新進気鋭の劇作家・演出家として活躍する加藤拓也さんの新作舞台『ここが海』が、2025年9月にシアタートラムで上演されます。出演は橋本淳さん、黒木華さん、中田青渚さん。時間をかけて作品を創り上げてきたカンパニーの想いにも注目です。
2年半にわたる準備期間を経て上演。「性のあり方」と向き合う作品
性のあり方は単純に男性と女性に分類できるものではなく、多様な形が存在しているといえます。こうした「性の多様性」について、近年は社会的な認知が進みつつある一方、当事者が周囲の理解を得にくかったり差別を受けたりといまだに課題も多いのが現状です。
そんななか、2025年9月に上演される舞台『ここが海』では、ある日突然「性別を変更したい」と告げられた家族に焦点を当てます。
本作は、2年半にわたる準備期間を経て制作されました。初稿が完成したのは、2023年春。その後、出生時に割り当てられた性別と性自認が一致しているシスジェンダーと、相対する立場にあたるトランスジェンダーのメンバーが対話を重ね、台本の内容を練り上げてきました。
また、LGBTQを含むすべての人がありのままで学び・働き・暮らせる社会を目指す認定特定非営利活動法人「ReBit」の代表である藥師 実芳(やくし みか)さんが、ジェンダー・セクシュアリティ制作協力を担当しています。
本作のカンパニーは、作品づくりにおいて「Ally(アライ)」という立場を掲げています。「Ally」とはもともと盟友や味方を意味する言葉で、LGBTQ+ではありませんがその理解者として当事者の行動を支援する人々のこと。当事者と非当事者のあいだに存在する「壁」を前にして、理解を深めようとする姿勢が、公演の実現に至った原動力といえるでしょう。
<あらすじ>
岳人(たけと)と友理(ゆり)は共に仕事をしながら、真琴を連れて日本各地のホテルやロッジ等を転々としながら暮らしている。ホテルに長期滞在中のある日、友理の誕生日を祝う為にレストランを予約していた岳人は、性別を変更しようと思っていると友理から告げられる。
躍進する演出家と実力派キャストによるカンパニー
舞台『ここが海』の作・演出を手掛けるのは、劇作家・演出家の加藤拓也さんです。2013年より主宰する劇団た組で舞台演出を務めるほか、外部公演でも作品を発表。その活動範囲は国内に留まらず、2024年9月にはイギリスでのデビュー作となるオリジナル作品『One Small Step』が、オフウエストエンドで150年以上の歴史を誇るチャリングクロス劇場にて上演されました。また、映画監督やドラマの脚本・演出家としてもマルチに才能を発揮しています。最近では、2022年の『ザ・ウェルキン』『もはやしずか』で第30回読売演劇大賞 演出家賞部門優秀賞を、『ドードーが落下する』で第67回岸田國士戯曲賞を受賞しました。
そして今回、加藤さんと信頼関係を築いてきた俳優2人がカンパニーに参加します。
1人は、主人公の岳人を演じる橋本淳さん。数々の舞台やドラマ、映画に出演されるなか、2021年のドラマ『きれいのくに』や2022年の『もはやしずか』、2023年のシス・カンパニー公演『いつぞやは』などで何度も加藤さんとタッグを組んできました。
もう1人は黒木華さんで、岳人に性別変更の意志があることを告げる友理を演じます。黒木さんも『もはやしずか』に出演しており、3年ぶりに3人揃って舞台に臨みます。
また、岳人と友理の子どもである真琴役には、俳優の中田青渚(せいな)さんがキャスティング。2022年に第43回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞した中田さんは、2025年10月10日公開予定の映画 「秒速5センチメートル」への出演も控えています。性別変更を巡る家族の問題にどう関わっていくのか、その演技も気になるところです。
なお本公演の公式HPでは、作・演出の加藤さんと映画文筆家の児玉美月さん、出演する橋本さんと映画プロデューサーの谷生俊美さん、黒木さんと俳優の若林佑真さん、それぞれ3組による対談が公開されています。トランスジェンダーとしての自身に関する著書を出版している谷生さん、そしてトランスジェンダー男性の俳優でありジェンダー表現監修にも携わる若林さんは、当事者の立場。この対談では、非当事者である俳優が当事者を演じることについて、それぞれの解釈や考えが率直に語られています。観劇される方はもちろん、作品のテーマに関心のある方もご覧になってみてはいかがでしょうか。
舞台『ここが海』は、2025年9月20日(土)から10月12日(日)まで東京・シアタートラムにて上演されます。詳細は公式HPをご確認ください。

「性のあり方」について、当事者であるかどうかにかかわらず誰もが“自分事”として考えることが、多様性への理解につながるのではないでしょうか。本作がそのきっかけになれば、と感じました。