映画化もされた平野啓一郎さんの傑作小説『ある男』を原作に、作曲:ジェイソン・ハウランドさん、脚本・演出:瀬戸山美咲さん、作詞:高橋知伽江さんで製作される新作オリジナルミュージカル『ある男』。浦井健治さん、小池徹平さんを始めとする豪華実力派キャストが製作発表会見に臨みました。
一幕ラストのデュエットナンバー「暗闇の中へ」を歌唱披露

新作オリジナルミュージカル『ある男』製作発表会見には、冒頭に原作者の平野啓一郎さんからのご挨拶があったのち、出演者の浦井健治さん、小池徹平さん、濱田めぐみさん、ソニンさん、上原理生さん、上川一哉さん、知念里奈さん、鹿賀丈史さんと、脚本・演出の瀬戸山美咲さんが登壇しました。

まず行われたのは、城戸章良役の浦井健治さん、ある男・X役小池徹平さんによる歌唱披露。一幕ラストに章良とXが心理を投げかける「暗闇の中へ」という楽曲が披露され、浦井さんはXの謎に迫る城戸を表現すべくエネルギッシュに、小池さんはXの秘めた想いを噛み締めるように歌います。

原作ではXの死後、城戸が彼の真実に迫っていく展開ですが、「暗闇の中へ」では2人が共に舞台上に存在し、それぞれの想いが交錯していきます。ミュージカルらしいアプローチが垣間見えるナンバーが披露され、本作への期待が高まります。
原作者の平野啓一郎さんは『ある男』について「僕の考え方が最も凝縮されて表現されている作品の一つ」とし、「正直、映画化まではちょっと予想ができたんですけれども、ミュージカル化というのは全く想像しておりませんでした。最初お話を伺った時は、原作がかなり込み入った話なので、どういうふうになるのかなと思った」と正直な心境を明かします。

ただ製作過程にも携わられ、「ミュージカルを通じて原作のコアにある価値観を表現したいという製作陣の皆さんの真摯な思いに非常に打たれまして、それが少しずつ形になってきていることに、興奮を覚えております。きっとご期待以上の作品になるのでは」と期待を語りました。
「時空を超えた表現をできるのは演劇冥利」
「心の隙間まで入り込んでくるような繊細な作品を、大胆な手法を用いることができるミュージカルでお届けできるのが楽しみ」と語った瀬戸山美咲さん。

本作の演出について、「身体表現を多く取り入れようと思い、アンサンブルの方もダンスに長けた方にお越しいただいています。登場人物たちの過去や、生まれた環境、逃れられなさ、息苦しさを言葉以外の表現・ビジュアル、歌声の振動も含めてお客様に体感していただくように構成したい。“呼吸”を大切に、観ている方が登場人物と一緒に息苦しくなったり、ホッとしたりという体験ができるようにしたい」と明かしました。
歌唱披露を終えた城戸章良役の浦井健治さんは、「Xとデュオをするという、時空を超えた表現をできるのは演劇冥利だなと思っております」と語ります。

本作の作曲を手がけるジェイソンさんについて「役を本当に愛していて、役の心情から、未来にどう変化していくかという過程も音の中で表現してくださる作曲家」と評し、「製作陣の熱意に応えて役者陣もキラキラしていて、創作をする豊かさというものをワークショップや楽曲から感じています」と語りました。

浦井さんと、ある男・Xを演じる小池徹平さんは、ジェイソンさんも製作に携わった『デスノート THE MUSICAL』以来8年ぶりの共演。浦井さんに対して「見た目が全然変わっていない印象はあるんですけれど(浦井さん「徹平もだよ!」)、やっていることがどんどんチャレンジャーになっていて、役の幅も広くなっているなと。今回の城戸役はストーリーテラーとして皆さんと一緒に物語を旅する役どころで、心情変化の表現が難しい部分もあると思うんですけれど、健ちゃんだったらきっと丁寧に、皆さんに投げかけたり、一緒に考えたり、色々な目線からアプローチして演じてくれるんじゃないかなと思っています」と期待を語ります。

谷口大祐の元恋人・後藤美涼役を演じる濱田めぐみさんは、オリジナルミュージカルの製作過程について「毎回思うのは、最初にお稽古場に来た段階では、それぞれが持っている作品に対するイメージは微妙に違うんです。それぞれの点が集まって、本読みや立ち稽古に入る頃にはだんだんと点と点が繋がって線になっていく。線と線が繋がって一つの面になって、立方体になって、箱が出来上がった時には、みんなの愛情や情熱、エネルギーが箱に注がれていく。演出家が演出をし、これで舞台上に乗せられるだろうというところまで作り上がって、初日のお客様が入って初めて完成するというイメージがあります。作り上げては壊し、を繰り返しながら作っていく過程はなかなか大変ですが、今回はどのような形でお届けできるのか、凄く楽しみでワクワクしています」と語ります。

「原作を初めて読んだ時、アイデンティティに悩む主人公にちょっと重ねた自分がいて、作品に携わることで私に何かが起こるかもしれないという直感を得ました」と語ったソニンさん。演じる谷口里枝はXの妻であり、何度も共演経験のある小池さんとの夫婦役について「夫婦役と聞いて、もういるだけで成立するなと思いました。信頼を置いている相手なので、確実なものが作れるなという自負があります」と信頼を寄せました。

既に2回のワークショップが行われているという本作。Xが戸籍を偽った谷口大祐の兄・谷口恭一役を演じる上原理生さんは1回目のワークショップから参加し、「ジェイソンが“今朝できたよこの曲”と言って、出来たてほやほやの曲を歌ってみたりしたんです。その場で音を取って歌ってみて、もうちょっとこういう風に歌ってみて、と言われたり。凄くクリエイティブな空間でした」と振り返ります。
また出演者についても1回目のワークショップで知ったと言い、「すごくないですか、このメンバー。ちょっと豪華じゃないですか?そこにまずびっくりしました。この中にいさせてもらえるのん?って。こんな素敵な方々とこの作品を作れるんだとワクワクしました」と語ります。

谷口大祐を演じる上川一哉さんは、「なぜ彼が戸籍を交換する道を選んだのか、感情や想いを体現していきたいですし、兄や美涼との関係性を一つ一つ作っていけたら」と意気込みます。また美涼を演じる濱田めぐみさんとの共演について、「めぐさんとは劇団四季を退団して初めての共演です。劇団時代、背中を追ってきた大好きな先輩なので、いろいろ勉強させて頂こうと思います」と想いを語りました。

城戸章良の妻・城戸香織役の知念里奈さんは、「元々原作を読んでいて、映画も拝見していて、ミュージカル化に声をかけて頂いて本当に嬉しい」と喜びを語ります。また「浦井くんの妻の役なのですが、実の夫が浦井くんと凄く仲良くさせてもらっていまして、初めて妻役をやることを伝えた時はちょっと複雑そうな顔をしていました(笑)」と微笑ましいエピソードを明かしました。

鹿賀丈史さんは、戸籍の交換を担う小見浦憲男と、Xが所属していたボクシングジムの会長・小菅の2役を演じます。「Xを探る上で非常にキーポイントとなる人物2人」と語り、「小見浦は得体の知れない男でして、虚実が同時に存在しているような、何が嘘で何が事実か分からないような男です。それを表現する楽曲があるのですが、これは手ごわいなと今から思っております。面白おかしく、不気味な男を演じられれば」と意気込みます。

最後に、瀬戸山さんから「複雑な社会の中でどうやって生きていくのか、ヒントがある作品だと思っています。観た方にとって救いになるような作品を目指したいと思っています」、小池さんから「本当の幸せとは何なのかだったり、自分という人間がどんなものなのかだったり、皆さんの心の中に何か一つ突き刺さるテーマがあると思いますので、ぜひ劇場に体感しに来ていただけたら」、浦井さんから「原作にリスペクトを持ち、この座組だからこそできる表現を目指していきたいと思います。 “時代を映す鏡”として、演劇は今の時代に必要なものを描くことができるし、未来に繋がっていくものだと思っています。心が動く時はもちろん、心が動かない時も楽曲で表現し、そういった境遇で生き抜いた、生きようとした人物たちを体現できるように精進したい」と語られ、会見が締め括られました。

ミュージカル『ある男』は2025年8月4日(月)から8月17日(日)まで東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて上演。8月から9月にかけて、広島・愛知・福岡・大阪公演が行われます。公式HPはこちら

盤石なキャスト陣で挑むオリジナルミュージカル!皆さんの言葉の端々から、ミュージカルならではのアプローチがありそうでワクワクしました。