城公演】5月30日(金)~6月1日(日)仙台銀行ホール イズミティ 21 大ホール
【愛知公演】6月6日(金)~8日(日)刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
【広島公演】6月12日(木)~14日(土)広島文化学園 HBG ホール
【福岡公演】6月20日(金)~22日(日)福岡市民ホール 大ホール
【大阪公演】6月26日(木)~30日(月)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

土屋太鳳さんの想いが役に重なり、どんなマクベス夫人になるのか楽しみです。