読売演劇大賞 最優秀作品賞や優秀演出家賞を受賞、劇作家・演出家の前川知大さん主宰の劇団イキウメが、2025年5月11日(日)より新作『ずれる』を東京・シアタートラムで上演します。
独特の世界観が持ち味の劇団イキウメ
イキウメは、2003年に旗揚げ、劇作家・演出家の前川知大さんが主宰する劇団です。
前川さんは、目に見えないものと人間との関わりや日常の裏側にある世界から人間の心理を描き、空間・時間をシームレスに編集。SFや哲学、オカルトの要素を含んだ独自の視点で、オリジナル作品を生み出しています。
これまでに国内の演劇賞を多数受賞しており、2024年に『人魂を届けに』で第31回読売演劇大賞の最優秀作品賞と優秀演出家賞を受賞。直近の2025年には『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』で第32回読売演劇大賞の優秀作品賞と最優秀演出家賞、さらに第12回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞を受賞しました。2009年に初演した作品を自らリメイクするという試みに、表現に対するあくなき探求心を感じます。
そんな前川さんの作品は、国内だけでなく海外でも注目を集めているんです。2016年以降、イギリスやフランス、韓国において『散歩する侵略者』『太陽』などの戯曲が上演されるように。近年では英語からフランス語、韓国語、スペイン語、ロシア語、中国語、アラビア語に至るまで、多様な言語で翻訳版が出版されています。また、2021年初演の『外の道』は、2022年にパリにて『À la Marge(外の道)』としてフランス語字幕付きで上演。劇団イキウメとしては初となる海外公演を果たしました。
そして来たる2025年5月11日より、イキウメの新作公演『ずれる』が開幕します。
<『ずれる』のためのメモ>
なにもない空間に犬が吠えるのを見たことがあるだろう。はっとして立ち止まる猫や、急に怯えたように暴れる馬。合図もないのに一斉に飛び立つ鳥たち。そこには人間だけが気付けない何かがある。同じ動物なのに、なぜ人間だけが見えず聞こえず、感じることができないのだろう。まるで別の世界を生きているみたいだ。
肉体を離れた存在になった時、動物たちは私に気付いた。彼らには見えている。さすがだ。私は鳥のように自由になったと感じた。でもほんの少しだけ、重力が作用していることを知った。じんわりと沈んでいく。魂のような存在になってすら、私たちはこの地球から出ることができないなんて。まぁいい、そんなに遠くまで行く必要もないんだ。
社長の家には、年の離れた弟が引き籠もっている。 優秀な秘書は私生活まで社長の世話をした。 遠くからやってきた凄腕の整体師、 弟の友人と称する活動家、来客は帰ろうとしない。 リビングルーム、近所の犬が吠えるのが聞こえる。 あの犬はもうすぐ犬であることをやめるだろうと、弟は言った。
なにかが私たちを見ていた。
人間ではない、すべてが。
私たちは今も、気付かないふりをしている。
実力派の演出家と劇団員で創り上げる新作
『ずれる』には、イキウメの所属俳優である浜田信也さん、安井順平さん、盛隆二さん、森下創さん、大窪人衛さんが出演します。
2004年にイキウメに参加して以来、全ての劇団公演に出演している浜田信也さん。2013年に『ミッション』『The Library of Life まとめ*図書館的人生(上)』で第47回紀伊國屋演劇賞の個人賞を受賞。劇団の舞台にとどまらず、ドラマ『民王R』や映画『遠いところ』など映像作品での活躍も光ります。
安井順平さんは、もともとお笑いコンビ「アクシャン」としてデビューした経歴の持ち主。2007年にイキウメのオファーを受けて『散歩する侵略者』に出演後、2011年から劇団員となりしました。2014年には第21回読売演劇大賞の優秀男優賞を受賞しており、NHK『ブギウギ』やNetflix『地面師たち』など話題作への出演が続いています。
盛隆二さんは2004年に劇団入りしてから、持ち前の体格と器用さでイキウメ作品の脇を固める存在に。劇団外の出演作としては、PARCO PRODUCE 2024『リア王』や日曜劇場『ドラゴン桜』、映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』などがあります。
イキウメ結成時からのメンバーである森下創さんは、上演作品全てに出演し、20数年にわたって劇団を支えてきました。他にもドラマ『ハヤブサ消防団』や『半沢直樹』、映画『あんのこと』など劇団外の作品にも出演しています。
そして2010年にイキウメに参加し、翌年の『散歩する侵略者』で狂気のある大人びた中学生を演じて鮮烈な印象を残したのが大窪人衛さん。PARCO PRODUCE 2024『あのよこのよ』やシス・カンパニー『友達』など、外部作品でも確かな演技力を発揮しています。
実は、劇団イキウメでは5月から始まる新作公演『ずれる』の後、しばらく本公演を休むことが決定しています。これまで毎年2回ほど行われてきた定期公演が、今後は不定期開催になるようです。休止中は個々の活動に加えて、今までとは少し趣向を変えた活動にもチャレンジする予定だといいます。劇団主宰の前川さんは「活動範囲を広げるため、振り出しに戻るつもりで、メンバー皆で模索してみたいと思っています」とコメント。
イキウメが充電期間に入る前に、ファンはもちろん今まで観たことがない方も、謎めいた物語の全容をその目で確かめてみてください。
『ずれる』は2025年5月11日(日)から6月8日(日)まで東京・シアタートラムにて、6月12日(木)から15日(日)まで大阪・ABCホールにて上演予定です。チケットの一般発売は3月30日(日)に始まりましたが、東京公演・大阪公演ともに、4月12日(土)より追加公演分も販売されています。詳細は公式HPをご確認ください。

『ずれる』のためのメモを読んだとき、筆者は「何かがわかるようでわからない」不思議な感覚を覚えました。いったいどんな物語が展開されるのでしょうか。