赤ずきん、シンデレラ、ジャックと豆の木のジャック、ラプンツェル。おとぎ話の主人公たちは、本当に“いつまでも幸せに”暮らし、“めでたし、めでたし”なのか?そんな問いを投げかけるシニカルなファンタジー・ミュージカル『INTO THE WOODS』。ディズニーによる実写映画化でも話題になった本作の新翻訳・新演出版が日本で上演されています。(2022年1月・日生劇場)※ネタバレにご注意ください

おとぎ話の主人公が大集合!彼女たちの敵は本当に狼や魔女なのか

本作の作詞・作曲を手掛けたのは、『ウエスト・サイド・ストーリー』や『スウィーニー・トッド』を手がけたミュージカル界の巨匠スティーヴン・ソンドハイム。脚本はジェームズ・ラパイン、1986年に発表後、トニー賞3部門受賞、世界各国で上演され続ける名作です。ディズニーにより実写映画化され、メリル・ストリープやジョニー・デップなど豪華キャストの出演も話題になりました。

小さな村で、子どもが授からないことを憂うパン屋の夫婦。ある時、隣に住む魔女から、彼女がかけた呪いのせいで子どもができないことを告げられます。呪いを解くためには森の中に入り、ミルキーな白い牛・血のように赤いずきん・黄色いコーンの髪・きらめく金の靴を持ってくるのが条件。そこで夫婦が森で出会ったのは、赤ずきん、シンデレラ、ジャックと豆の木のジャック、ラプンツェルなどおとぎ話の主人公たち。自分の幸せのためなら、相手を騙しても良いのか。“ハッピーエンド”を迎えたその後の人生は、幸せなのか?物語が進むにつれ、人間の本当の敵とは何なのかを突きつけられます。

良い大学に行けば大企業に入れて、安泰で、結婚すれば幸せ。そんな固定概念も昔話になりつつある昨今。しかし、それでも“学歴差別は未だにある”と感じたり、“結婚していないことを責められている”ように感じたりすることもある世の中です。未曾有のウイルスを前に、何が正解か、何を選択したら幸せになれるか、自問自答することも多い。そんな今だからこそ、『INTO THE WOODS』は深く胸に突き刺さります。近年のディズニーのプリンセス像の変化や、Amazon Primeが大幅に物語を変化させた『シンデレラ』など、おとぎ話も日々アップデートされていくべきなのでしょう。

ソンドハイムの難解な楽曲を歌いこなすのに苦戦

ミュージカルでは楽曲が重要な鍵を握ります。耳に残らない楽曲は、作品も心に残りにくい。この観点で考えれば、ソンドハイムは『INTO THE WOODS』でも大きな功績を残していると言えます。物語同様、違和感・不安感を残す音階を使いながらも軽快でアップテンポ。ぐいぐいと物語を引っ張り、あれよあれよとハッピーエンドが変わって行ってしまう。一方で同じメロディーラインの繰り返しも多く、聴覚からも物語の重み、印象深さ、無慈悲な軽快さを感じさせてくれます。

しかし、楽曲を歌いこなすのは難解と言わざるを得ないようです。観劇したのはプレビュー公演とは言え、明らかに音程が外れている場面や、息継ぎがしきれていない場面が多い。歌うのに精一杯で、作品冒頭は特に歌詞が聞き取りにくい。これは、翻訳の課題でもあるでしょう。例えばおとぎ話の主人公たちが「I Wish」というキーワードを繰り返す場面で使用された日本語は、「願う」。何かをお願いするときに、「願う!」と言う人はほぼいないはず。急に「願う!」と歌われても、上手く言葉が入ってこないように感じました。「お願い!」では駄目だったのでしょうか。海外作品は、日本人が聞き取りやすい翻訳か、メロディーを損なわずに日本語詞で歌えるか、など様々な課題があることを実感せざるを得ませんでした。良質な作品であるからこそ、今後の改善を望みます。

ミュージカル『INTO THE WOODS』は日生劇場にて31日まで、梅田劇場にて2月6日から13日まで上演予定です。公式HPはこちら

Yurika

観劇リポートとして掲載するか迷いましたが、脚本・音楽の良い作品であるからこそ、日本でも今後も上演されることを願い、課題に感じた部分を言葉に残しました。いち観客の意見が届くことで、日本のミュージカル業界の更なる質向上に繋がることを願います。