10月1日(水)に東京建物 Brillia HALLで開幕するミュージカル『マタ・ハリ』。初日前会見には演出の石丸さち子さん、作曲のフランク・ワイルドホーンさんと、柚希礼音さん、愛希れいかさん、加藤和樹さん、廣瀬友祐さん、甲斐翔真さんが登壇しました。初日前会見とゲネプロの様子を、オフィシャル提供の舞台写真と共にお届けします。

「仮面をつけて生きる中で、自分が何者であるかに向き合う」

1917年、第一次世界大戦下にエキゾチックな踊りでヨーロッパ中の人々を魅了し、女スパイとして世界を翻弄した女性マタ・ハリの数奇な運命を、フランク・ワイルドホーンさんの楽曲と共に描くミュージカル『マタ・ハリ』。2018年に日本で初上演され、2021年に再演(コロナ禍の影響で一部公演が中止)。2025年10月、約4年ぶりの再演を迎えます。

訳詞・翻訳・演出を手掛ける石丸さち子さんは本作の魅力について、「第一次世界大戦の終盤、いつこの戦争が終わるのかという時期だからこそ、マタ・ハリというエンターテイメントが必要だった。時代が産んだ寵児のような存在がマタ・ハリです。彼女の生き様がまず、この作品の魅力だと思っています。そしてヨーロッパ中で人気を博し、ヨーロッパ中を行き来できたことで二重スパイの汚名を着せられるわけですが、その運命と戦うこと。自分の生い立ちを覆い隠して新たなマタ・ハリとして生きていたのに、アルマンと運命的な出会いをすること。その中で女性が自分らしく生きる、自分の道を選んでいく、これが私なんだという瞬間が、多くの女性客の心に響いたと思っています。そして何より美しい、美しいってやっぱり素晴らしいことです。マタ・ハリと共に生きるアルマン、戦争の一番の犠牲者かもしれないラドゥー、アンサンブルを含めた様々な人々が舞台上で生き抜きます。生き抜く力と美しさが、この作品が愛される理由なんじゃないか。そしてそれを支えるフランク・ワイルドホーンさんの音楽がとにかく雄大で、ミュージカルらしい楽曲で本当に素晴らしいです。ぜひこの魅力を伝えたい」と熱く語ります。

フランク・ワイルドホーンさんはマタ・ハリを「レディー・ガガやマドンナのような存在」と称し、「彼女は早く生まれすぎてしまった。時代よりも先に進んでいたが故に、遭わなければいけない運命だったと思います。そういうモダンな女性というのは、現代にも通ずるものがある。そして世の中は皆、仮面をつけて生きています。その中で自分が何者であるかということに向き合うというメッセージは、客席の皆さんにも通じるものがあると思います」と語りました。

マタ・ハリを日本初演以降、演じ続けている柚希礼音さんは「生きのびるためだったら何でもやりました」という台詞を大切にしていると語り、「彼女はあの時代に、想像を絶するくらいの人生を歩んでいたと思います。それを想像しながら、自分自身の人生を重ねながら、強くたくましく美しく、生きのびたいと思います。そして最後に振り返った時、“人生は素晴らしい”と思えるような人生を歩めたら良いなと。お客様も、人生を素晴らしいと思えるような人がいるのか、出会いたいのか、そういう人を大切にしたいと思う作品になれば良いなと思います」とコメント。

再演に引き続きマタ・ハリ役を務める愛希れいかさんは衣裳係のアンナに言われる「生き抜くんです。生き抜いてこそマタ・ハリでしょう」という台詞を挙げ、「マタ・ハリとして人生を生き抜くことを一番大切に。自分自身も、フランクさんの素晴らしい楽曲を歌うには難しいこともあります。そこでくじけず負けず、とにかく立ち向かう、生き抜くということを大事に」と語ります。

加藤和樹さんは初演にラドゥー大佐と青年パイロットのアルマンの2役を演じ、再演ではラドゥー大佐役に。再再演では再びこの2役を回替わりで演じます。真逆にも思える2役を演じるにあたり、加藤さんは「頑張り過ぎない」ことを大切にしたと言います。「アルマンは7年ぶりだったので、若くいようと余計なことを考えてしまって。でも頑張り過ぎず、ちゃんと感情を相手からもらう、それを共有する。芝居の基本だと思いますが、今回改めて大切にしています」と語ります。

廣瀬友祐さんはラドゥー大佐役として本作に初参加。フランク・ワイルドホーンさんがカンパニーに向けて語ったという「この公演を1回しか観られないお客様もいるし、最後の観劇になるお客様もいる」という言葉を明かし、「1公演1公演、命をかけて臨みたい」「自分が思う人間らしさを失わずに役として生きたい」と意気込みます。

アルマン役として本作に初登場となる甲斐翔真さんは、「アルマンは恋模様がフューチャーされがちですが、1人の軍人として、戦時下にいることを常に忘れずに。ミュージカル作品には戦時下を描いた作品というのが多くあり、その中で人間の本当の心、本能が浮き彫りになるものだと思います。時代への向き合い方というのは常に意識していたいなと思います」と語りました。

『マタ・ハリ』ゲネプロリポート

ゲネプロリポートではマタ・ハリを柚希礼音さん、ラドゥーを加藤和樹さん、アルマンを甲斐翔真さんが演じた様子をお届けします。

ドイツ軍の侵攻が迫る、第一次世界大戦下のパリで、エキゾチックな踊りで人々を魅了したマタ・ハリ。ヨーロッパ中の皇族や政府高官、軍人をファンに持つ彼女は、戦時下でもヨーロッパを自由に行き来しています。

そこに目をつけたフランス諜報局のラドゥー大佐は、断れば彼女が隠している生い立ちを暴くと仄めかしながらスパイとして働くように要求。戦闘機パイロットのアルマンと恋に落ちたマタ・ハリは、自分の人生を生きるべく、一度だけスパイを務めることを決心します。

柚希さん演じるマタ・ハリは、様々な過酷な人生を乗り越えてきた故の達観した様子と、人々を惹きつける妖艶な笑みが印象的。数奇な運命に翻弄されながらも、優雅に誇り高く生き続けようとする生き様に美しさを感じます。

加藤和樹さん演じるラドゥーはフランス諜報局の大佐として厳しい戦況を打破すべく、マタ・ハリを利用しながらも、彼女に惹かれていく姿を人間らしく表現。自分の任務とは裏腹に感じる愛情に戸惑いながら、歪んだ選択をしてしまう彼の人生を繊細かつ情熱的な歌唱で描いていきます。

一方、青年パイロットのアルマンを演じる甲斐翔真さんはマタに真っすぐな愛を示す純朴さを温かく表現していきます。ラドゥーとは陰と陽の関係性になるアルマン。人生を諦めたくなるような戦時下でも、少年のようなピュアさを失わないアルマンを嫌味なく演じられるのは、甲斐さんの作品と役に真っ直ぐ向き合う人柄が滲み出るからなのかもしれません。

そして時に挫けそうになるマタを力強く支え続ける衣裳係のアンナを春風ひとみさんが圧巻の演技力で演じます。

本作では戦争によって「普通の幸せ」を奪われた人々、そして恐怖を抱えながら戦地に向かうことになる若者たちが丁寧に描かれます。「普通の幸せ」が欲しい。その願いは、現代の私たちに「普通の幸せを守れるのか」と問いかけてくるようです。

撮影:岡千里

時代に翻弄されながらもマタ・ハリは、美しく誇り高く生き抜くことを選び続けます。彼女が人生を通して貫いた美学は時代を超え、生きづらさを抱える多くの人に届くはずです。

ミュージカル『マタ・ハリ』は2025年10月1日(水)から14日(火)まで東京建物 Brillia HALL、10月20日(月)から26日(日)まで梅田芸術劇場メインホールにて上演。公式HPはこちら

Yurika

ワイルドホーンさんのキャッチーで壮大な音楽が、マタ・ハリの美しく力強い人生を彩ります。物語が展開していく舞台上で、1人の若い兵士が戦地にいる姿が描かれ続けるのが印象に残りました。