日生劇場2024年5月公演として、世界初演を迎えるミュージカル『この世界の片隅に』。太平洋戦争下の広島県呉市に生きる人々を淡々と丁寧に描いたこうの史代さんによる原作漫画を元に、脚本・演出を上田一豪さん、音楽をアンジェラ・アキさんが務め、主人公の浦野すず役を昆夏美さんと大原櫻子さんがWキャストで務めます。本作の製作発表会見に上田さんとキャストの皆さんが登場しました。

「登場人物たちの感情線がしっかり届くものに」

ミュージカル『この世界の片隅に』製作発表会見には、脚本・演出を務める上田一豪さん、主人公の浦野すず役を務める昆夏美さん・大原櫻子さん、すずが嫁ぐ相手の北條周作役を務める海宝直人さんと村井良大さん、すずと周作の三角関係となる白木リン役を務める平野綾さんと桜井玲香さん、周作の姉ですずにとっては義姉の黒村径子役を務める音月桂さんが登場。

また音楽制作を担当するアンジェラ・アキさんからはアメリカからコメント映像が届き、「初めて上田さんの台本を読ませて頂いた時、元々大好きだったこうの先生の世界をこうやって舞台化するんだと本当に感動しました。読んだばかりなのに、目を閉じると舞台の上でどういうふうに繰り広げられていくのかが見えてきて、自然と音も聞こえてきて」と脚本からすぐに音楽が浮かび上がってきたことを語りました。

また上田さんとは1シーンずつ細かにやりとりを行ったのち、ワークショップを実施されたとのこと。周作役の海宝直人さんも「新作でここまで時間をかけられるのは贅沢で幸せ」と語るほど、既に作品を丁寧に作り込んでいることが明かされました。

上田一豪さんは脚本を手がけるにあたり、「戦争を描いていながら、日常に暮らす人々の細やかな機微、心の小さな小さな動きまで繊細に描かれている作品だったので、それを舞台化するのは非常にチャレンジング」と難しさも語りながら、とにかく原作を大切にした上で「主人公の感情の道をどのように舞台上で表現すればより届きやすいのか。また、それが誰かの特別なお話じゃなくて、私達1人1人の物語でもあるということが分かるようにしたいという思いを込めて構成しました」と語ります。

そして演出についても「奇をてらったものというよりも、登場人物たちの感情線がしっかり届くものにしたい」「お客様にtoo muchに与えるのではなく、お客様が歩み寄りたくなる、耳を傾けたくなるような作品にしたい」と言います。また「戦争の時代だから、というのではなく、『この世界の片隅に』というタイトルにあるように、自分がいるところではないどこか違うところにも誰かがいて、その人にも人生があって、というふと忘れがちなことを感じていただける作品になれば」と思いを語りました。

「すずさんは、不器用で、温かくて可愛らしい人」と印象を語ったのは、すず役の昆夏美さん。「この作品の中で、“お前は普通の人じゃ”と言われるセリフがあるんですけど、すずさんの普通って何なんだろうなって。その答えは稽古で見つけたいなと思うんですけれど、不器用ながら、一瞬一瞬を素直に感じていたすずさんをもっと深く稽古で理解できたらいいなと思います」と意気込みを語ります。

そして同じくすず役を務める大原櫻子さんはすずについて「どんな困難があっても元気に前向きで明るいとてもチャーミングで純粋な女の子」と表現。「久しぶりに台本の文字が見えなくなるぐらい、ずっと終始泣いてしまった」と脚本・音楽で既に涙を流されたことを明かします。また、原作で好きなシーンについて問われると「リンさんに“誰でも何か足らんぐらいで居場所はそうそう無うなりゃせんよ”と言われるセリフがずんと突き刺さって、この作品のテーマだなと感じた」と語ります。

これには昆さんも「私も同じシーンが印象に残っていて、びっくりしました。居場所を見つけざるを得なかったリンさんから、作品の中でずっと居場所を探し続けているすずが言われるということが印象に残るのかな。観劇される皆さんも、すずが本当の自分の居場所を探すというところに重きを置いて見ていただけるんじゃないかと思う」と語り、お二人はお顔を見合わせて笑顔に。

周作役を務める海宝直人さんは「全てのキャラクターが可愛らしくて、けれどもすごくシーンに迫ってくる実在感のあるキャラクターだなと思っていて。周作はすごく真面目で、生きるのに不器用なところがあって、その人間くささが魅力的」と語ります。

村井良大さんは「原作を読んでいると、周作の役って少しとぼけてるというか、周りから見ると暗いと言われるようなキャラクターで、本人もそれをちょっと気にしている部分もあるんですけども。よかれと思っていろいろ行動するんですけど、それが空振りになってしまったり。愛らしくて憎めないし、とにかく優しい男」と周作の魅力を語ります。

白木リン役を務める平野綾さんは、「すずが初めて感じるような感情を芽生えさせるきっかけになったり、新しい世界が広がるような要素を与える役だと思っているので、芝居や歌を通してどんなエッセンスを作品に与えていけるかを考えながら演じていけたら」と意気込みます。

桜井玲香さんは「苦しい過去を持っている中で、生きたいという気持ちと、どこか諦めてしまっているような部分があって、凄く複雑な気持ちを胸の内側に秘めて葛藤している女性なのかなと思います。そんな女性が未来に何を思ってどうしていきたいのか、これから向き合っていきたい」とリン役への思いを語りました。

黒村径子役について「当時では珍しい恋愛結婚で結婚していて、家庭的なすずさんとは180度違う、不器用で家事もできなくて、型破りな女性だなという第一印象でした」と語った音月桂さん。「当時を生き抜いてきた人たちの熱い血のようなものを一つにまとめたような役だなという感覚があって、今から演じるのが楽しみ」と笑顔を見せました。

「寄り添うような楽曲が作品の世界観や温度感にぴったりはまる」「体の芯が震えるぐらい感動」

また本作で注目を集める音楽を手掛けるのは、国民的合唱・卒業ソング「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を作詞・作曲し、2014年にミュージカル音楽を学ぶために渡米、10年ぶりに再始動するアンジェラ・アキさん。本作では30曲近くの楽曲を制作されたそうで、昆夏美さんは「なんて素敵な楽曲なんだろうって心から思いました」と感嘆。「力強くもあり、温かい、寄り添うような楽曲が作品の世界観や温度感にぴったりはまる」と楽曲の魅力を語ります。

大原櫻子さんは「学生時代から大好きで、大ファンでもあるアーティストさんの1人だあったので、曲を聞く前から凄くワクワクしていて。曲を聞いたらワクワクを通り越してゾワゾワというか、本当に体の芯が震えるぐらい感動して、それからもう涙が出てきて、これは絶対歌いたいという思いがすごく強まりました」と熱い思いを明かします。

撮影:山本春花

海宝直人さんは「アンジェラさんのポップスでずっと培っていらっしゃった感覚・センスと、アメリカで学ばれた演劇的な部分との融合というか、今までのミュージカルとはちょっと違う新しい感覚を受けました」と語り、村井良大さんも「この作品にぴったりな楽曲がいきなり目の前に現れて、もう完成形が見えちゃったというか、曲の力ってすごいなと思いました」と楽曲の強さを語ります。

アンジェラ・アキさんが手掛ける音楽のうちの1曲「この世界のあちこちに」はアンジェラ・アキさんの歌唱で配信リリースされており、Music Videoも公開されています。また4月24日にはアンジェラ・アキさんが作品の楽曲を歌ったアルバム「アンジェラ・アキ sings 『この世界の片隅に』」も発売。上演前に楽曲を堪能してから作品を観劇すると、新たな感動と発見が生まれそうです。

ミュージカル『ミス・サイゴン』のキム役でご一緒されていた昆さんと大原さんは、「『ミス・サイゴン』でも本作でも同じ役ということで、とてもご縁を感じてます。さくちゃんの人を幸せにするようなかわいい笑顔がとってもすずさんにぴったりだなって」「『ミス・サイゴン』の本番は(コロナ禍の中止で)ご一緒にできなかったんですけれども、役のことも喉のことも気づいたら2時間ぐらい相談に乗ってくれたり、お姉ちゃんのような存在でした。お客さんとしてもミュージカルを観に行かせていただいていて、本当にかっこいいなと客席からいつも見ているので、一緒にこの役を演じられるということを本当に本当に嬉しく思っています」とお互いに愛のある印象を語り合い、何度も笑顔で顔を見合わせるお二人でした。

ミュージカル『この世界の片隅に』は5月9日(木)から30日(木)まで日生劇場で上演後、北海道・岩手・新潟・愛知・長野・茨城・大阪公演を行い、7月27日(土)28日(日)には本作の舞台である広島県呉市の呉信用金庫ホールにて上演が行われます。スケジュールとチケットの詳細は公式HPをご確認ください。

Yurika

アンジェラ・アキさんが歌う「この世界のあちこちに」は、優しい旋律と美しい歌詞に既に涙が溢れてしまいます。物語とキャストの皆さんの声が重なった時、さらなる感動が生まれることでしょう。