名匠・黒澤明監督と俳優・三船敏郎が初タッグを組んだ映画『醉いどれ天使』。当時も映画公開後に舞台作品として上演されたという本作は、台本が近年偶然にも発見され、2021年に舞台化。そして2025年11月、主演に北山宏光さんを迎え、再び幕が上がります。開幕を前に製作発表会見が行われました。

無骨な男・松永の「人間らしい心の弱さ」を大切に

製作発表会見には、演出の深作健太さんと、本作に出演する北山宏光さん、渡辺 大さん、横山由依さん、岡田結実さん、阪口珠美さん、佐藤仁美さん、大鶴義丹さんが登壇しました。

黒澤明監督が手がけた映画『醉いどれ天使』について、「僕のおばあちゃんがダンサー役で出演していて、子供の頃から撮影現場での思い出話などを聞いておりました。父の深作欣二はこの作品を見て映画監督を志したという、非常に因縁深い作品」と語った深作健太さん。

2025年の上演にあたり、「蓬莱竜太さんの脚本、三池崇史さんの演出による舞台『醉いどれ天使』(2021年)を観て、作品で描かれる結核のパンデミックと、コロナ禍のパンデミックが重なって非常にタイムリーな演出になっていたことが記憶に残っています。またぎんという女性の役をヒロインとしてフューチャーした蓬莱さんの脚本が非常に魅力的なものだったので、新しいキャストとともにどう取り組むか楽しみにしていた」と語ります。

また本作の演出については「日本の演劇は、戦前・戦後から戦争というものと先輩たちが格闘してきました。そして今も、新劇の先輩たちが反戦劇を定期的に上演しているわけですけれども、今僕たちが作るこの演劇というのは、ガザの状況などもある中、絶えず戦争が終わらなかったこの地球上で、平和な日本を作った先輩たちの物語を刻みつけることができるか、そこを大切に作っていけたらと思っています。舞台上には現代に繋がる瓦礫の山が出来上がる予定です。現代劇としてこの劇を伝えることができたら」と明かしました。

「自分なりの松永を演じていけたら良いなと思いますし、観てくださった方の心に残る、そしてそこからまた咀嚼して、何か体に染み込んで考えていただける作品を目指して」と意気込んだ北山宏光さん。

肺病を患いながらも命を燃やすヤクザ・松永という役柄については、「荒い言葉遣いも含めて一見無骨な人ですが、実は人間らしい心の弱さみたいなものを、台本から抽出できたらいいなと思っています。観た方が共感してもらえるような落とし所を表現することで僕なりの松永を演じられるんじゃないかなと思っています」と語ります。

町医者の真田を演じる渡辺 大さんは、「歴史ある、伝統的な作品ですが、深作さんがパンクにロックに、色々なテイストを入れてきて、令和版・新解釈『醉いどれ天使』になっているんじゃないかと思います」とコメント。

真田役については「映画では志村喬さん、前回の舞台では高橋克典さんが演じられ、どちらかというと松永との関係性は親子のようでした。ただ僕と北山くんは歳が1歳しか変わらないので、どちらかというと歳の離れた兄貴くらいの感じで関係性を作っていこうと思っています。北山くんは非常にクールにかっこよく松永をやっているのですが、そこには肺病への怖さの裏返しというところもあるので、“この明るい光の中に入って来い”と誘う天使のような、明暗のうちのとびきりの「明」に引きずり込んでやろうと思いながらやっています」と語ります。

松永に密かに想いを寄せるぎんを演じる横山由依さんは、「夢や希望に対する気持ちが元々すごく強い人だと思っていて、そこへの原動力がぎんを突き動かしていると思うんです。それは自分の夢とか希望とかもそうですけれど、他人の夢や希望も応援できる、他人に対しても温かい気持ちを生み出せる人だと思うので、そういった部分を演じられたら」とコメント。

ぎんをWキャストで演じる岡田結実さんは、念願だったという舞台初出演。「深作さんが常におっしゃる“戦争というものを偽物に感じてほしくない、本当にあるものだから”という言葉を胸に、今の時代、目を背けずに向き合っていかなければならない現実として、思いを込めて頑張りたい」と意気込みました。

松永の恋人でダンサーの奈々江を演じるのは、阪口珠美さん。「現実主義な女性で、生きるためなら手段を選ばない、自分が上に行きたいという思いが強い女性ですが、そうしなければ生きていけない世界というのは虚しくて可哀想だなとも思います。強さの裏にある隠れた気持ちを汲み取って、奈々江の本当の気持ちを表現できるよう頑張りたい」と語ります。

真田の診療所に住み込む美代を演じる佐藤仁美さんは本作に出てくる女性たちについて、「ぱっと見は脆くて、悪い男が好きなように見えるのですが、全員実は芯が強くて、情に厚くて、男に合わせているようで合わせてもらっているような女性像です。全員バックボーンも年齢も違うので、その中で(美代を)違う色として表現できたら」とコメント。

松永の兄貴分・岡田を演じる大鶴義丹さんは、「戦争でみんなが等しく傷ついて、そこから新しい世界に向かおうという中、私1人だけが“そんなのは認めない”と全員の邪魔をする悪魔的な存在です。恐ろしく演じられれば、より対照的に、新しい世界に向かいたいという光が輝くんじゃないかと思い、一生懸命、真っ黒くやっております」と作品での役割について語りました。

最後に北山さんから「歴史のある作品であり、僕たちが今演じることに意味があるんじゃないかということに向き合うわけですが、きっと観てくださった方の心に重厚感のあるメッセージが届くと思います。ただ深作さんが演出することによって、エンタメにも昇華しているんじゃないかと思いますので、是非とも足を運んでいただけたら」とメッセージが贈られ、会見が締め括られました。

撮影:山本春花

舞台『醉いどれ天使』は2025年11月7日(金)から23日(日)まで明治座にて上演。11月28日(金)から30日(日)まで愛知・御園座、12月5日(金)から14日(日)まで大阪・新歌舞伎座にて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

蓬莱さんの脚本、深作さんの演出、そして新キャストによってどのように“令和版”が出来上がるのか楽しみです。