こまつ座第156回公演の演目は、明治時代の詩人・石川啄木の人生を描いた井上ひさしさんの戯曲『泣き虫なまいき石川啄木』。2025年12月に東京都と啄木の出身地である岩手県で公演を行います。

井上ひさしが見つめた石川啄木の生涯とは

『泣き虫なまいき石川啄木』は、戯曲から小説、エッセイに至るまで多彩な作品を残した井上ひさしさんによる石川啄木の評伝劇です。

井上さんは、1984年に『頭痛肩こり樋口一葉』の公演をもって劇団・こまつ座を旗揚げ。以降は座付作者として、2009年の『組曲虐殺』まで共催を含め25もの作品を執筆しました。こまつ座では現在も井上さんに関係する作品を専門としており、年平均で4~6作を上演。東京の劇場だけでなく全国組織の演劇鑑賞団体の各ブロックを巡演し、舞台が生み出す感動を届けるために活動しています。

本作は1986年のこまつ座第7回公演において初演され、2001年の再演を経て、今回が24年ぶり3度目の上演となります。

主人公は、歌集『一握の砂』や『悲しき玩具』で知られる歌人・詩人の石川啄木。「東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる」のように、彼の詠んだ歌を見聞きしたことのある方も多いのではないでしょうか。

石川啄木は本名を一(はじめ)といい、岩手県盛岡市で生まれました。学生時代に文学で身を立てることを志した啄木は一度東京へ出たものの、自らの病気により帰郷。その後は職を転々としながら各地を移り住み、1908年に再び上京します。そして働きながら文学活動に励みますが、生活は苦しく、1912年に26歳の若さでこの世を去りました。

貧困や家庭内トラブル、将来への不安。現代を生きる私たちにとっても身近な問題に対し、石川啄木はどのように向き合ったのか。その姿を通して作者の井上ひさしさんが伝えたかったことは何なのか。自分の生き方について改めて考えたくなります。

<あらすじ>
明治45(1912)年初夏、啄木の死の翌年、妻・節子は療養のため千葉房総の知人の別荘の離れに長女・京子を伴い身をよせていた。啄木から、自分が死んだすべて焼き捨てるようにと厳命された大学ノートを大事に抱え、啄木最後の3年間の日記を読み始める節子。その節子の声と共に、舞台は明治42年7月、東京市本郷区弓町床屋「喜之床」2階の六畳二間、啄木一家の住まいへと遡っていく。

再々演の演出家とキャストは?

再々演となる舞台『泣き虫なまいき石川啄木』には、演出家の鵜山仁さんが新たな表現によって挑みます。文学座に所属する鵜山さんは、これまで数多くの作品に携わってきました。その実力と功績は、読売演劇大賞をはじめとする受賞歴からも読み取れます。直近では、2025年5月のミュージカル『二都物語』にて2013年の初演に引き続き、翻訳・演出を担当。7月から8月にかけては、こまつ座の第154回公演『父と暮せば』で井上ひさし作品の演出を手掛けました。さらに、10月末に控える文学座の公演『華岡青洲の妻』での演出も担っています。

キャストに注目してみると、主役の石川一(啄木)を演じるのは俳優兼クリエイターの西川大貴さんです。2022年のミュージカル『ミス・サイゴン』や2024年の『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』など数々の作品に出演し、2025年8月のミュージカル『あんず~心の扉をあけて~』では演出も併せて担当。また、YouTubeチャンネルでの動画配信やイベントの企画といった形で外部への発信にも積極的に取り組んでいます。

啄木の最晩年にあたる3年間を回想する妻の節子役は、ミュージカルを中心に活動する北川理恵さん。こまつ座とは、2018年の舞台『マンザナ、わが町』で新キャストとして参加した縁があります。

このほか、啄木を取り巻く家族や友人が登場。

舞台や映画、テレビドラマで幅広い役を柔軟に演じる山西 惇さんが啄木の父・一禎(いってい)役に。本公演の直前までKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』にも出演しており、確かな演技力で物語の展開を支えてくれるでしょう。

啄木の母・カツ役には、多くの舞台作品で活躍し続ける那須佐代子さんがキャスティング。2021年には『リチャード二世』『ミセス・クライン MrsKLEIN』での成果により、第28回読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞しています。

啄木の妹である光子役を務める深沢 樹(みき)さんは、劇団文化座の所属。本作と同じく鵜山さんが演出した2024年の『花と龍』や2023年の『毋』に出演しました。

そして、同郷の友人として啄木を助け、彼の死まで親交が続いたという金田一京助役を、俳優の眞島秀和さんが演じます。現在放送中の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』における徳川家治役での熱演が記憶に新しく、啄木との関係性にも注目です。

こまつ座第156回公演『泣き虫なまいき石川啄木』は2025年12月5日(金)から21日(日)まで、東京の紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演。その後、岩手公演として12月24日(水)に盛岡劇場 メインホール、12月26日(金)に西和賀町文化創造館 銀河ホールに巡演予定です。

なお、東京公演の期間中にはスペシャルトークショーも開催されます。12月10日(水)13時公演後に演出家の鵜山仁さん、12月13日(土)13時公演後に西川大貴さん・山西 惇さん・眞島秀和さん、12月14日(日)13時公演後に北川理恵さん・那須佐代子さん・深沢 樹さんが登壇予定。こちらに関しては、開催日以外のチケットを持っている方でも入場可能とのこと。

詳細はこまつ座公式HPの公演情報をご確認ください。

もこ

井上ひさしさんの作品を深く理解しているこまつ座の公演で、24年ぶりに上演される本作。貧窮の中でも懸命に生きた石川啄木の短い人生が、私たちの心に温かくも深く刺さるのではないでしょうか。