世界で最も成功したミュージカルといえば、どんな作品を思い浮かべるでしょうか?優れたストーリーや名ナンバー、そして作品に込められたメッセージなど、数々のミュージカル作品は多くの要素で観客を魅了してきました。

それでは、数多くの名作やヒットミュージカルの中で、最も成功したのはどんな作品なのでしょうか。ひと口に「成功」と言っても、様々な定義があります。本記事においては、公演期間・動員数・そして受賞歴や興行成績の視点から「世界で最も成功したミュージカル」を紹介します。

ロングラン公演でギネス認定『オペラ座の怪人』

ブロードウェイで最も長い公演期間を記録したのは、アンドリュー・ロイド=ウェバーによる『オペラ座の怪人』です。『オペラ座の怪人』は、1988年にブロードウェイで初演されたのち、2023年の最終公演に至るまで、実に35年間にわたるロングラン公演を達成しました。

原作は、フランスの作家ガストン・ルルーによる同名の怪奇小説です。アンドリュー・ロイド=ウェバーは、この小説をオペラ座の地下に棲みついた「ファントム」と、歌姫クリスティーヌの悲恋を描いたミュージカルとして生まれ変わらせました。

劇中で歌われる荘厳な音楽はもちろんのこと、ファントム、クリスティーヌ、ラウル子爵の間で繰り広げられる複雑な三角関係が、多くの観客の心を掴みました。

代表的なナンバーは、タイトルにもなっている『Phantom of the Opera(オペラ座の怪人)』です。

この曲『Phantom of the Opera』の聴きどころは、クリスティーヌが終盤に披露する高音域です。ナンバーを聴き終わる頃には、観客はすっかりファントムとクリスティーヌの妖しい関係性に心を奪われていることでしょう。

また、『オペラ座の怪人』は「歴代ブロードウェイ作品の中で最も長く上演されたミュージカル」として、ギネスブックに認定されています。ブロードウェイでの公演は終了してしまいましたが、日本では劇団四季によって福岡のキャナルシティ劇場で上演中です。

そのほか、2026年7月にオープン予定の「名古屋四季劇場」では、こけら落とし公演として『オペラ座の怪人』の上演が決定しています。

1億3000万人の観客を感動させた『レ・ミゼラブル』

一方、イギリスのウエストエンドでは、1985年から上演されている『レ・ミゼラブル』が、最も長い公演期間を誇っています。

『レ・ミゼラブル』は、フランスの作家ヴィクトル・ユゴーによる同名小説に基づいたミュージカルです。原作の小説は、19世紀のフランスを代表する文学作品として知られています。

たったひとつのパンを盗んだ罪で19年もの間投獄されていたジャン・バルジャンと、彼を執拗に追い続ける警察官のジャベールを中心に、激動の時代を生きた多くの人々の姿を描く群像劇です。

全世界での観客総数は1億3000万人を突破しているほか、日本でも1987年以降に上演され続け、2021年には3459回という驚異的な上演回数を達成。東宝演劇部において史上最多記録を更新し続けています。

また、2013年に公開された映画版『レ・ミゼラブル』は、ゴールデングローブ賞3部門、アカデミー賞3部門を受賞したほか、日本アカデミー賞外国映画賞を受賞するなど、大きな成功を収めました。

数多くの名曲を誇る『レ・ミゼラブル』ですが、代表的なナンバーを選ぶとすれば、1幕の最後に歌われる『ワン・デイ・モア』でしょう。

迫りくる「明日」を前にして、登場人物それぞれの思いや策略、悲しみなどが1曲の中で歌い上げられるナンバーです。

キャラクターたちの思いが入り乱れるこの曲は、一度聴いただけで圧倒されるほどのダイナミックさと、ここから始まる激動の予感を抱かせる名曲です。

トニー賞史上最多ノミネート『ハミルトン』

最後に、近年最も成功したミュージカルについてご紹介します。

それは2015年にブロードウェイで開幕したミュージカル『ハミルトン』です。本作の音楽、作詞、脚本を担当したのはリン・マニュエル・ミランダで、2004年にロン・チャーノウによって出版された伝記『アレクサンダー・ハミルトン』を原案としています。

アレクサンダー・ハミルトンは、アメリカの独立戦争の際、ワシントンの副官として活躍した人物です。アメリカの経済システムや憲法に大きな影響を与え、「建国の父」とまで呼ばれました。

『ハミルトン』は歴史上の人物を題材にした作品でありながら、ミュージカルのナンバーにはヒップホップが使用されています。従来のブロードウェイミュージカルにはない新たな切り口が、多くの観客に評価されました。

また、本作品はアメリカ演劇界で最も権威のある「トニー賞」においても、数々の記録を打ち立てています。

2016年6月に発表された第70回トニー賞では、16ノミネートされたのち、ミュージカル作品賞、ミュージカル主演男優賞など11部門を受賞しました。この16ノミネートという数は、これまでのトニー賞の歴史の中で最多という快挙を遂げています。

2019年には、ブロードウェイにおける週ごとの興行収入で最高額を記録しました。なんとたった8回の公演で、400万ドル以上の興行収入を得たのです。

これらのデータから、『ハミルトン』は近年において最も成功したミュージカル作品だと言えるでしょう。

2025年7月現在、日本で『ハミルトン』が上演されるという情報はありません。しかし、これほどまでに偉業を成し遂げた本作品ですから、いつか日本でも観劇できる日が来ることを期待してしまいますね。

糸崎 舞

本記事で紹介したミュージカル作品は、いずれも驚きの記録を樹立しています。興行的な成功はもちろんのこと、深いメッセージや人間の普遍的な感情が丁寧に描かれていて、それが多くの観客を魅了しているのではないかと感じています。