クラシック音楽を軸に、青春のきらめきと喪失、そして再生を描いた名作『四月は君の嘘』。原作漫画の連載終了から約10年が経った今も、音楽と心の物語は国や言語の垣根を越え、多くの人の心を捉えて放しません。そして2025年、三度ミュージカル化された「君嘘」は、満を持して日本再演の幕を上げます。
この記事では、『四月は君の嘘』がミュージカルという形でどのように世界へ広がり、どう変化し、どんな思いとともに日本へ戻ってきたのかーーその軌跡と、再演の持つ意味を辿っていきます。
世界で愛される「君嘘」とはーークラシックが紡ぐ青春ストーリー
『四月は君の嘘』(通称「君嘘」)は、新川直司さんによる漫画作品です。母の死をきっかけにピアノの音が聞こえなくなってしまった天才ピアニスト・有馬公生が、自由奔放なヴァイオリニスト・宮園かをりと出会い、再び音楽と向き合っていく姿を描いています。
クラシック音楽を題材にしながら、恋、友情、喪失、再生といった普遍的なテーマを繊細な筆致で描き、2012年度マンガ大賞にノミネート。翌年には講談社漫画賞・少年部門を受賞しました。
2014年にはTVアニメ化され、国際配信によって世界中にファンを獲得。ショパンやベートーヴェンなど名だたる作曲家の楽曲と、キャラクターたちの感情が交錯する演奏シーンは、多くの視聴者に強い印象を残しました。「音楽が言葉を超えて届くこと」を体現するこの作品は、視聴時のリアクションを撮影した動画が話題になるなど、国や世代を問わず共感を呼び続けています。
音楽の力で心を取り戻していく少年を主人公に、クラシックという共通言語と、美しくも切ない青春のドラマが交差する『四月は君の嘘』は、世界中で愛される作品へと成長を遂げたのです。
言葉を超え、音楽で語るーー「君嘘」ミュージカルの軌跡
漫画・アニメで多くの心を震わせてきたこの物語は、2022年に初めてミュージカル化されました。「言葉では届かない想いを、音楽で伝える」という「君嘘」の本質を体現する手段として、ミュージカルは最適だったのかもしれません。
ピアノの生演奏と歌声が観客の感情に寄り添い、舞台上の登場人物と心を通わせる瞬間。そこには、ページや画面を超えて届く、もうひとつの「君嘘」が確かに息づいていました。
ここでは3都市における公演の軌跡を辿りながら、作品がどのように進化し、どの国でも共感を呼ぶ音楽劇へと昇華されたのか紐解いていきます。
日本初演(2022年)
2022年5月7日、東京・日生劇場でミュージカル『四月は君の嘘』が世界初演を迎えました。当初は2020年7月に上演予定でしたが、開幕直前に全公演が中止となり、2年越しでの実現となりました。
有馬公生役は小関裕太さんと木村達成さん(Wキャスト)、宮園かをり役は生田絵梨花さん。原作の感動的なストーリーを生かしつつ、キャラクターたちの心の揺れを丁寧にすくい取る演出が、観る者の胸に静かに沁み入ります。筆者は、『ロミオ&ジュリエット』『レ・ミゼラブル』『モーツァルト!』など、名だたるミュージカルを経験してきた生田さんに目を奪われました。
音楽を手がけたのは、世界的作曲家フランク・ワイルドホーンさん。コンクールのシーンで、クラシックの旋律から作品オリジナルの楽曲へと自然に移行し、ジャンルの垣根を越えて響き合う音楽表現は、日本の観客にも彼の実力を印象づけるものでした。
ロンドン公演(2024年)
2024年、ミュージカル『四月は君の嘘』はコンサート版『Your Lie in April The Musical』として、ロンドン・ハロルド・ピンター劇場で上演され、ヨーロッパ初進出を果たしました。日本発のオリジナルミュージカルが、東宝の直接ライセンスによりウエストエンドで上演されるのは初のことです。
キャストには、有馬公生役にZheng Xi Yongさん、宮園かをり役にMia Kobayashiさんと、アジア系の俳優が多く起用されました。特にMia Kobayashiさんの華やかさと愛嬌を兼ね備えた美声は、かをりのイメージにぴったりだと感じました。
音楽は日本初演に続き、フランク・ワイルドホーンさんが担当。演出・振付は、同じく東宝作品『デスノート The Musical in Concert』を成功させたニック・ウィンストンさんが務めました。ワイルドホーンさんは上演前のインタビューで「アニメを観て涙が止まらず、インスピレーションを得てすぐに作曲した」と語っています。
ソウル公演(2024年)
ミュージカル『四月は君の嘘』は、韓国・ソウルにある「芸術の殿堂」CJトウォル劇場でも上演され、韓国初演を迎えました。日本初演版をもとにしたライセンス公演で、演出・振付はチュ・ジョンファさん、音楽監督はイ・ボムジェさんが担当。韓国ならではの演出も加えられました。
キャストには、K-POPグループ「FTISLAND」のイ・ホンギさんやイ・ジェジンさん、ガールズグループ「Lovelyz」出身のケイさん、女優のチョン・ジソさんなどが選ばれました。歌もダンスも煌びやかで、登場人物たちの輝かしい青春が丁寧に描かれています。
舞台では、桜の花びらが舞う演出や回転するピアノセットなど、視覚的にも印象的なシーンが多数登場。音楽は引き続きフランク・ワイルドホーンさんが手がけており、クラシックとオリジナル楽曲の融合が感動をさらに深めていました。
再演が奏でる新たな「君嘘」ーー青春と喪失のその先へ
初演から3年、多くの国や観客に届いたミュージカル『四月は君の嘘』が、2025年、日本で待望の再演を迎えます。クラシック音楽を通して描かれる青春の輝きと喪失の痛み。そして、その痛みを抱えながらも再び歩み出そうとする登場人物たちの姿は、時代や国を超えて共感を呼んできました。
再演では、作品の軸となる音楽と感情の交錯がさらに深まり、初演を観た人にも、新たな気づきや感動をもたらしてくれることでしょう。人生の転機に寄り添い、そっと背中を押してくれるようなこの舞台は、いまという時代にこそ響く物語として、再び人々の心に優しく届いていくはずです。
有馬公生役を演じるのは岡宮来夢さんと東島京さん(Wキャスト)、宮園かをり役には加藤梨里香さんと宮本佳林さん(Wキャスト)が名を連ねます。最年少16歳・平均年齢22.5歳という若さあふれるアンサンブルキャストを含む、フレッシュな新カンパニーも本作の大きな魅力です。
ミュージカル『四月は君の嘘』は、2025年8月23日(土)から9月5日(金)まで、昭和女子大学人見記念講堂で上演されます。愛知・大阪・富山・神奈川での地方公演もありますので、詳しい情報は公式サイトをご確認ください。

大学のキャンパス内で、高校生たちの青春群像劇を観る。そんな体験は、きっと特別なものになるはずです。日々の悩みや不安はいったん脇に置いて、学生時代に戻ったような気持ちで、この世界観に身を委ねてみたいと思います。