2018年に日本で公開された映画『グレイテスト・ショーマン』。ゴールデングローブ賞を受賞した「This is me」をはじめとし、数々の名曲が作品を彩ります。本日はその名曲の中から、曲の背景にもドラマのある一曲である「Never Enough」をご紹介します。

誰もが輝くことのできる世界がそこにある

貧乏な仕立て屋の息子バーナムは良家の令嬢を妻にもらい、二人の娘とともに日々慎ましい暮らしをしていましたが、会社が倒産したことをきっかけに「Uniqueな人求む」と広告を打ってサーカスを始めます。

批判もあったもののバーナムは成功を収めていきますが、少しずつ本当に大切にしなければならないものが見えなくなっていました。成功の裏にある葛藤や衝突を描きつつ、新しい挑戦をし続けるバーナムの、輝かしくも人間らしいストーリーは多くの人の心を掴みました。

Uniqueという言葉は、「面白い」と訳されがちですが、本来の意味は「唯一の」という意味です。おかしな人として世間から除け者にされてきた日陰者は、バーナムにとってみれば唯一の個性を持った人であり、スポットライトを当てれば誰にも負けないスターになれる。そんな誰しもをスターにしてしまうストーリーが、自分だって輝くことのできる場所があるのではないかと自らの挑戦の後押しとなった人もいるのではないでしょうか。

「どんな輝きも私には足りない」

「Never Enough」は「見せ物ばかり見せている自分も、一度は観客に本物を見せたい」と言うバーナムに依頼され、オペラ歌手であるジェニー・リンドが観客に向けて歌う一曲です。

All the shine of a thousand spotlights
All the stars we steal from the sky
Will never be enough
Never be enough

Tower of gold are still too little
There hands could hold the world but little
Never be enough
Never be enough for me

“The Greatest Showman” より‘Never Enough’

すでにヨーロッパで名声を掴んだジェニーが、バーナムの依頼によりはじめて米国の地を踏み、舞台上で輝かんばかりのスポットライトを浴びて力強く歌うこのシーン。「Never enough for me」と何度も繰り返されるフレーズが印象的です。

「幾千ものスポットライトの輝きと、空から盗った全ての星の光を全て集めても、全く足りない。金の塔でもまだ小さくて、この手で世界を掴んでも、まだ足りない」と言う歌詞ですが、一体何が足りないのでしょうか。

このサビ部分の前の歌詞では「Can’t let this moment end / You set off a dream in me(この瞬間を終わらせたくない/あなたが私に見せてくれた夢)」「Will you share this with me?(私と分かち合ってくれる?)」と「私に夢を見せてくれたあなた」に対する思いが綴られています。そして「’Cause darling without you(だってあなたがいないのなら)」と歌われます。

夢を見せてくれたあなたがいないのなら、舞台上にいてどんなに眩い輝きを浴びたって満たされない、という熱いメッセージの曲だったのです。

心揺さぶる美しいピアノの伴奏によって囁くように歌われるあなたに対する思い、そして壮大なオーケストラに乗せて力強く歌われる、満たされないという思い。曲の展開も「あなた」によって花ひらいたことを意識させるような演出となっており、あまりにもドラマチックです。

誰かが挑戦をしたとき、必ずそこにはそれを支える誰かがいる。そんなことを改めて思わせてくれる一曲ですね。

実はこの「Never Enough」はジェニー役を演じたレベッカ・ファーガソンさんの声ではなく、ローレン・オルレッドさんという歌手によって歌われたものが使われています。本来は参考音源として提出されていたものの、それがあまりに良かったことから、レベッカさん自身が「ローレンさんの声に自分が口を合わせる」と言ったそうです。本当に良いものであれば、スポットライトを浴びる。そんなドラマが、この曲の裏にもあったのです。